Burning Blue

Mariah the Scientistの「Burning Blue」を考察&解説 / 氷の心を溶かす青い炎

アトランタ出身のR&Bシンガー、Mariah the Scientist(マライア・ザ・サイエンティスト)が2025年にリリースした「Burning Blue」。約2年ぶりとなったこのカムバックシングルは、Apple Musicで初登場1位を獲得するなど大きな成功を収めました。

本作で歌われるのは、氷のように冷たい心を、炎のような相手が溶かしていくという、矛盾をはらんだ激しい恋の物語。「愛のための兵士」を自称する彼女の、脆さと強さが同居した複雑な感情が描かれます。

本記事では、歌詞の深掘りに加え、マライア本人が語る制作秘話も交えながら、この楽曲の世界観を解説していきます。

Mariah the Scientistの「Burning Blue」はどんな曲?


Apple Music

「Burning Blue」は、マライア・ザ・サイエンティストの4枚目のアルバム『Hearts Sold Separately』からのリードシングルです。楽曲のテーマは「激しい恋がもたらす感情の駆け引きと、絶対的な献身」。心を閉ざしていた主人公が、特別な相手によって情熱的な感情を取り戻す過程が、緊張感と共に描かれています。

サウンドは、彼女自身が「A&B(Alternative & Blues)」と称する、アンビエントで夢見心地な雰囲気が特徴。ドレイクとの仕事で知られるNineteen85らがプロデュースを手掛け、繊細で空気感のあるボーカルをムーディーなトラックが包み込みます。

楽曲の成功とアーティストの反応

「Burning Blue」はチャートを駆け上がり、彼女にとってキャリア最大のヒットとなりました。この成功に対し、マライアは「正直、驚いている」と率直な気持ちを語っています。

これまで経験したことのない成功に戸惑いながらも、初めてニューヨークのラジオ局「Hot 97」で自分の曲が流れた瞬間は、非常に感動的な体験だったそうです。「初めてレコーディングした街で自分の曲が流れるなんて、本当にクレイジーだ」と、その喜びを語っています。

アーティスト本人が語る「Burning Blue」制作秘話

この楽曲の背景には、どのような想いやエピソードが隠されているのでしょうか。マライア自身の言葉から紐解いていきます。

①タイトルに特定の意味はない?深まる解釈の面白さ

マライアは、「Burning Blue」という印象的なフレーズ自体に、「特定の意味を込めたわけではない」と明かしています。制作時のフィーリングやバイブスをそのまま楽曲に落とし込んだ結果、この言葉が生まれたのだとか。

「人はときどき曲を必要以上に分析して、”自分がこうあってほしい”と思う意味にしてしまうことがあると思うの。でもそれはそれでいいと思う。結局、曲ってそういうものだし、解釈は自由だから。ただ、”burning blue”というフレーズ自体には、特定の意味があるわけじゃないの。ただ…時には雰囲気を掴むことがあって、その雰囲気が”burning blue”って感じだっただけ。私にはそう聴こえたのよ。」Complex PLEASE EXPLAIN

あるリスナーは「青は安全や安心を象徴する色」として捉え、「Burning Blue」を危険ではなく「守られた炎」のイメージに結びつけた解釈も寄せられているそうですが、それも彼女が意図したものではないとのこと。

ただ、「自分が無意識に持っていた知識が、そういった深読みできる表現に繋がったのかも」とも語っており、リスナーがそれぞれ自由に解釈することを歓迎しています。

「人は私が何を意味したのか理解しようとするけれど、結局のところ”私が意味したことは、あなたがそう思ったこと”なの。だって、曲を聴くたびに、その意味は変わる可能性があると思うから。」Complex PLEASE EXPLAIN

「私が何を意味したかは、あなたがどう思うかによって変わる」という言葉に、彼女のスタンスが表れています。

②失恋ソングではなく「温かいラブソング」

「Burning Blue」は、切ない雰囲気から失恋ソングと捉えられがちですが、マライア本人は「ハートブレイクソングではない」と明確に否定しています。

「この曲は実際、失恋ソングじゃないってこと」Complex PLEASE EXPLAIN

実はこの曲、恋愛に一度は背を向けた彼女が、再び前向きになれた実体験が反映されたものだそう。

恋愛にうんざりし、「もう二度と恋はしない」とまで決めていた時期に現在の恋人(=ヤング・サグ)と出会い、「もう一度だけ試してみよう」と思った時の前向きな感情が歌われています。

「曲を書いたとき、つまり私が恋愛を始める前は、こう思っていたわ。”私はもう二度と恋愛なんてしない。やりたくない。もううんざり。くだらない。”…本当にそう思っていたの。私はただ全部を投げ出して、もう恋愛はしたくないと考えていたわ。」HOT 97

「でも、その後で彼に出会って、彼のことが好きになって、”最後にもう一度だけ試してみよう”と思った。そしてそれはうまくいったし、今もちゃんとうまくいってる。」HOT 97

インタビュアーからは「あなたは”冷たい”って歌うけど、私にはとても温かくて、愛情にあふれた曲に聴こえる」と言われているように、歌詞には冷たいメタファーが登場しつつも、楽曲はその言葉のトーンを裏返すラブソングであるとマライヤは語ります。

「たとえばザ・ウィークエンド、私も大好きなんだけど、彼の曲って時々すごくダークに響くことがある。でも実際には、それはただ言葉の響きによるだけなのよね。で、彼はそれをアップビート、つまりテンポの速い雰囲気と並置するの。そういう表現で、すごく暗いことを歌っていたりする。でも私はそういうのがすごく好き。」Complex PLEASE EXPLAIN

③歌詞先行の作曲とサウンドの進化

「Burning Blue」を含む次のプロジェクト(アルバム)では、彼女にとって新しいアプローチが取られました。それは、まず歌詞を書き、それに合わせて後からビートを構築するという手法。この歌詞先行のプロセスが、より深い感情表現を可能にしたのかもしれません。

また、元となるビートはプロデューサーのJetski PurpがYouTubeで見つけたものだった、という驚きのエピソードも。それを、著名プロデューサーのNineteen85が「マライアのビジョンを損なうことなく、より壮大で意図的なサウンドへ」と進化させ、現在の形が完成しました。

「私はYouTubeでビートを探すのにどっぷりハマるタイプなの。実際、このビートもYouTubeで見つけたのよ。それを、Nineteen85という別のプロデューサーと一緒に進化させたの。でも、もともとの制作者はJet Ski Perpという人で、偶然見つけた感じだったわ。」Complex PLEASE EXPLAIN

④MVで見せた新たな挑戦

ミュージックビデオでは、本格的なダンスパフォーマンスに初挑戦しています。これは、久しぶりの新曲リリースにあたり「以前と同じことはしたくない」という想いから、自身のコンフォートゾーンから一歩踏み出すための挑戦だったのだとか。

「振り付けをやってみたいと思ったの。長い間新曲を出していなかったから、変化をつけたかった。同じことを繰り返したくなかったのよ。これまで振り付けに挑戦したことはあったけど、自然に感じられなかった。でも今回は、実際にそのアイデアにコミットしたの。」Lyrical Lemonade TV

インスピレーションの源は、彼女が敬愛するアーティストのCiaraや、映画『ア・フュー・グッド・メン』。自らの意志で挑戦したこのビデオは、撮影も編集も驚くほどスムーズに進み、「これまでの自身の作品で最高のものになるだろう」と自信をのぞかせています。

「もちろんシアラ。ビデオのいくつかの部分は、彼女が完全に私にインスピレーションを与えてくれたと感じているわ。彼女もアトランタ出身で、私と同じ蠍座なの。」Lyrical Lemonade TV

「ちょうどその頃、トム・クルーズとデミ・ムーアが出演している映画『ア・フュー・グッドメン』を観ていたの。銃が波打つように揃って動くところとか、そこから取り入れたい要素があったわ。明らかにミリタリー的なインスピレーションね。」Lyrical Lemonade TV

A FEW GOOD MEN [1992] – Official Trailer
映画『ア・フュー・グッド・メン』

キューバの米軍基地で起きた殺人事件を巡る法廷サスペンス映画。若き法務官(トム・クルーズ)が、被告となった兵士を弁護する中で、軍上層部が隠す巨大な陰謀に迫ります。ジャック・ニコルソン演じる基地総司令官との法廷での対決は圧巻で、「お前は真実を処理できない!」という名台詞も生まれました。息をのむ心理戦と、男たちの信念がぶつかり合う傑作ドラマです。

Mariah the Scientistの「Burning Blue」を深読みする

こうした背景を踏まえつつ、ここからは改めて歌詞の世界観を深掘りしていきます。(繰り返しの部分は省略させていただきます。)

※前述の通り、アーティスト本人は自由な解釈を歓迎しています。ここでは豊かな比喩表現から広がる世界観を、ひとつの感想文としてお読みください。

ヴァース1 / 氷の心に灯った「青い熱」

I got that blue fever
Cold as ice ‘til you came near
You’re like another fire-breathing creature
But it don’t burn how it appears
It’s true you could make me melt
But don’t you forget it if the person you fell for ever do, freezes
It’s only because you ain’t here

Lyric

私の中にあるのはブルーの熱
氷みたいに冷たかった、あなたが近づくまでは
あなたは火を吐く生き物みたい
でも見た目ほどには燃やさない
本当は、あなたなら私を溶かせる
だけど覚えておいて──もし私が急に冷たくなったら
それはただ、あなたがそばにいないから

楽曲は、主人公が抱える「blue fever(青い熱)」という、矛盾した感情の告白から始まります。

ポイント①:恋に閉ざされた「氷」の心

かつての恋愛経験からか、彼女の心は「氷のように冷たい(Cold as ice)」状態でした。

しかし、そんな彼女の前に現れたのが「火を吐く生き物」のようなあなた。その情熱だけが、彼女の心を「溶かす(melt)」ことができる唯一の存在です。

ポイント②:あなたがいなければ凍り付く

しかし、この関係は絶対的なものではありません。「もし私が急に冷たくなったら、それはただ、あなたがそばにいないから」という一節は、彼女の愛情が相手の存在に完全に依存していることを示唆します。

これは甘い言葉であると同時に、「私を凍らせないで」という切実な願いでもあるのではないでしょうか。

コーラス / あなたがいれば、他はどうでもいい

I can feel it in the air
My cold sweat dripping everywhere
I’m all wet
I don’t even care as long as you’re
Right (Right) here (Here) laying in my bed
I’ll forget (Forget) what everyone said
I’m all in
I couldn’t care less as long as you’re

Lyric

空気の中にそれを感じるの
冷や汗が全身を流れていく
体中、濡れてしまっても
でも気にしない、あなたがいるなら
今ここで、私のベッドに横たわってくれるなら
みんなが何を言おうと忘れてしまう
全てを賭けてもいい
あなたさえいてくれるなら、他はどうでもいい

コーラスでは、感情がよりフィジカルな領域へと高まっていきます。「冷や汗が滴る」「体中が濡れる」といった表現は、緊張感や興奮、そして官能的な雰囲気を鮮明に描き出しています。

周囲の雑音(everyone said)など気にしない、全てを賭けてもいい、という彼女の覚悟は、まさに盲目的。「あなたさえいてくれれば、他はどうでもいい」というフレーズに、この恋の持つ抗いがたい引力と、ある種の危うさが凝縮されています。

ヴァース2 / 忠誠と裏切り、愛のための兵士

As long as you’re a true (True) leader (Leader)
Then I’ll oblige, promise to please ya (Please ya)
But if you open fire, then it’s treason
And I decide to go out swinging
If you shoot, then you can bet
Every single dollar and your last few cents
That I will too, and I mean it
Tell me, where do we go from here?

Lyric

あなたが本物のリーダーでいてくれるなら
私は従うわ、あなたを喜ばせるって約束する
でももし私に銃を向けたら、それは裏切り
私は最後まで戦って終わる
あなたが撃つなら、賭けてもいい
一ドル残らず、最後の小銭までもね
私も同じように撃ち返す。本気で言ってる
ねぇ、この先、私たちはどこへ行くの?

このヴァースで、二人の関係性に潜むルールと緊張感が明らかになります。

ポイント①:対等な関係への要求

彼女は、相手が「真のリーダー」である限り、服従し、尽くすことを約束します。これは一方的な関係ではなく、尊敬できる相手だからこそ身を捧げるという、彼女なりの忠誠の形。

ポイント②:裏切りは許さない

しかし、その忠誠は絶対ではありません。「もし私に銃を向けたら、それは裏切り(treason)」であり、その時は「最後まで戦って終わる(go out swinging)」と宣言。

相手が撃つなら、自分もためらわずに撃ち返すという強い意志を示します。これは、ただ尽くすだけの弱い存在ではなく、自分の尊厳を守るためには戦う覚悟を持った、対等なパートナーとしての力強い表明です。

最後の「この先、私たちはどこへ行くの?」という問いかけは、この緊張感に満ちた関係の未来を案じる、彼女の不安な心の内を映し出しています。

ポスト・コーラス / 静かに、しかし激しく「青く燃える」

Burning blue
Burning blue
I’m burning blue
I’m letting it burn, letting it burn

Lyric

青く燃えて
青く燃えて
私は青く燃えている
この炎を燃やし続けて、燃やし続けて

楽曲のタイトルでもある「Burning blue」というフレーズが繰り返され、この曲の感情の核心へと迫ります。

一般的な赤い炎が情熱の象徴であるのに対し、「青い炎」はより高温で、静かに燃えるイメージがあります。

それは、表面的にはクールに見えても、内側には誰よりも熱い情熱を秘めている彼女自身の姿。または、「見た目ほどには燃やさない」と歌われた、この恋の特殊な熱そのものを指しているのかもしれません。

この静かで激しい炎を「燃やし続けさせて」と歌うことで、危うさを知りながらも、この恋に身を委ねていく彼女の決意が感じられます。

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