Ambréとは / ソフトで繊細なボーカルを持つ魂のメロディメーカー
ニューオーリンズ出身のシンガーソングライターAmbré(アンブレ)。グラミー受賞作品のソングライティングや、著名なアーティストとのコラボレートキャリアをバックグラウンドに、音楽レーベルRoc Nation所属のリードアーティストとして才能を発揮している人物です。
今回はAmbréのヒットソング、経歴、要チェック作品を紹介。彼女がこれまでどんな歩みをしてきたのか掘り下げます。
Ambré(アンブレ)プロフィール
名前 | Ambré(アンブレ) |
本名 | India Perkins(インディア・パーキンス) |
出身 | ルイジアナ州ニューオリンズ(ロサンゼルスを拠点に活動) |
主な作品 |
MIXTAPE ・『Wanderlust』(2015) ・『2090s』(2016) EP ・『Pulp』(2019) ・『PULP (Director’s Cut)』(2020) ・『3000°』(2022) |
Ambré(アンブレ)は、本名India Perkins(インディア・パーキンス)。ルイジアナ州ニューオリンズ出身のシンガーソングライター。ソフトで繊細なボーカルが特徴で、ノスタルジアを現代的なR&Bへ昇華する、新進気鋭のミュージシャンです。
グラミー賞を受賞したシンガーのH.E.R.のセルフタイトルアルバムの作家としての経歴が有名な他、Kehlani、Isaiah Rashadらとコラボレートするなどのキャリアを築いてきた彼女は、ジェイ・Z率いる音楽レーベルRoc Nationと契約し、EP『Pulp』でリードアーティストとしての才能も世に知らしめました。
ニューオーリンズでの物語やルーツを大切にしながら、現在はロサンゼルスを拠点に活動。彼女のパーソナルな部分から生まれるセンチメンタルでエレクトリックな音楽は、今後も是非チェックしたいと思わせる大きな魅力をもっています。
Ambréの6ヒットソング
1.The Catch Up
リリース:2020年12月10日
収録作品:『alone / the catch up』
楽曲「alone」と共にリリースされたAmbréのデュアルシングルの一曲です。
プロデューサーのLouie Lasticとのセッション中に出来上がったというこの曲。なんと一晩のうちに完成したのだそうです。製作陣には、フロリダ州タンパ出身のシンガーでAmbreの友人だというDestin Conradもクレジットされています。
「私たちはただヴァイブスしていて、最初は他のことに取り組んでいたんだ。彼はドラムを叩いていて、私は”これで何かやろう”と思った。そして、このジョイントを作り始めたんだ。一晩で完成させたよ。」Viper Magazine
Ambréの歌唱力の高さと、スキルだけじゃ無い艶やかな歌声を感じるのに最適な曲です。
2.What You Deserve
リリース:2021年7月9日
収録作品:『Big Femme Energy, Vol. 1』by Femme It Forward
Femme It Forward[*1]が主導するコンピレーションアルバム『Big Femme Energy, Vol. 1』に収録された曲です。
このアルバムはTayla Parx、Lauren Jauregui、Kiana Ledé、Rapsody、Tierra Whack、SAYGRACE、Baby Rose、Muni Long、Sinéad Harnettなど、名だたる女性アーティストが参加したコンピですが、その中でもグンと再生回数を稼いでいる(Spotifyではアルバム中1位)曲でして、かなり注目度の高い曲とうかがえます。
What You Deserveはラッパーの6lackをフィーチャーしたリミックスも出ているので、そちらもあわせて是非。
アメリカのライブ・エンタテイメント企業「Live Nation Entertainment」との共同事業で、女性主導の音楽など、女性のエンパワーメント(能力開花や権限委譲)に焦点を当てて活動する組織です。音楽フェス、コンサート、オリジナルコンテンツ、コメディーショー、大学での活動、慈善活動などをプロデュースしているそうです。
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3.fubu
リリース:2019年8月30日
収録作品:『PULP』
EP『PULP』からのシングルカットです。「『PULP』の中でも最高の思い出の一つ」と語るほど作っていて心地よかった曲なのだとか。元々はプロデューサーのRyan Hemsworthのアルバムに収録予定だったそうです。
曲の大部分はフリースタイルのワンテイクで制作され、その後ハーモニーやフックなど、バックグラウンドを追加しながら出来あがった曲なのだそうです。
4.I’m Baby ft. Jvck James
リリース:2022年6月17日
収録作品:『3000°』
Ambréの2ndEP『3000°』に収録。少し前からの友人でもあるという、ロンドン出身のシンガーJvck Jamesをフィーチャーした曲です。「この曲には男性の声が欲しい」と思ったことから、Jvck Jamesに依頼したのがコラボのきっかけだそうです。
「彼とは2021年の初めに出会ったんだけど、彼は数ヶ月間LAで音楽制作をしていたんだ。共通の友人がいて、何度か一緒にセッションをして、そこから仲良くなって遊びに行くようになった。自分のプロジェクトをまとめるとき、曲に男性の声が必要だと感じたんだ。それを彼に送って、彼がどう感じるか確認したら、「わかった!」と言ってくれた。彼はすぐにそれを送り返してくれたんだけど、完璧だったよ。」YouKnowIGotSoul
Ambréは別のインタビューでも「私が想像していたものをすべて超えていたよ。」と大絶賛していました。かなり信頼しているアーティストなのが伺えますね。
5.band practice
リリース:2019年11月8日
収録作品:『PULP』
デビューEP『PULP』に収録。ギターの音色をバックに、恋に落ちる様子をスムースに歌い上げるスロージャムです。LAで撮影されたというミュージックビデオは、女性同士のラブストーリーを見せるものなのだそうです。
「基本的なコンセプトは、愛を努力しなければならないものとして扱い、女性同士の甘いラブストーリーを見せるというもので、過度にセクシーでもなく、何かを押し付けようとするわけでもない。ただ、純粋にそれを見せているんだ。」REVOLT
6.Wild Life…
リリース:2022年7月17日
収録作品:『3000°』
この曲はコロナパンデミックが始まった2020年3月頃に、友人のジェボンと一緒に作った曲なのだそう。ドレイクの楽曲「The Real Her」をサンプリングしています。
「私の好きな曲のひとつ「The Real Her」は、レコードプレーヤーをコンピューターにつないで、そのサンプルを切り刻んで、そこから反転させたんだ。」YouKnowIGotSoul
ボーカルのメロディもその日のうちに作ったそうですが、サクッと出来たわけではなく、一日中煮詰めて出来た曲なのだそうです。
Ambréの経歴を掘り下げる
幼い頃から音楽の才能が光っていた
アンブレは出身地ニューオーリンズで、里親制度のもと児童養護施設で育ちました。ギターを中心とする楽器の演奏、作詞作曲のすべてを独学で学んだそうです。
初めて曲を作ったのが小学生の頃。しかし高校3年生になるまでは自分に才能があると自覚が無かったのだそう。やがて音楽制作に没頭していくうち、自分の音楽に自信が持てるようになったそうです。
「友達に自分の曲を聴かせたら、「すごい!」って言われたんだ。その時はまだ、自分の才能がどの程度なのかよくわからなかった。もしかしたら、親切な人たちなのかもしれないと思っていたんだ。」
アンブレの歌唱力は家族にも絶賛されていて、その才能を真剣に活かすよう言われていたほどだったのだとか。
ニューオーリンズは彼女のアイデンティティでもある
現在はLAで活動中のアンブレですが、ニューオーリンズでの生活は彼女の重要なアイデンティティの源泉であり、原点なのだそうです。
「ニューオリンズがどのような街なのか、そのニュアンスについては本が書けるほどだよ。でも、住んでいない今だからこそ、より懐かしく感じ、それが音楽にも表れていると思う。ニューオリンズは私のアイデンティティの原点であり、音楽を好きになった場所であり、初めて失恋を経験した場所でもある。それが自然と音楽に出てきて、無意識のうちに自分の意思決定に反映されるんだ。」
幼い頃にはハリケーン・カトリーナ[*2]の影響もあり、アメリカ南部の中で引っ越しが続く日々もあったそう。そんな過酷な環境があった中でも、彼女の音楽の原点が育まれたニューオリンズの地。アンブレの音楽を聴く上で入れておきたい知識の一つです。
2005年8月末に起こった、アメリカの南東部を襲った大型ハリケーン。ニューオーリンズの8割が冠水し、死者1800人以上という大きな被害をもたらした米国史に残る未曾有の災害です。
楽器の独学はYoutubeで
アンブレは高校時代にジョン・メイヤーのコンサートをよくYoutubeで見ていたそうです。主にYoutubeで耳を鍛え、ギターを習得したといいます。
「”くっそー、うまい!どうやったらできるようになるんだ!”と思っていたよ。彼のコンサートをスロー再生して、あるパートだけ練習して、次のパートに移ったりしていたんだ。」Guitar.com
習い事は中学時代にトロンボーンを。またピアノを独学でやっていた時期があり、コードを少し理解できる程度だったそうですが、ギターは主にYoutubeで学んだそうです。
彼女は「音楽全般を探求したい」と考えつつも、ギターを主要なアイデンティティとして捉えていることを2019年のインタビューで語っていました。
「今のところ、私の主要な楽器として捉えているよ。私は音楽全般を探求したいと思っているので、自分を限定したくはないんだ。何か新しいものを生み出すためのサウンドベッドになるかもしれないけれど、今は間違いなく私の主要な楽器だね。」Guitar.com
2014年に転機が訪れる
2014年、若干17歳でアンブレは最初の曲「Girls Love the 90s」をSoundCloudでリリースしました。ドレイクの「Girls Love Beyoncé」をリミックスしたこの曲は、1週間のうちに2万回以上のストリーミングを集めました。
この曲がきっかけとなり、彼女の音楽はグラミー賞受賞プロデューサーでもあるSwagg R’celious(スワッグ・R・スィリアス)の目に留まりました。当時育成中だったH.E.R(当時Gabriella Wilsonで活動)に向けられたソングライティングキャンプ[*3]に招待され、「U」と「Changes」という2枚のシングルを共同執筆します。
「あの体験は本当に楽しかった。当時、私は18歳だったと思うんだけど、初めてニューヨークへ行き、初めて誰かのために文章を書いたんだ。だからとても初々しい経験だったね。でも彼女はとてもクールで、私たちはとても仲良くなれたよ。それで、最終的にはたくさんのクールなものを作ることができたんだ。」REVOLT
この二曲はH.E.R.のセルフタイトル・デビュー・アルバムにも実際に収録されました。(アルバムは2018年にグラミー賞の「ベストR&Bアルバム賞」を獲得)
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曲作りを集中的に行う合宿のこと。アーティスト、プロデューサー(トラックメイカー)、ソングライター、ときには音楽エンジニアが集まって「セッション」という名の曲作りをおこなうそうです。大規模なキャンプだとチーム分けが毎日変わるのだとか。
インディで2つの作品をリリース後、Roc Nationと契約
2015年4月に最初のミックステープ『Wanderlust』をリリース。
その後、ドレイクの楽曲「Preach」のカバーでシンガーのケラー二(Kehlani)とコラボレートします。これがきっかけでケラー二の「You Should Be Here」ツアーにも参加しました。
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さらにその後、アンブレは2作目のミックステープ『2090’s』に着手。2016年4月にリリースしました。
『2090’s』のリリース以降も著名なアーティストとコラボレートを重ね、着実に名声と地盤を固めました。
- 2016年10月 シングル「No Service in the Hills」でケラーニと再びコラボレーション
- 2017年9月 TOKiMONSTAの「No Way」で Isaiah Rashad、Joey Purpらと共演
- 2018年2月 Keys N Kratesの「Glitter」にフィーチャー
- 2018年9月 Ryan Hemsworthの「The Butterfly Effect」にフィーチャー
初の公式EP『Pulp』の代表曲でもある「fubu」をリリースした2019年9月には、同じニューオーリンズ出身のシンガーLucky Dayeの『Painted』ツアーにも参加しています。
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インディでリリースした2作品や数々のコラボレートで注目を集めたアンブレは2019年11月に、ジェイ・zが率いる音楽レーベル「Roc Nation」と契約を果たしました。
2つの要チェック作品
『Pulp』
2019年11月8日にRoc NationからリリースされたメジャーデビューEP。アンブレの人生の過渡期に作られた作品で、曲の多くが人生で初めて経験したことや、高校生の頃のことを歌っているそうです。
タイトルの「Pulp」には、「若さ」「充実感」「彼女の中心や核となるもの」についての意味が込められていて、アンブレが気に入っている映画(『Pulp Fiction』、『Eyes Wide Shut』、『Dazed & Confused』)などがモチーフにもなっているのだとか。
「当時は、人生の転機がたくさんあったよ。生活環境が整っていなかったこともあり、ストレスがたまる時期でもあったんだ。」ELEVATOR
制作にかかった約2年間、良いときも悪いときも彼女を見守ったというプロジェクトだそうで、「誰もが持っている若々しい部分に触れることを伝えたい」とアンブレはいいます。
「私は、人に自分を見せることを恐れて多くの時間を費やしてきたから、正直であることに大きな意味がある。私は、みんなに表現することを怖がらないで欲しいんだ。」ELEVATOR
『Pulp』はディレクターズカット版も出ているので、合わせてチェックしていただけたらと思います。
『3000°』
2022年6月にリリースされた、アンブレのセカンドEPです。タイトルはラッパーJuvenile(ジュヴナイル)のアルバム『400°』に由来。また、彼女のことを周りが冗談で「アンブレ3000(恐らくアンドレ3000のパロディとして)」と呼ぶそうで、このあだ名もタイトルに由来しているそうです。
このプロジェクトは、家族とニューオーリンズに対する感謝の気持ちが込められているそう。アンブレは現在ロサンゼルスを拠点に活動していますが、パンデミックがきっかけで、ニューオリンズに1ヶ月ほど滞在したそうです。長い間会っていなかった家族と再会し、親交を深めたことが『3000°』のコンセプトとインスピレーションにつながっているといいます。
「母や文化に対する感謝の気持ちを表したかったんだ。家族とニューオリンズがなかったら、このプロジェクトはなかったと思う。」YouKnowIGotSoul
「自分がどこから来たのか、それを示すようなものを作りたかったんだ。この街が誇りに思うようなものを作りたかった。」NEW WAVE MAG
アルバムアートワークからもその愛情や感謝の意図が感じられますよね。
最後に
シンガーAmbréを紹介しました。最後に彼女がELEVATOR MAGのインタビューで語っていた、人生の教訓になりそうなことをメモとして残しておきたいと思います。
アンブレがソングライターやミュージシャンの経験を通じて学んだことは「正直であること。率直であること、オープンであることの大切さ。」だそう。「常に新しいアイデアを受け入れて、自分にも周りにも正直でいること。」そして「自分自身を完全に信頼すること」の重要性を学んだそうです。
これまで色々なアーティストのインタビューやコメントを読んできましたが、多くのアーティストに共通している芯の部分にあるものが「正直さ」や「自己愛」といったパーソナルなものです。偽りの飾り付けではなく、正直でいるからこそ「一流」になるほどに研ぎ澄まされていくのかなと思いました。
さらに、著名になればなるほど一つのアクションに重みが出る分、疲弊してしまう事もあるのではないかと思います。そこで常に「セルフケア」や「自己愛」、「自分自身を信頼すること」が長く精力的な活動をする上で大事なことなのかなーと感じました。
とはいえ著名人でなくとも、この教訓は活かせる気がしたので締めの言葉としてメモ的な意味で綴らせていただきました。
ということで今回は終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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