Joey Bada$$『2000』を紹介 / 新時代におけるジョーイ・バッドアスのあり方
「俺にとっての「誠実さ」。自分が信じていること、自分の価値観、自分の目的に忠実であることを確認することだ。それが自分が成功しているかどうかを測る方法だ。俺にとっては不可欠なもの。俺が決して犠牲にしないもののひとつが、誠実さだ。」
前作『All-Amerikkkan Badass』から5年が経ち、2022年に最新アルバム『2000』がついにリリースされました。ニューヨークのベテランDiddyやNasも参加し、さらにはWestside Gunn、Larry June、JID、R&BのスターであるCapella Grey 、Chris Brownも参加した化学反応を期待してしまう要素も強い作品です。
Joey Bada$$の名作として名高い『1999』の雰囲気をどこか感じさせられる今作。『1999』との関連性はあるのかも気になるところです。
今回はそんなアルバム『2000』を紹介。作品には一体どのような想いが込められているのかを深掘りすると共に、アルバムからのシングルカット4曲を解説していきます。
Joey Bada$$自身の生い立ちを深掘りした記事も書いているので、あわせてお読みいただけるとより味わい深くなると思います。
アルバムについて
『2000』は『1999』の兄貴分である
彼のヒット作『1999』を知っている人なら感じるであろう「続編感」を匂わせるのが、本作のタイトル『2000』。アルバムアートワークのデザインも、どこかトーンが似ていますね。
It’s really been 5 years since we got a new Joey Badass album…
I’m so excited for this and '2000' being a sequel to '1999' makes it even better. pic.twitter.com/GRiUbFNwXH
— NFR Podcast (@nfr_podcast) July 21, 2022
しかし、ジョーイは続編説を否定。「どちらかというと1999に因んでいる[R]」述べ、「“2000”は”1999″の兄貴分であり、よりリッチな存在。1999はNYで育って、2000はNYで輝いているんだ。」と語っています。
『2000』は、『1999』以降の彼の躍進が感じられる作品であり、ニューヨークで成長中の「少年」か、ニューヨークで活躍中「大人」か、という視点の違いがあるのだそうです。
「『1999』がニューヨーク・ブルックリンに住む子供が大成功を収めようとし、友だちに自慢する話だとしたら、『#2000』は同じ子供が大人になり、フェンスの反対側にいる話だ。似たような雰囲気だが、視点が違う。」Twitter
また、「2000年」はジョーイにとって新しい時代の象徴でもあり、2000年代前半の音楽と同じような、スムースな作品になるよう意図したそう。
「これは決して1999のパート2を意図したものではないことを再度強調しておきたい。2000はそれ自体である。僕のキャリアと音楽全体における新しい時代の印なんだ。」Reddit
ヘビーなコンセプチュアル・アルバムにはしたくないと決めていた
前作『All-Amerikkkan Bada$$』のリリースから約5年。ジョーイは「5年も煮詰めているんだから凄いことをやってるに違いない」という、世間からのプレッシャーを感じていたそうです。
そんな圧力を感じながらも、彼はこの5年を「自分が何をやっているのか理解する」ために費やし、プロジェクト作っては破棄、また作っては破棄…という制作活動を繰り返していたのだとか。
というのも、前作『All-Amerikkkan Bada$$』が、彼にとって初めての政治色の強い作品だったことが要因だそうで、「このまま(この方向で)続けるのか、それとも別の道で前に進むのか」を考え込んでいたようです。
「説教くさいと思われるのも嫌だし。それとは逆の方向性を見出したかったんだ。そのためには時間がかかり、いろいろと実験し、いろいろなもの、いろいろな音を試した。」The Ringer
『2000』では前作のような「コンセプト」ではなく、「Joey Bada$$」という一人のアーティストに再フォーカスし、彼のライフスタイルを反映したのだそう。
後述のシングルカット曲の内容でも触れていますが、今作では「ジョーイの成功談」「成功したからこそ感じる苦悩」「パーソナルな人間関係」についてなどをラップしています。それぞれを、彼の故郷であるニューヨークの情景、マインド、マナーに触れながら、「彼自身の今」をありのままに表現しています。
「俺はこのアルバムを超ヘビーなコンセプチュアル・アルバムにはしたくないと決めていた。俺はこのアルバムをライフスタイル・アルバムと定義しているんだ。キャラクターを忠実に再現している。俺の人生に忠実なんだ。10年目の今、一人の男として経験したことだ。これは、言ってみれば勝利の女神のようなものだ。」The Ringer
『2000』のシングルカットを紹介
1st.Head High
2022年3月3日リリース。古くからのコラボレータであるStatik Selektah(スタティック・セレクター)がプロデュースした曲です。そんなトラックを起用してるだけあって、Joey Bada$$イズムを強く感じる一曲。
「これは俺が今まで作った曲の中で、最も純粋でリアルな曲の一つだ。クラシックなJoey Bada$$ sht。」Twitter
この曲は「infinity (888)」という曲などでコラボしたラッパー、故XXXTentacion(XXXテンタシオン)や、Pro Eraクルーの仲間として青年時代を共に歩んできた盟友、故Capital Steez(キャピタル・スティーズ)との関係を始め、若くして命を落とした人々に贈られる歌だそうです。
「この曲は、Nip、X、Pop、そしてあまりにも早く命を奪われた全ての黒人青年のためのものだ。これは、毎日頭を回転させながら人生を歩まなければならないすべての人のためのものだ。」COMPLEX
銃乱射事件やラッパーへの暴力事件など、ネガティブな問題に直面しても「head high(うつむくな/胸を張れ)」と、強い心を保つように鼓舞しています。
また、2022年の秋にはBETのパフォーマンスで新バースを披露。曲の最後には「ラッパーとして、自分たちの大量虐殺を止めるんだ」とシャウトし、いくつもの世代に渡るラッパー達の命の尊さと、社会への問題提起をマイク越しに語っています。
ジョーイの後ろで踊るダンサー達の背中には、これまでに命を落としたラッパー達の名が刻まれています。
2nd.Where I Belong
2022年7月1日リリース。こちらもStatik Selektahがプロデュースしたセカンドシングルです。
ブルックリンのSnyder Ave(スナイダー・アベニュー)に住んでいた頃の話、母親とのドライブの話、従兄弟のリッチー・リッチとの話など、ジョーイの生い立ちにまつわるエピソードを交えながら、自身の成功とそのマインドについてを語った歌です。
I say a prayer every day, hopin’ it all get better
毎日祈りを捧げ、全てが良くなるようにと願っている
I talk to God a lot, these verses is like open letters
神とよく話す、この詩はの公開状のようだ
I know that nothin’ really last forever
永遠に続くものなんてないってわかってるんだ
Like the past, the future don’t exist, I know it’s now or never
過去や未来は存在しない、今しかないと思っている
Focused on the present, know my presence is a gift
今に集中するんだ 俺の存在は贈り物なんだ
Just so happen to be good at rappin’, that would be my niche
たまたまラップが上手かっただけだ、それが俺のニッチなところだ
上記リリックからは、成功者独特の脆弱性や、揺らぎの感情も感じられるところ。スタティック・セレクターのトラックのエモさと、ミュージックビデオのノスタルジック感も、この曲の魅力に一役買っていると感じます。
3rd.Survivors Guilt
2022年7月7日リリース。この曲は、ジョーイが所属するクルーPro Era(プロ・エラ)の同胞であるCapital Steez(キャピタル・スティーズ)と、ジョーイのいとこでマネージャーであったJunior B(ジュニア・B)へのトリビュートソングです。(ちなみにシングルのリリース日はキャピタル・スティーズの誕生日)
キャピタル・スティーズは、2012年に自ら命を絶つ形で他界。ジュニア・Bは交通事故での他界で、二人はジョーイにとって絶大な存在でした。
Steezy told mе, “Get ‘em,” so I got ‘em (Got ‘em)
スティージーがやれって言うからやったんだ
Now my nigga gone, he will never be forgotten (Never)
俺の親友はもういない、彼は決して忘れられない
Ever since he left, I just been strugglin’ without him (Uh-huh)
彼がいなくなってから俺はずっと苦労してるんだ
Yeah, and R.I.P. my cousin Junior B (R.I.P.)
Yeah,そしてR.I.P.俺のいとこのジュニア・B
Y’all ain’t know too much about him, so it’s up to me (It’s up to me)
To share his legacy with the world
みんなは彼のことをあまり知らないから、俺が彼の遺産を世界に伝えるんだ
1バース目でキャピタル・スティーズへの想いを、2バース目でジュニア・Bへの想いを真摯に語っています。
My new song “Survivor’s Guilt” is out now. Dedicated to Capital STEEZ and my cousin Junior B 🕊, this song is by far the most heartfelt song I’ve ever made and it felt incredibly therapeutic finally being able to put my thoughts and sentiments into words. https://t.co/7FNdo5tLNc pic.twitter.com/pD6pC3ciye
— BADMON (@joeyBADASS) July 7, 2022
「新曲”Survivor’s Guilt”がリリースされた。Capital STEEZと俺のいとこのJunior Bに捧げたこの曲は、今まで作った曲の中で一番心に響く曲で、やっと自分の考えや気持ちを言葉にすることができて、大きな癒しになった。」Twitter
彼らの死後、ジョーイは相当心を痛め苦悩したそうで、この曲を作ったことで言葉にできたことや、リスナーと共有できたことが何よりの癒しとなったそうです。
4th.Zipcodes
2022年7月15日リリース。プロエラの同志Kirk Knight(カーク・ナイト)のプロデュース曲で、自身の成功や、いかに自分が高みにいるかを謙虚に自慢する一曲です。
If rap was a stock, I have a hundred million in evaluation
もしラップが株だったら 俺は1億の評価額を持ってるぜ
と投資家目線でも物事を語っているのも印象的。彼がラップゲームで荒削りにも成長してきた側面と、若くしてベテランのような博学さや、目線の高さを持っているのも伺える気がします。
「もし、1999年に(Joey Bada$$の株を)買っっていたら、今、キャッシュアウトして金持ちになれるかもな。」
とインタビューでも語っています。
ちなみにこの曲はA$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)とのセッション中に生まれたのだとか。
最後に
Joey Bada$$のアルバム『2000』の一部を深掘り、紹介させていただきました。
彼のルーツであるPro Eraクルー(新時代という意味)にもリンクするような想いの込められた『2000』。
「『1999』がニューヨーク・ブルックリンに住む子供が大成功を収めようとし、友だちに自慢する話だとしたら、『2000』は同じ子供が大人になり、フェンスの反対側にいる話だ。」
と語っていましたが、『1999(歴史)』『2000(新時代と現在)』と変換して読み解くと、大きなリスペクトを払っているであろうベテランDiddyやNasをオファーしている傍ら、2000年代のR&Bの象徴的な存在であるクリスブラウンや(今も大活躍ですが)、現行第一線で活躍するラッパー達を、東・西問わず絡めているのも面白いなと思いました。
今作が「自分」にフォーカス当てた作品と考えると、彼が今感じている新時代のあり方や、理想のようなものが反映されているのかなと。
今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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