Syd(シド)とは / ハウススタジオから始まった音楽的道のり
ロサンゼルス出身、複数のフィールドで才能を発揮するシンガーソングライター、Syd。Odd FutureのDJからThe Internetのリードシンガー、そしてソロアーティストへと変貌。その音楽性はグラミー賞にノミネートされるほどです。
本記事ではSydの音楽キャリアを深掘りし、彼女の魅力と楽曲を紹介します。また、The Internetについては下記の記事でも深掘っているので合わせてご覧いただければと思います。
Syd(シド)のプロフィール
名前 | Syd(シド) |
本名 | Sydney Loren Bennett(シドニー・ローレン・ベネット) |
生年月日 | 1992年4月23日 |
出身 | ロサンゼルス |
主な作品 |
ALBUM ・『Fin』(2017) ・『Broken Hearts Club』(2022) |
Syd(シド)は、ロサンゼルス出身のシンガーソングライター/プロデューサーで、かつてヒップホップ集団Odd FutureのDJを務めていました。その魅力的な存在は、16歳でグループに参加した時から注目されたことに始まり、一貫して成長と創造性を追求してきました。また、彼女は音楽バンドThe Internetのリードシンガーとして、グラミー賞にノミネートされた実績も持つ才能あふれるアーティストです。
Sydは10代の頃から音楽制作を始め、Tyler the Creatorとオンラインでつながり、彼が率いる集団Odd Futureに参加。そこでエンジニアやDJの才能を開花させた後、同グループの創設メンバーMatt Martiansとの共同プロジェクトThe Internetを通じて、シンガーソングライターのキャリアでも成果を出しました。
2017年には、ソロ・アーティストとしてデビュー・スタジオ・アルバム『Fin』をリリース。2022年に『Broken Hearts Club』をリリースし、その類稀な音楽性のほか、弱さやパーソナルストーリーを見せる部分が評価されました。
バンドの活動は現在も続いており、ソロとしての活動がさらにグループへ昇華され、Sydを含め彼女に関連する動きには今後も注目が集まります。
Sydのこれまでを深掘る
音楽に囲まれて育ち、14歳でスタジオを作る
Sydは、ロサンゼルス南部で生まれ育ちました。R&Bやソウルミュージックを嗜む母親と、ジャマイカ出身の父親、レコードプロデューサーの叔父に囲まれて育ったそうです。
「母さんはいつも歌いながら歩いていて、最高の声だと思って育ったよ。彼女は本当にメロディを歌えるし、DJになりたかったんだ。つまり、私が今やってることを彼女も同じ歳のころにやりたかったんだよ。父さんの兄貴はジャマイカ出身のプロデューサーで、レゲエを作ってる。父さんは音楽の才能はないんだけど…自分はあると思ってるみたい。」massappeal
4歳の頃にはピアノを始めており、青年期にはハミルトン音楽アカデミーへ。ドラムを学んだり、母親の古いギターを借りて、独学で弾き方を学んだりしていたそうです。
「本当に心から愛せる楽器が見つからないなあ」と感じていたSydは、次第にサウンドエンジニアリングに興味を持ち始めます。叔父のマイキーさんの影響も強いようです。
「私はただひたすら音楽を聴いて育ったんだ。私の叔父のマイキーはジャマイカにいて、私は彼と一緒にスタジオにいるわけではなかった。でも、ジャマイカに行くと、ほとんどの時間をスタジオで過ごしたんだ。それは本当にクールだったよ。そこで私はいつかスタジオが欲しいと思ったんだ。」RedBull
父親が学校用に中古で買ってきたMacBook ProのGarageBand(作曲ソフト)に触れて録音ができることを知り、マイクや録音機材を購入。後に従兄弟がゲストハウスから出ていったので、Sydはゲストハウスに引っ越し、そこが彼女のハウススタジオになりました。Sydが14歳の頃だったそうです。
「13歳か14歳のころだね。13歳の時に、大人になったらスタジオが欲しいと思った。ただ座って、人が音楽を作るのを見るためにね。14歳になると、プロジェクトホームスタジオみたいな小さなスタジオを作って、プロデュースしたいと思った。まだちゃんとやってなかったから、エンジニアリングに興味を持ったんだ。」massappeal
始まりのグループ / Odd Futureとの出会い
Sydはその後、作ったスタジオをMySpace[*1]で宣伝。そこで彼女のキャリアの大きな転換点となるグループOdd Future(オッドフューチャー)[*2]との出会いが始まります。
「皆に”私にはスタジオがある、女の子だけど、遊びに来てね”と言っていたんだ。 – それはドープだったよ。そうやってOdd Futureに出会った。私が彼らの一人の友達とセッションをしていたとき、その彼がタイラーにそのスタジオのことを話したんだ。次に気づいたらTylerが8人くらい連れて現れたんだよ。」The Guardian
以降グループへと加入したSydは”Syd Tha Kyd(シド・ザ・キッド)”と名乗り、グループのミキシング・エンジニアとしてスタート。初期のOdd Futureの作品や、タイラーの最初のアルバム、アールスウェットシャツの最初のアルバムなども彼女のハウススタジオでレコーディングされたのだとか。
またグループの影響力が大きくなり、多くのライブを行うようになると、グループのDJとしても活躍するようになりました。
MySpace(マイスペース)は、2000年代初頭に大変人気だったソーシャルネットワーキングサイト。音楽、映画、ブログなどのコンテンツを共有するプラットフォームとして特に知られていました。ユーザーは自分自身のページをカスタマイズし、音楽やビデオをアップロードしたり、他のユーザーとメッセージを交換したりすることができました。
Odd Future(オッド・フューチャー)は、ロサンゼルスで2007年に結成されたヒップホップ集団。正式名称はOdd Future Wolf Gang Kill Them All(オッドフューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール)で、略称はOFWGKTA。リーダーのタイラー・ザ・クリエイターを核にし、様々なメンバーが在籍するカルチャー集団です。彼らは、ヒップホップ、音楽、アート、ファッション、スケートボードなど、様々な分野で活躍し、現在はグループではなく個々で活動しています。
歌手として開花したバンドを結成 / The Internetの始動
2011年には、同じOdd Futureのメンバーであった、Matt Martians(マット・マーシャンズ)と音楽バンドThe Internet(ジ・インターネット)を結成。
2015年のインタビューでOdd Futureについては、「今でもみんなと連絡を取り合っているし、チームのみんなにとっても幸せなことだよ。」と語りつつも、アーティスト同士のアートに対する方向性の違いがあったことを述べています。
「私らはみんなアーティストで、アーティストにはドープなものの考え方があるから、自然と自分たちの道を歩むことになったんだ。成長するにつれて、自分たちのアートに対する意見が違うことに気づき始めたんだ。」BYT
それまでエンジニアやDJだった彼女が、歌の才能を開花させたのがこの頃から。「歌うことに本格的に取り組んだのは、最初のインターネットのアルバムを作った時だったな。」と語るSydは、対外的には裏方的な存在から、フロントマンシンガーへとポジションを変えました。
「経験がない状態でシンガーとしてデビューするのは本当に怖かったな。だって、一生懸命歌ってきた人たちと競争しなきゃならないと思ったからさ。だからバンドを始めたんだ。”DJと一緒に歌うのは本当にまずいって思ったからバンドを組んで生音の音楽を出そう”と思ったんだ。」RedBull
ジ・インターネットでは2015年までに3枚のアルバムをリリース。3作目の『Ego Death』は、グラミー賞にノミネートされるほど高い評価を得ました。
バンドについては下記の記事で詳しく深掘りしているので、是非覗いてみてください。
関連記事:5つの個性が集結するバンド「The Internet(ジ・インターネット)」の魅力
ソロ活動で第三のキャリアをスタート
『Fin』
2017年に、彼女はデビュー・スタジオ・アルバム『Fin』をリリースします。LAを拠点とするソングライター、プロデューサーであるNick Green(ニック・グリーン)と共同で制作したものだそうです。
『Fin』のいくつかの曲を制作していた当時、Sydの中での自身の認識はまだ「裏方」だったそう。「ソングライターになりたかった」と語る彼女は、他のアーティストのために曲を書いていたのだとか。
「2015年にThe Internetと一緒に『Ego Death』をリリースした直後から書き始めたけど、その中の大部分は他のアーティストに提供するつもりで書いていたんだ。当時、ミゲルがやっていることが本当に気に入っていたんでね。彼をイメージしていくつかの曲を書くのが面白いと思ったんだよ。」NME
しかし、歌詞に彼女自身のストーリー性があること、彼女の声質やテーマの特殊さなどがあり、徐々に「これは私のアルバムじゃないか」という認識へと変化していったそうです。
「私の物語と私の歌詞。そして、頭の中では、”これを誰かに聴かせて、誰が欲しがるか見てみよう”と思っていたんだ。また、私の声はかなり特殊で、誰でも私の歌を歌えるわけではないこともわかってきたんだ。題材も特殊だしね。」RedBull
ソングライターとしてのSydと、本来のSydがミックスされているような作品と言えるかもしれません。
「今聴くと”自分らしくないな”と思う曲もあるけど、それは書いたときに思い描いた人物に似ているから。私と友達のニック[グリーン]だから素晴らしく仕上がった。アルバムの出来は大好きで、今でも愛している。もう私らしくない曲もあるけど、それでも愛しているよ。」UPROXX
また、ジ・インターネットでの活躍のかたわらで、「バンド以外の興味を探るための手段だった」という作品でもあるそうで、当時のバンド内は、それぞれやりたいことが別々だった時期であり、「私たちはそれぞれ違うことをやってから再び一緒に戻ってくる必要があると感じていいた。」と語っています。
『Broken Hearts Club』
2022年にはセカンド・アルバム『Broken Hearts Club』をリリースします。
2019年の始めから制作を始めたというこの作品は、付き合っていた恋人が作品のインスピレーションだったそう。当時の二人の関係についての曲が多く、どれもハッピーなラブソングだったのだとか。そのため最初に予定していたタイトルは『In Love』だったそうです。
しかし、制作中に失恋を迎えたSydは、アルバムの途中でかなりの方向転換をしなければならなくなり、結果的に『Broken Hearts Club』が生まれました。
「アルバムは彼女のことだったから、完成させてやり直すのが嫌になった。最初は半分くらいスクラップして、”あの曲はもういいや、入れ替えなきゃ”って感じだったんだ。」CRACK
「かなり厳しかった。最初は仕事に打ち込むことができると思っていたんだ。でも、想像していた通りには進まなかった。結局、かなり苦々しい曲をいくつか書いてしまった。それで、自分は止まる必要があると思ったんだ。癒される必要があると。」W Magazine
その後一度制作を中断し休息を取り入れ、自分と向き合う時間を設けたことで、辛い経験が作品へと昇華できたようです。
Sydはそれぞれのアルバムを「その時点での私の人生のスナップショット」と考えているといいます。本作は「Broken Hearts Club(傷ついた心のクラブ)」というタイトルからもわかる通り、よりパーソナルな部分が描かれたもので、当時の彼女の現在地がより濃く記されている作品です。
また、『Fin』当時は、バンド(The Internet)がそれぞれの方向を向いていた事に因んだソロ活動でもあったことを先述しましたが、今回はメンバーそれぞれが「意識的で熟考した活動」をしていた時期だそうです。
「今回は、より未来に向けたものだったんだ。自分たちがスーパーグループであること、ただのバンドとしてではなく、より自分自身を見つめていた。自分たちがこれまで築き上げてきたものを最大限に活用し、自然な流れで再び一緒に作業を始めるタイミングが来たら、それに戻るつもりだと考えていたんだ。」UPROXX
ジ・インターネットは、個々のソロ活動が盛んなためか時折解散が囁かれていますが、今のところその心配はなさそうです。
ヒットソング
1. Over feat.6LACK
リリース:2017年2月3日
収録作品:『FIN』
ジョージア州アトランタ出身のラッパー6LACKをフィーチャーした一曲。コーラスでSydが「Over(終わった)」しっとり歌うように、関係の終わりを描いた曲であり、お互いの成長に焦点を当てながら、愛や苦悩の複雑さを描いています。
[コーラス: Syd]
Is it safe to say it’s over? (Over)
(終わったと言っても大丈夫?(終わった))
Now (Over)
(今(終わった))
I think it’s safe to say it’s over
(終わったと言っても大丈夫だと思う)
Is it safe to say it’s over? (Over)
(終わったと言っても大丈夫?(終わった))
Over (Over)
(終わった(終わった))
I think it’s safe to say it’s over
(終わったと言っても大丈夫だと思う)
この曲は、2016年5月にオーストラリアで付き合っていた恋人にインスパイアされたのだとか。
2. Body
リリース:2017年1月24日
収録作品:『Fin』
アルバム『Fin』の9曲目に収録の、作品プロモーションシングル第二弾曲です。ニューヨーク出身で、Beyoncéのアルバム『Lemonade』でもクレジットされているMeLo-Xがプロデュースしています。
「”Body”は最初に聴いたとき、あまり好きではなかったんだ。でもなぜかプレイし続けたんだよね。おそらく理解しようとしていたのかもしれない。そして、頭の中でトップラインのメロディを聴いたとき、”わー、これは大ヒットするな”と思ったんだ。ボディロール・アンセムだよ。」RedBull
[コーラス]
Baby we can take it slow, say my name
(ベイビー、ゆっくり行こう、私の名前を呼んで)
Don’t let go, I can hear your body when I
(手を離さないで、私があなたの髪を引っ張るとき、あなたの体が聞こえる)
Pull your hair, what’s my name
(あなたの髪を引っ張る、私の名前は何?)
Girl I swear, I can hear your body babe
(ガール、本当に、あなたの体が聞こえるベイビー)
Girl I swear, I can hear your body babe
(ガール、本当に、あなたの体が聞こえるベイビー)
この曲は、情熱的な関係や性的な要素を持つ恋人同士の関係を表現しています。歌詞では、関係をゆっくりと進めることや、相手の名前を呼ぶことで感じる強い結びつきや興奮を描写。ベッドをステージに例えるなど、情熱的で官能的な要素を強調しているのが印象的な曲です。
3. All About Me
リリース:2017年1月11日
収録作品:『Fin』
『Fin』のファーストシングルで、バンドThe Internetの仲間でもあるSteve Lacy(スティーブ・レイシー)がプロデュースした一曲です。自己の成長と成功を描きながら、家族や仲間、出身地の重要性を歌っています・
[Chorus]
Take care of the family that you came with
(自分が生まれ育った家族を大切にして)
We made it this far and it’s amazing
(ここまで来れたのはすごいことだ)
People drowning all around me
(周りの人々が溺れている)
So I keep my squad around me
(だから私のチームを常に側に置いている)
Keep it in the family that you came with
(自分が生まれ育った家族との絆を大切にし続けて)
Keep yo haters close you know the basics
(ヘイターを近くに置いて、基本を知る)
People got they arms around me
(人々が私の周りに腕を回している)
That’s cause it’s all about me
(それはすべて私に関することだからだ)
また印象的だったのが、シドは自分が与える人々への影響力、「自分」という存在が音楽を通じて永遠に生き続けることを考えているのがうかがえる部分です。
Today I’m only human, but know that when I die
(今日はただの人間だ、だけど死んだら知ってる)
My grave gone be my music, my soul is living through it baby
(私の墓は音楽になる、私の魂はそれを通じて生きている、ベイビー)
「最初の頃は実験的なものばかりで、自由で気楽なものだったんだ。今は何かを発表しようとするとき、それが永遠に残ることをより意識しているよ。取り消すことはできないから、それを少し真剣に受け止めるようになったんだ。」DAZED
Odd Futureがジェンダー差別的な用語を用いた曲を出していたこと[*3]や、The Internetの楽曲「Cocaine」での世間の反応[*4]など、自分が意図していない形で、作品が世間に伝わってしまう怖さや複雑な想いが反映されているのかな?と思う歌でもありました。
「私は自分の音楽が大部分で自分自身を体現していると思う。少なくとも創造の時点では – 私も他の誰もがそうであるように、常に変わっているんだ。でもそう、私は自分の音楽に対して本当に正直だと感じているよ。たとえそれが誇張や空想に終わったとしても、それは私にとって本当の空想だよ。」DAZED
Odd Futureの韻文に「Fag*ot(日本語で「ホモ野郎」的な意味を持つ差別的要素の強い用語)」が使われていることで、一部の人々からは性差別的、同性愛者差別的、そして無責任だと批判されることがありました。一方、タイラーによると、これは「つまらないやつ」の比喩的表現であり、差別的な意味は一切ないとしています。彼のファンや他の支持者たちは、彼があえて聴き手を不快にさせることで、特定の社会的な問題についての議論を引き出そうとしていると解釈していると考えられています。Sydは同性愛者というのを公言しているのもあり、その批判は彼女にも及んだそうです。
Sydは過去にThe Internetのトラック「Cocaine」のビデオで、彼女のガールフレンドに薬を飲ませて道端に置き去りにしたという場面が含まれていたことから、LGBTQ+のコメンテーターから、セクシャリティに関連した批判を受けていました。これは*3でも述べたたOdd Futureが、ホモフォビックなスラングを頻繁に使用していたこと(Sydも所属していたため)に加え、同性愛者のストーリーで展開されていたためです。Sydはこれに対し「ハードドラッグにはハッピーエンドがないことを示したかった。だからコカインをやっているビデオの最後にハッピーエンドをつけるわけにはいかなかった。[R]」と考えていて、ドラッグを賛美するためやLGBTQ+コミュニティに敵対するものではなかったそうです。
4. Dollar Bills
リリース:2017年2月3日
収録作品:『Fin』
こちらも「All About Me」と同じく、スティーブ・レイシーがプロデューサークレジットされている他、ボーカルとギターでも出演している一曲です。
[Verse 1]
Alright, I pull up the freshest
(よし、俺は最高にオシャレで現れる)
But what’s new? I walk in, no guest list
(でも何が新しい?ゲストリストなんてなく入場する)
The chandelier matches my necklace
(シャンデリアが俺のネックレスとマッチしてる)
Don’t worry about it
(気にするな)
Don’t know about you, but I’m feeling like the man
(君のことは知らないが、俺はまるで主役みたいだ)
And she dancing like she knows I am
(彼女は俺がそうだと知っているかのように踊っている)
Now she actin’ like she don’t know them
(今、彼女は彼らを知らないかのように振る舞っている)
So I’m flashing all this cash on her
(だから俺は彼女に向けてお金を見せびらかす)
Watching her ass, I know you can go faster, girl
(彼女のお尻を見てる、もっと速く行けるはずだ、ガール)
「最初は男性のアーティストをイメージしてその曲を書いたんだ。だから最初のヴァースで”俺はまるで主役みたいだ”って言ったりもしたんだ。ただ、それに代わる良い言葉が思いつかなかったんだよ。あの曲は、酔ったストリッパーのファンタジーに触発されたものだよ。」
ワイルドな口調で進行していくこの曲は、女性の注目だけでなく、「男性主導の場で彼女の存在が疑問視されないこと」を示唆しているのではないかとも考察されています。
5. Out Loud feat. Kehlani
リリース:2022年4月8日
収録作品:『Broken Hearts Club』
Sydのソロ二作目に収録された、カリフォルニア州オークランド出身のシンガーKehlani(ケラーニ)とのコラボソング。アコースティックギターの音色が際立つトラックが、異常なエモさを演出する一曲です。
ケラーニとは非公開インスタグラムアカウントを共有するほどのリアル友達だそう。そんな仲なのにお互いのコラボ曲を本気で作っていなかった事をふと疑問に思った二人が、ついにこの曲で「ちょうど良く(単に一緒に仕事をするだけでなく、芸術的なビジョンに合った適切な)」コラボを果たしました。
「私がKehlaniを選んだのは、長い間一緒に仕事をするつもりだったからで、ちょうど良い曲が何曲か必要だっただけだった。彼女は実生活の友人で、フィンスタ(非公開インスタグラムアカウント)の友人でもあるので、お互い何をしているかを常に知っているんだ。それなのに、なぜ私たちは本気でスタジオに入らなかったのかと思いました。それは彼女が言っていたことで、彼女は”一緒にプロジェクトを作らない?”と言っていたんだ。」UPROXX
そんなケラーニのバースでは、パートナーが以前は自分のもので、一緒に過ごす時間を楽しんでいたことを振り返っています。しかし、今ではパートナーが何かを隠しているように見え、はそれを認めたくない様子がうかがえます。
[Verse 2: Kehlani]
Speak up
(声を大にして)
Why all a sudden you’re quiet?
(なぜ突然あなたは静かなの?)
Why suddenly you’re shy?
(なぜ突然あなたは恥ずかしがるの?)
Suddenly, you ain’t mine
(突然、あなたは私のものではない)
You’ve been mine for sometime
(あなたはずっと私のものだった)
Makin’ them sounds all night
(一晩中、その音を立てて)
Brought you way too high
(あなたを高すぎるところへ連れて行った)
You could never deny me to the ears of your neighbors
(あなたの隣人の耳に私を否定することはできなかった)
The eyes of the strangers, that watch us when we walk by
(私たちが通り過ぎるときに見てくる見知らぬ人の目)
‘Cause I’ve been loving you right
(なぜなら、私はあなたを正しく愛してきたから)
So what’s with all the silence?
(だから、そのすべての静寂は何?)
Baby, you don’t gotta hide at all
(ベイビー、全然隠さなくていい)
率直な感情表現や、愛を公に認めることの重要性などを紐解きながら、歌い手の脆弱な心が読み解ける曲です。
関連記事:Kehlani(ケラーニ)/ 成長し続けるリアリスティックR&Bアーティスト
6. CYBAH feat.Lucky Daye
リリース:2022年3月18日
収録作品:『Broken Hearts Club』
ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガーソングライターLucky Daye(ラッキー・デイ)とのコラボソング。曲中にもある「「Could You Break A Heart」の頭文字からなるタイトルの歌です。
[Chorus: Syd]
Could you break a heart? Oh, oh, oh
(心を壊せるか?)
Could you break a heart? Oh, oh-oh, oh, oh-oh, oh
(心を壊せるか?)
Could you break a heart? Ooh-oh, a heart
(心を壊せるか? 心を)
Could you break a heart
If I asked you, if you had to? (Yeah)
(心を壊せるか、もし私が頼んだら、もし必要だったら?)
パートナーの心を壊せるかどうか(そのパートナーが自分の心を傷つける可能性があるかどうかを確認したいという不安)を繰り返し問うコーラスが印象的。パートナーに気持ちを解放し、完全に信頼し切る前に、相手の感情を大切にできるかどうかを知りたいという心情を反映しているのが感じ取れます。
リフレインでも「Do me wrong or do me right(私を傷つけるか、愛するか)」と歌っていて、愛における「約束」や「確証」、「誠実性」というテーマが見え隠れしています。
客演のラッキーとは初めてのコラボだそうで、連絡を取るなりすぐに制作を進めてくれたのだそうです。
「実際には会ったことも話したことも無かったんだ。私は彼のDMに送り込んで、ヨー、曲があるんだ、と言ったら、彼は「了解。場所は?君はどこにいる?」と答えた。彼はスタジオに来て、とても素早く、簡潔に、とても自然にやってくれたんだ。彼が帰った後、私は思い出して言った、「ヨー、彼はめちゃくちゃクールだよ、彼は私たちの一員だね。」UPROXX
関連記事:セクシーかつスモーキーなシンガーLucky Dayeとは / 成功までの軌跡
最後に
以上、Sydについて掘り下げてきました。音楽に囲まれながら若きエンジニアとして始まり、Odd Futureの一員、そしてThe Internetのフロントマン、さらにソロアーティストとして羽ばたいている彼女の多面性には驚かされますね。
内省的でパーソナルな部分をみせる魅力もそうですが、エンジニアやソングライターとしての実力に裏付けられた独自の音楽力と、包み込むような繊細なボーカルの唯一無二感がハンパないです。それぞれの要素が絡み合って、Sydというアーティストの世界観が成り立ってるんだなと思いました。引き続き、Sydの動向を注視していきましょう。
ということで今回はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。
Reference
・The Guardian “Syd: The Internet Odd Future Interview Hive Mind”
・Crack Magazine “Syd: Cover Story Interview The Internet”
・Time “The Internet Interview”
・Web Archive “Odd Future’s Syd The Kyd Talks Music Identity and The Internet”
・Out “Syd Kyd Could Be Hip Hop’s Next Lesbian Icon”
・Sibat Media “The Odd Future Wolf Gang Bible”
・NME “Syd Odd Future Internet Interview 2017”
・Dazed Digital “Syd Tha Kid Interview”
・Uproxx “Syd Interview Broken Hearts Club”
・W Magazine “Syd Internet Broken Hearts Club New Album Interview”
・The Guardian “Syd Tha Kyd Odd Future The Internet Cuss Words”
・LA Weekly “Syd Odd Future The Internet Matt Martians”
・Huffpost “Odd Future Anti-Gay Slurs”
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