SZAの「Drive」を考察&解説 / 成功がくれた孤独と、夜明けを探すドライブ

現代音楽シーンを代表する歌姫、SZA(シザ)。記録的ヒットとなったアルバム『SOS』のデラックス版『LANA』に収録された「Drive」は、成功の光と影、その中で揺れ動く彼女の内面を生々しく切り取った一曲です。

富と名声を手にした一方で、拭いきれない孤独と不安。その葛藤から逃れるように、ひたすら車を走らせる夜。本作で描かれるのは、そんなスターダムの裏側にある脆弱さと、それでも自分を取り戻そうともがく人間のリアルな強さです。

本記事では、「Drive」の歌詞解説を中心に、SZAが託した想いや、その背景にある物語を一つひとつ考察していきます。

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SZAの「Drive」はどんな曲?


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「Drive」は、SZAが2024年にリリースしたアルバム『SOS』のデラックス・エディション『LANA』に収録された楽曲。俳優ベン・スティラーを起用したMVも話題となった、デラックス版のプロモーションを象徴する一曲です。

楽曲のテーマは、成功の裏で増していく孤独感と、精神的な安らぎを求める自己探求の旅。深夜から夜明けまで、あてもなく車を走らせる行為を通して、心の平穏を取り戻そうとする切実な願いが歌われています。

強がりの下に隠された、痛切な心の叫び

この曲の最大の魅力は、痛切な孤独という「弱さ」と、それを隠すかのような「強がり」が同居している点です。「誰かが私を恋しがってくれてたらいいのに」と心の脆さを吐露する一方で、ヴァースでは自分を妬む人々に対し、攻撃的な言葉を投げかけます。

しかし、その強気な態度は、むしろ彼女の深い孤独と傷つきやすさの裏返しのように聞こえます。これ以上傷つかない為の自分を守るための鎧であり、攻撃的に見える言葉の裏の、彼女の人間らしい脆さが浮かび上がってくるようです。

深夜のドライブを彩る、ミニマルなサウンド

楽曲は、アコースティックギターの柔らかな音色を基調とした、極めてミニマルなサウンドで構成。この静かで落ち着いたトラックが、深夜に一人で運転する情景や、内省的なムードを強調します。

SZAのボーカルも、メロディアスに歌い上げる部分と、語りかけるようにラップする部分がシームレスに変化。緩急あるボーカルワークが、穏やかながらも退屈させない、深みのある楽曲を生み出しています。

SZAの「Drive」を深読みする

ここからは「Drive」の歌詞の内容を、和訳を用いながら考察していきます。(繰り返しの部分は省略させていただきます。)

※ここでは直訳ではなく、独自の解釈などの意訳を含む場合があります。本記事の解釈が正解と思わず、「考察」「感想文」程度にお読みくださいますようお願いします。

プレコーラス / 真夜中のドライブと心の葛藤

I been up ‘til midnight, drivin’ to nowhere
Bumpin’ a slow song, can’t get my head clear
I been up ‘til sunrise, headed to nowhere
Hopin’ that someone’s missin’ me somewhere

Lyric

真夜中まで起きてて どこにも向かわず車を走らせてた
スローな曲をかけて 頭の中がぐちゃぐちゃで
夜明けまでドライブして 行き先なんてなくて
どこかで誰かが私を恋しがってくれてたらいいのにって ただ願ってた

この楽曲の情景とテーマを象徴するパートです。「drivin’ to nowhere(どこにも向かわず車を走らせる)」という行為は、物理的な行く当てのないクルージングであると同時に、精神的な迷いや混乱のメタファーとも解釈できます。

彼女はスローな曲を聴いても、ぐちゃぐちゃな頭の中は整理できません。そんな混乱した状態で「どこかで誰かが私を恋しがってくれていたら」と願う歌詞には、華やかな世界の裏側で彼女が抱える、生々しい孤独感が表れています。

コーラス / 自分を取り戻すための、切実な願い

Drivin’, just drivin’
Just tryin’, just tryna get my head right
It’ll all be better when, when I
When I, just gotta get my head right

Lyric

走るだけ ただひたすら走ってる
頭の中を整理したくて もがいてる
きっと全部うまくいく そう、私が
私が心の整理さえできればね

サビで繰り返されるのは、「get my head right(頭の中を整理したい、心を取り戻したい)」という、もがくような心の叫び。

問題は周りの環境ではなく、自分自身の心の内にあると彼女は理解しています。だからこそ、ただひたすらに「ドライブ」という行為に没頭し、自分自身と向き合おうとする。その痛々しい必死さが印象深いです。

ヴァース1 / 成功の空虚さと、自己防衛のカウンター

And it don’t hit the same when you’re all alone
And the money’s insane, I know
But it don’t fill the void at all
And I promised my mom I’d do better
But they keep trying me so I’m
With all the bullshit and fuck it all up
I keep pretеndin’ everyone’s as good as mе
Shit’s so weird I cannot speak
Balled so hard, I think I peaked
All my exes still love me
Call me up, he wanna freak
All my opps lookin’ distressed
How you copy then compete?
Oh, you just mad that your nigga want me
Oh, you just mad that we went ten weeks
Oh, you just mad that your ass ain’t free
Scared to say shit so you fake kiki
Scared to cut a nigga so I left, ski-ski
I ain’t scared of shit so I swing my meat
I ain’t scared of shit so I let mine go
Pop my shit ‘cause I can, I know

Lyric

ひとりぼっちじゃ 何もかも違って感じる
お金はすごく稼いでる、わかってる
でもその空虚は埋まらないの
ママには「ちゃんとやるよ」って約束したのに
周りは私を試してばかりで
くだらないことばっか、全部ブチ壊しそう
みんな私と同じくらいイケてるふりしてるけど
変な空気すぎて 何も言えない
頑張りすぎて燃え尽きたかも
元カレたちはいまだに私に夢中
連絡してきてはヤリたがるし
アンチたちは焦ってばかり
マネしてるくせに勝とうとするなんて何様?
あんたの彼が私に惹かれてるのがムカつくんでしょ
わたしたち10週間も続いてたのが悔しいんでしょ
自由になれない自分がイヤなんでしょ
何も言えないからヘラヘラ笑ってごまかして
男を切る勇気ないくせに、私はさっさとバイバイ
怖いものなんてないから 自分をぶつけていく
遠慮しない、感じるままに進むだけ
だって、できるって知ってるから

このヴァースでは、彼女の感情が激しく揺れ動きます。

ポイント①:富では埋められない心の穴

冒頭では「お金はすごく稼いでる、でもその空虚は埋まらない」と、成功が必ずしも幸福に直結しない現実を告白。スターダムの頂点にいるからこその、深い孤独が滲みます。「Balled so hard, I think I peaked(頑張りすぎて燃え尽きたかも)」という一節には、成功のプレッシャーや疲弊感も感じられます。

ポイント②:強がりからくる、嫉妬への皮肉

しかし、ただ感傷に浸るだけではいられません。ここから見せる攻撃的な態度は、深い傷つきやすさを守るための自己防衛のようにも聞こえます。話題は自分を妬む人々(opps)へと移り、「How you copy then compete?(マネしてるくせに勝とうとするなんて何様?)」と一蹴。

「we went ten weeks(わたしたち10週間も続いてた)」という歌詞は、アルバム『SOS』がビルボードチャートで10週連続1位という歴史的快挙を成し遂げたことを指している、という考察があります。自身の偉業を武器に、「あなたの嫉妬の原因は、私の成功でしょ?」と痛烈な言葉で自分を武装する様は、逆に彼女の心の脆さを浮き彫りにしているようにも感じます。

– プレコーラス & コーラス繰り返し/省略 —

ヴァース2 / 雑音を断ち切り、自分を貫く決意

And I can’t lose my focus, I know if hope is the goal
Then I can’t succumb like these cum-guzzlers at all (Nope)
And I know that if love is my purpose
I can’t waste energy looking for enemies, I just dub it all
I’m anti-beef, half y’all bitches be too cheap
Half a milli when I bling, fuck I look like on my knees?
You really just mad ‘cause I make it look easy
I’m really this bad, you should see it 3D
Brought you this bag, you should spend it on me
All of my time precious, so be

Lyric

集中力は切らせない もし希望がゴールなら
くだらない女たちみたいに堕ちたりしない(絶対に)
愛が私の生きる意味なら
敵なんて探してる時間はない 全部スルーするだけ
争うのはまっぴら、あなたたちの半分は安っぽいし
ジュエリーだけで何千万、そんな私が頭下げると思う?
私が楽に見せてるからって、悔しいだけでしょ
ホントに私ってやばい女よ 立体で見たらもっとすごいわよ
あんたにこのバッグ買ってあげたんだから 私のために使いなさい
私の時間は価値があるの ちゃんとわかってて

ヴァース2では、他者への攻撃から一歩進んで、自分自身の生き方を貫くという強い決意表明がなされます。

ポイント①:争いの拒絶と自己防衛

「I’m anti-beef(争うのはまっぴら)」と宣言し、価値のない争いからは距離を置く姿勢を明確にしました。続く「Half a milli when I bling(ジュエリーだけで何千万)」というラインは、単なる富の自慢というよりは、「そんなレベルの私に、安っぽいあなた達が関わるのはお門違い」と、圧倒的な格の違いを見せつけることで、これ以上傷つかないように自分を守っているかのようです。

ポイント②:堕落への抵抗

「cum-guzzlers」という非常に挑発的な言葉を使い、品位を落としてまで成功にしがみつく人々を軽蔑。自分は希望を失わず、決してそのような存在にはならないという姿勢を示します。孤独や虚しさを感じながらも、アーティストとしてのプライドを必死に守ろうとする。そんな彼女の切実な心の声が聞こえてくるパートです。

– プレコーラス & コーラス繰り返し/省略 —

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