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SZAの「Good Days」を考察&解説 / 祈るように歌う未来への序曲

2020年のクリスマス、世界中が困難な状況にあった中で、現代のオルタナティブ(R&B)シーンを代表する歌姫SZA(シザ)は一曲のシングルをサプライズ・リリースしました。それがこの「Good Days」です。

内省的で、痛みを伴いながらも、その先にある確かな希望を描き出す本作。不安や後悔に揺れる心の内を正直に吐露しつつ、それでも「良い日々」を信じようとする姿は、多くのリスナーにとってのアンセムとなりました。

本記事では、そんな「Good Days」の歌詞考察を中心に、公式情報や和訳を交えながら、世界観を深掘りしていきます。

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SZAの「Good Days」はどんな曲?


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「Good Days」は、SZAが2022年にリリースした記録的ヒットアルバム『SOS』からのリードシングル。ですが、初出は2020年のクリスマスにファンへのサプライズとして公開されたものでした。

楽曲のテーマは「心の葛藤の中で、内なる平和と未来への希望を見出す」こと。終わった恋の思い出や自信の喪失に苦しみながらも、自分の心の中に「良い日」を思い描き、前を向こうとする揺るぎない決意が歌われています。

「”Good Days”はマントラ。信念以上のもの。」Good Days (Official Fan Video – Part 1)

SZA自身、この曲は単なる歌ではなく、自分自身に向けた「マントラ(呪文)のようなもの」だったと語っています。希望が持てるか確信がなくても、昨日より少しでも良くなる可能性を信じる。そんなわずかな光こそが、本曲の核心です。

「”Good Days”は、私たち全員がつながりを見つけて感じようと必死にもがいていることを思い出させるもの。毎日が前日よりほんの少しでも良くなる可能性があると信じること――それがすべて。可能性!! 希望の”かけら”…大量の希望なんかじゃない。自分たち自身へのリマインダー…ときには、その“かけら”だけで十分だということ。」Good Days (Official Fan Video – Part 1)

そのメッセージ性と音楽性が高く評価され、第64回グラミー賞「最優秀R&B楽曲」にノミネート。SZAにとってソロ名義では初の全米トップ10ヒットを記録する、キャリアを代表する一曲となりました。

内なる闘いと、そこから生まれる希望の光

歌詞の中心にあるのは、「“Got me a war in my mind”(心の中は戦場みたい)」という一節に示される、激しい内面の葛藤。

過去の恋愛が残した傷や自己不信に苛まれながらも、コーラスでは「Still wanna try, still believe in good days(まだ挑みたい、まだ信じてる、いい日々を)」と、希望を手放さない決意が歌われます。

絶望と希望の間で揺れ動く、生々しい感情の描写こそが、この曲が持つ最大の魅力と言えるでしょう。

心を包む、浮遊感のあるドリーミーなサウンド

プロダクションには、SZAの長年のコラボレーターであるカーター・ラングらを迎え、オルタナティブR&Bとネオソウルが溶け合ったようなサウンドを構築。印象的なギターリフのループが、夢見心地な雰囲気を生み出しています。

楽曲をさらに特徴づけているのが、天才音楽家ジェイコブ・コリアーによる多重的なバックグラウンドボーカル。SZAのなめらかな歌声と彼のハーモニーが重なり合い、幻想的な世界観が演出されています。

Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)

ロンドン出身の音楽家ジェイコブ・コリアー(1994年生)は、歌・楽器・作曲・編曲を自在に操るマルチ・インストゥルメンタリスト。YouTubeでの多重録音カバー動画で注目され、クインシー・ジョーンズらに才能を見出されました。ジャズやR&Bからクラシックまで幅広い音楽を融合し、複雑なハーモニーや観客参加型のライブで世界を魅了。グラミー賞を多数受賞し、音楽教育にも力を注ぐ、現代音楽界の革新者です。

SZAの「Good Days」を深読みする

ここからは「Good Days」の歌詞の内容を、和訳を用いながら考察していきます。

※ここでは直訳ではなく、独自の解釈などの意訳を含む場合があります。本記事の解釈が正解と思わず、「考察」「感想文」程度にお読みくださいますようお願いします。

ヴァース1:SZA / 心の平穏と、忍び寄る過去の影

Good day in my mind, safe to take a step out
Get some air now, let yo’ edge out
Too soon, I spoke
You be heavy in my mind, can you get the heck out?
I need rest now, got me bummed out
You so, you so, you
Baby, baby, babe
I’ve been on my empty mind shit

Lyric

心の中は今日は晴れ、そっと一歩外へ踏み出せそう
外の空気を吸って、肩の力を抜く
でも、気が楽になったなんて、早とちりだった
あなたが心を重くしてる、もう消えてくれない?
今は休みたいのに、気分は沈んだまま
ああ、あなたって…
Baby, baby, babe
最近ずっと、心は空っぽなまま

曲は、心の平穏を取り戻したかのような穏やかなモノローグから始まります。

ポイント①:解放を意味する「edge out」

「let yo’ edge out」というフレーズには、いくつかの意味が込められていると考察されています。[R]

一つは、張り詰めた神経(edge)を「解放する=リラックスする」という意味。もう一つは、ジェルで固めた髪の生え際(edges)を「解放する=ありのままの自分になる」というニュアンスです。

どちらにせよ、ようやく自分を解放できる、と思った矢先、彼女は「Too soon, I spoke(早とちりだった)」と本音を漏らします。

ポイント②:頭から離れない「あなた」の存在

心の平穏は長くは続きません。すぐに元恋人の記憶が「heavy in my mind(心に重くのしかかり)」、彼女の心をかき乱します。

追い出したいのに追い出せない、という共感性の高い葛藤。このパートは、癒やしの過程が決して一直線ではないことをリアルに描き出しています。

プレコーラス:SZA / 心の戦争と、手放す決意

I try to keep from losin’ the rest of me
I worry that I wasted the best of me on you, babe
You don’t care
Said, “Not tryna be a nuisance, this is urgent”
Tryna make sense of loose change
Got me a war in my mind
Gotta let go of weight, can’t keep what’s holdin’ me
Choose to watch while the world break up in front of me

Lyric

残された私の良さまで失わないように必死で
でも、私の一番いい部分をあなたに費やしちゃった気がする
あなたは何も気にしない
「迷惑かたいわけじゃないけど、今すぐ話す必要がある」って
散らばった小銭を集めるみたいに、途切れた言葉を必死で繋ぎ合わせる
心の中は戦場みたい
重荷は手放さなきゃ、私を縛るものはもう抱えられない
世界が目の前で壊れていくのを、ただ見つめるしかない

ここでは、彼女の内なる闘いがより激しくなっていきます。

ポイント①:言葉遊びに隠された虚しさ「小銭(loose change)」

「Tryna make sense of loose change」は巧みな言葉遊びがあるそうです。

「sense(理解する)」と「cents(セント硬貨)」をかけており、元恋人からの断片的で価値の低いコミュニケーション(loose change=小銭)を必死に理解(make sense)しようとしている虚しさを表現しています。

小銭をいくら集めても大金にはならないように、彼の言葉の断片を集めても意味のある全体像にはならない。そのイラ立ちが「this is urgent(急ぎなの)」という言葉に繋がります。

ポイント②:手放す勇気

「Got me a war in my mind(心の中は戦争)」という強烈な一節の後、彼女は「Gotta let go of weight(重荷は手放さなきゃ)」と決意。

過去の経験や感情という重荷から自分を解放し、たとえ世界が目の前で崩壊しようとも、それに呑まれずただ観察者でいることを選びます。外部の状況に左右されず、自分の内なる平和に集中しようとする強い意志の表れを感じます。

コーラス:SZA, Jacob Collier & Both / 鎧をまとった運命と、心の中の「良い日々」

All the while, I’ll await my armored fate with a smile
Still wanna try, still believe in
Good days, good days, always
Always inside (Always in my mind, always in my mind, mind)
Good day living in my mind

Lyric

それでも私は、鎧をまとった運命を笑顔で待つ
まだ挑みたい、まだ信じてる
いい日々を、いい日々を、ずっと
心の奥で(いつも頭の中、いつも心の中で)
心の中で生きる、晴れた一日

このコーラスは、楽曲全体の核となる希望のメッセージです。彼女は自分の運命を「armored(鎧をまとった)」と呼び、誰にも自分の未来を支配させない、という決意を示します。

「戦う強さ」と、「受け入れる余裕」の両方を持ちながら未来を迎えるという精神状態が反映されている部分です。

たとえ現実がどれだけ厳しくても、「Good days(良い日々)」はいつも自分の心の中に存在すると彼女は歌います。どんな状況でも、自分の思考や心の中では幸せを見つけられるという、力強い肯定のメッセージがこの部分にあります。

ヴァース2:SZA, Jacob Collier / 聖書に重ねる、崩壊寸前の心

Tell me I’m not my fears, my limitations
I disappear if you let me
Feelin’ like, yeah (On your own)
Feelin’ like Jericho
Feelin’ like Job when he lost his shit
Gotta hold my own, my cross to bear alone, I
Ooh, played and dipped, way to kill the mood
Know you like that shit
Can’t groove it, ba-baby
Heavy on my empty mind shit

Lyric

私を恐れや限界そのものだなんて言わないで
放っておかれたら、私は消えてしまう
そんな気分(ひとりきりで)
まるで城壁が崩れ落ちたエリコのよう
すべてを失ったヨブのように、理性まで崩れそう
自分の十字架は、自分一人で背負わなきゃ
ああ、場を白けさせて消えていくなんて
でも、そういうのあなたは嫌いじゃないはず
もうリズムに乗れない
また心は空っぽのまま

ここでは、旧約聖書からの引用を通して、彼女の精神状態がより深く表現されています。

ポイント①:「エリコ(Jericho)のような気分」

エリコは、神の力によって堅固な城壁が崩れ落ちたとされる古代都市。SZAは、自分の心の壁や守りがもろくも崩れ落ちていく感覚を、このエピソードに重ねているのかもしれません。

ポイント②:「ヨブ(Job)のような気分」

ヨブは、神への信仰を試され、家族や財産、健康まで全てを失った人物。「lost his shit」という言葉には、財産を失ったという意味に加え、「我を失う」「ブチ切れる」というスラング的な意味合いもあり、彼女が理性崩壊の寸前まで追い詰められていることを示唆します。

ポイント③:「一人で背負う十字架」

「cross to bear(背負うべき十字架)」は、耐えなければならない重荷や試練の比喩。誰の助けも借りず、この苦しみをたった一人で背負わなければならないという、孤独な決意が伝わってきます。

– プレコーラス&コーラス 繰り返し/省略 —

ヴァース3:SZA / 過去との決別と、今生きる選択

Gotta get right
Tryna free my mind before the end of the world
I don’t miss no ex, I don’t miss no text
I choose not to respond
I don’t regret, just pretend shit never happened
Half of us layin’ waste to our youth, it’s in the present
(Na-na, na-na, na-na, na)
Half of us chasin’ fountains of youth and it’s in the present now

Lyric

ちゃんと立て直さなきゃ
世界が終わる前に、心を解き放とうとしてる
元カレも、来ないメッセージも恋しくない
返事をしないって決めたの
後悔なんてしない、全部なかったことにしてるだけ
私たちの半分は今という若さを無駄にして
(Na-na, na-na, na-na, na)
残りの半分は若さの泉を追いかけながら、今を生きてる

このヴァースでは、彼女の視点はより明確に未来へと向かいます。

「元カレもメッセージも恋しくない、返事をしないと決めた」という一節は、過去との決別宣言。後悔ではなく、「なかったことにする」という選択は、前に進むための彼女なりの防衛機制なのかもしれません。

そして、若さを無駄にする人々がいる一方で、「今(present)」という瞬間を生きることの価値を訴えます。これは、過去や未来に囚われるのではなく、現在の自分を大切にしようという、この曲のテーマを改めて強調する部分です。

アウトロ:Jacob Collier / 心の中に響き続ける声

Always in my mind, always in my mind, mind
You’ve been making me feel like I’m
Always in my mind, always in my mind, mind

Lyric

いつも心の中、いつも心の中で
あなたは私に…そう感じさせる
いつも心の中、いつも心の中で

曲の終わりには、ジェイコブ・コリアーの楽曲からの引用「You been making me feel like I’m」が挿入されます。

原曲では「You been making me feel like I’m lonely, baby I don’t know what I did wrong(君は僕を孤独に感じさせる。何が悪かったのかわからない)」と続くフレーズが、ここでは繰り返される「Always in my mind(いつも心の中)」という言葉と重なり、複雑な余韻を残します。

それは、まだ完全に断ち切れない過去の呪縛のようにも、あるいは、心の中にある「良い日々」という希望が常に自分と共にあることの確認のようにも聴こえるのではないでしょうか。

痛みを抱えながらも希望を手放さないSZAの姿が、アウトロの中に凝縮されているように感じます。

Jacob Collier – 「In Too Deep (feat. Kiana Ledé)」


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