Kehlani(ケラーニ)/ 成長し続けるリアリスティックR&Bアーティスト

「私はアーティストであり、あらゆるものを聴き、あらゆるものを生み出したい。」

現代のR&Bを語る上で欠かせないアーティストの一人Kehlani(ケラー二)。パーソナルな内容、脆弱性をも作品に落とし込み、苦労人ながらも若くして成功を掴み取ったアーティストです。

今回はKehlaniの生い立ちについてや、これまでの活動内容、彼女のヒットソングを深掘ります。

Kehlani(ケラーニ)プロフィール

名前 Kehlani(ケラーニ)
本名 Kehlani Ashley Parrish(ケラーニ・アシュレイ・パリッシュ)
生年月日 1995年4月24日
出身 カリフォルニア州オークランド
主な作品 アルバム
・『SweetSexySavage』(2017)
・『It Was Good Until It Wasn’t』(2020)
・『Blue Water Road』(2022)
ミックステープ
・『Cloud 19』(2014)
・『You Should Be Here』(2015)
・『While We Wait』(2019)

Kehlani(ケラーニ)は、カリフォルニア州オークランド出身のシンガーソングライター。90年代と2000年代初頭のR&B・ネオソウルの影響を色濃く受け継ぎ、滑らかな声と自身の経験に基づく深みのある歌詞で人々を魅了するアーティストです。

中学生で音楽の道へ進むことを決意し、80年代後半〜90年代に人気を博したソウル/R&BバンドTony! Toni! Tone!(トニー・トニー・トニー)」のメンバーD’wayne Wiggins(ドゥエイン・ウィギンス)が後押しするバンド、Poplyfeのメンバーに選出。人気オーディション番組『America’s Got Talent』に出演し、若くして歌手として注目されました。

バンド解散後は『America’s Got Talent』で知り合ったニック・キャノンに見出され、ソロアーティストの道へ。2014年にミックステープ『Cloud 19』をリリースし、複数の音楽誌で2014年注目のアーティストとして取り上げられました。

2015年には2作目のミックステープ『You Should Be Here』を発表。第58回グラミー賞「ベストアーバンコンテンポラリーアルバム」にノミネートされ、メジャーレーベルAtlantic Records(アトランティック・レコード)との契約を果たします。

2017年にメジャーデビューアルバム『SweetSexySavage』をリリースし、ビルボード200の3位にランクイン。アルバムのシングル「Distraction」は、彼女[*1]に2度目のグラミー賞ノミネートをもたらしました。

2019年2月に3作目のミックステープ『While We Wait』をリリース。さらに翌年にはビルボード200で2位デビューを果たした、セカンドアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』をリリースしました。

2022年には『サードアルバム『Blue Water Road』を発表。ビルボード「2022年ベストアルバム50枚」にも選ばれ、26歳にして数々の過渡期を乗り越えた彼女の「音楽的成長」と「精神的成長」が味わえる作品をリスナーに届けました。

*1「彼女」という表記・代名詞について

2021年の初めにケラーニはレズビアンであることをカミングアウトしています。2021年11月のBYRDIE誌の取材にて “人が「彼女」と言うのは全く気にならないけど、人が「彼ら」と言うのは何かとても肯定される感じがする[R]” と述べているため、ケラーニに対する代名詞は「she/they」が適切と考えられます。本記事ではその意向を尊重の上で、初見の方でも分かりやすくするため、アーティストに対し「彼女」と記載することがあります。LGBTQ+やノンバイナリーの代名詞に関することはこちらの動画で詳しく解説されているのでチェックして頂ければと思います。

Kehlani(ケラーニ)トップ10ヒットソング

1.Gangsta

リリース:2017年
収録作品:『SweetSexySavage』

スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンなどで有名な、DCコミックス映画『Suicide Squad(スーサイド・スクワッド)』のサントラに収録の一曲。

バッドマンの悪役、ジョーカーのパートナーとしても知られるHarley Quinn(ハーレイ・クイン)のテーマソングで、ジョーカーとの深い絆や互いの忠誠心の強さについての曲です。

2.The Way (feat. Chance The Rapper)

リリース:2015年
収録作品:『You Should Be Here』

シカゴのラッパーChance The Rapperとのコラボソング。以前にもChanceの「Lady Friend」でバックボーカルを務めるなど、密かにコラボしていた二人ですが、本曲が初の公式コラボソングだそうです。

元々この曲は、チャンスに対して「友人として音楽的な意見を聞くため」に送った曲なのだとか。はじめは「リミックス用にヴァースを用意しといて」という雰囲気だったそうですが、結果的にオリジナルに参加してくれることとなったそうです。

関連記事:チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)を紹介 / 経歴からリリースアルバムまで

3.Good Life (&G-Eazy)

リリース:2017年
収録作品:『The Fate of the Furious: The Album』

ケラーニと同じカリフォルニア州オークランド出身のラッパーG-Eazy(ジー・イージー)とのコラボ曲。『ワイルド・スピード』シリーズ第8弾『The Fate of the Furious(ザ・フェイト・オブ・ザ・フューリアス)』の主題歌で、映画のサントラにも収録されています。

二人の成功、二人がここまでのぼり詰めたことや、音楽での夢の実現を高らかに歌った曲です。

4.Distraction

リリース:2016年
収録作品:『SweetSexySavage』

デビューアルバム『SweetSexySavage』のセカンドシングル。第60回グラミー賞「ベストR&Bパフォーマンス」にノミネートされた曲で、彼女にとって2度目のグラミー賞ノミネートソングです。

この曲は、ある女の子とのロマンチックな関係についての歌。(2021年にケラーニはレズビアンであることをカミングアウトしています[R])

「あなたは気晴らしにはなるけど、今の私のやりたい事は邪魔できないんだ」と、カジュアルな関係性について歌っています。

5.Nights Like This (feat. Ty Dolla $ign)

リリース:2019年
収録作品:『While We Wait』

ロサンゼルスのシンガーTy Dolla $ign(タイ・ダラー・サイン)との初コラボソング。ケラーニのミックステープ『While We Wait』のリードシングルです。

Lyric

And I can’t believe the lies that I went for
(嘘なんだよね、もう信じられない)
Thought you was mine, but you decided to be with him though
(あなたは私のものだと思ってたけど、あなたは彼と一緒にいることに決めた)
You took my feelings and just threw ’em out the window
(私の気持ちを奪って窓から投げ捨てたのよ)
Feel like it’s too hard to fall in love again, no
(もう一度恋をするのは難しいわ)

と歌うこの曲は、誠実に接してくれない恋人に対する辛辣な想いを語った歌です。

6.CRZY

リリース:2016年
収録作品:『SweetSexySavage』

ケラーニのデビューアルバム『SweetSexySavage』のファーストシングル。グラミー賞も受賞している女性2人組のプロダクション/ソングライター・デュオNovawavがプロデュースした曲です。

Lyric

Niggas don’t know where I came from
(連中は私がどこから来たのか知らないのさ)
Boy, I really-really came up
(私は本気で這い上がってきたんだ)
You never could say I’m lacking
(私が足りてないなんて言わせない)

ニック・キャノンに見出されたことが飛躍の大きなきっかけとなったケラーニは、「コネで成功したんだろ」と辛辣な声を浴びたこともあったそう。

この曲ではそんな彼女自身が、「苦労や努力、実力で乗り越え成功を掴んだんだ」ということを称えた一曲です。

これが「メジャーデビュー作のファーストシングル」という点にも感慨深さがありますね。

7.Can I

リリース:2020年
収録作品:『It Was Good Until It Wasn’t』

ケラーニのセカンドアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』のリードシングル。

コロナが加速していた時期に仕上げられたMVは「Quarantine Style(検疫スタイル)」と称し、ウェブカメラを使ったパンデミックに対応した映像です。

彼女はMVについて、「セックスワークへの賛歌である」ことを明かしています。映像の最後にはブラックネス、ファットネス、 ジェンダーなどについて講演や著作活動を行っているDa’Shaun L. Harrison氏の声明が記載。

声明では、「セックスワーク(性的サービス)は合法的な労働形態であり、犯罪を遠ざけ、安全に機能するよう務めなければならないこと」、「政策や汚名を着せられることによって、生活や生計に影響を受けてしまう人(特に黒人のトランスジェンダー女性や有色人種の方)がいること」「それらから学び、コミットしなければならないこと」などが表明されています。

8.TOXIC

リリース:2020年
収録作品:『It Was Good Until It Wasn’t』

こちらもセカンドアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』に収録。過去の「毒」のある恋愛関係について語る曲で、「西海岸のラッパーであるYGとの関係を振り返っているのではないか?」推測されたそうですが、本人が公式に否定しています。

ちなみに非クレジットですが、「Nights Like This」でもコラボしたTy Dolla $ignがバックボーカルを務めているそうです。

9.up at night feat. justin bieber

リリース:2022年
収録作品:『blue water road』

ケラーニのサードアルバム『blue water road』のサードシングル。人気シンガーjustin bieber(ジャスティン・ビーバー)とのコラボレートは、ビーバーの『Changes』に収録のデュエット曲「Get Me」に続く二度目だそうです。

互いに夢中になり、溺愛している恋愛模様を歌ったこの曲は、爽やかなアッパーチューン。『blue water road』の他のシングル曲「Altar」、「little story」、「Everything」と比べてもノリが良く、作品の熱量とトーンをワンランク上げる一曲です。

10.Altar

リリース:2021年
収録作品:『blue water road』

サードアルバム『blue water road』プロジェクトの幕開けを飾ったファーストシングルです。

すでに削除されてしまっているツイートでは「私が失ったすべての人たち、私が得たすべての天使たち、私の胸を割って一緒に歩いてくれるすべての人たち、これはあなたのためのものよ」とこの曲の意味が説明されていたそう。[R]

亡き恋人、友人、家族、自分の元を去った愛する人々へのトリビュートソングです。パンデミックによって多くの方の尊い命が旅立ったことにもリンクする一曲でもあります。

EX.Other recommended songs

ヒットソング以外のおすすめ曲はYoutube再生リストでまとめています。ご興味ある方はぜひ覗いてみてください。

Kehlani(ケラーニ)の半生を辿る

叔母の元で育った幼少期


ケラーニはカリフォルニア州オークランドで生まれました。父親は彼女が赤ん坊の頃に亡くなっており、母親は薬物中毒だったため、幼少期は叔母の元で育ったそうです。

「私のおばちゃん。シングルマザーで2人の子供と私を育ててくれた。私は彼女の子供ではなかったけど、彼女は私を彼女の子供として育ててくれたのよ。」COMPLEX

叔母が聴かせてくれた音楽は、TLCやAaliyah、Jill Scott、Musiq Soulchild、Erykah Badu、Lauryn Hill、Fugeesなど、ネオソウルやR&Bが多かっただったそう。特に2000年代前半の音楽に想い入れが強く、ヒップホップについてはあまり詳しくないのだとか。

中学の頃にはバレエに精を出していたケラーニでしたが、膝を痛めてしまったため断念したそうです。また、「文学的だった」と語る彼女は、この頃から物語を語るのが好きだったそうです。

「中学生の頃は短編小説を書いては英語の賞をもらっていたくらい、物語を語るのが得意だったんだ。音楽に転向したとき、世界中の若い女の子たちが今経験していることを、リアルに一言一句漏らさず伝えることができると思ったのよ。」YouKnowIGotSoul

バンドを結成し、歌手として注目された10代前半


その後、ボーカル科への転向を機に、地元のカバーバンドでピアノを弾いている同級生と知り合いました。

カバーバンドのマネジメントを努めていた同級生の父親は、なんと80年代後半〜90年代に人気を博したソウル/R&Bバンド「Tony! Toni! Tone!(トニー・トニー・トニー)」のメンバーD’wayne Wiggins(ドゥエイン・ウィギンス)。歌を披露するなり彼の目に留まり、その後の3年間ウィギンズの息子らと一緒に、バンド「Poplyfe」を結成。クラシックソウルのカバー演奏やショーを行うこととなったそうです。

「私はとても怖かったわ。ちゃんと歌ったのはその時が初めてだった。彼に歌ったら、彼は”さあ、やろう”って感じだったの」COMPLEX

16歳までひたすらショーを行ったケラーニとバンドは、歌手として飛躍するきっかけとなったテレビ番組『America’s Got Talent*[2]』のオーディションを受けました。

バンドは同番組のシーズン6に出演し、ショーレースでは4位を獲得。伝説的シンガーソングライターのStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)とも共演を果たしました。

番組の出演を終えたあとバンドは解散し、それぞれ別々の道へと進みます。

*2 America’s Got Talent

America’s Got Talent(アメリカズゴットタレント)は、2006年にスタートしたアメリカのタレントコンテスト番組。歌手、ダンサー、マジシャン、コメディアンなど、多ジャンルのパフォーマーが出演し、無名のアマチュアアーティストが知名度や賞金をかけて競い合うリアリティショーです。

人生の恩人、ニックキャノンとの出会い


帰る家が無かったというケラーニは、「高校を卒業するのが精一杯だった。」と語り、高校生にしていくつかの仕事を掛け持つ日々を過ごします。

3年間あちこちを転々とし、ときにはホームレスも経験したそう。音楽からも離れていました。

そんなある日、『America’s Got Talent』で知り合っていたラッパーのNick Cannon(ニック・キャノン)から「何か手助けできることはないか?」と連絡が入ります。

キャノンは、彼女にラップグループへの加入を持ちかけました。結果的にグループからは脱退するも、キャノンはケラーニのソロアーティストとしての才能を認め、音楽の才能が集まるロサンゼルスへの移住を薦めたそうです。

「よう、君のビジョンがわかったぞ!」COMPLEX

「ソロ・アーティストとしてどうありたいのかが分かったよ。俺はそれを尊重する!」COMPLEX

キャノンはロサンゼルスで彼女の住む場所を用意し、スタジオも提供。現在のケラーニがあるのもニック・キャノンの影響が大きく「彼は私の人生を永遠に変えてくれた」と、本人も恩人として慕っているようです。

「バンドが解散した後、初めて私のことを信じてくれた人よ。」YouKnowIGotSoul

「レコーディングをしたり、頭を休めるための安全な場所が必要であれば、彼はそれをケアしてくれたんだ。」YouKnowIGotSoul

始まりのミックステープ / ソロアーティストとして実力を示す

ニック・キャノンの後押しを経て、2014年にミックステープ『Cloud 19』をリリース。Complex誌の「2014年のベストアルバム50」へのランクインや、Pitchfork誌の「Overlooked Mixtapes 2014」などに掲載されるなど、作品を機にケラーニの実力は世の中へ知れ渡りました。

2015年には2作目のミックステープで彼女のパーソナルな部分が詰まった作品『You Should Be Here』を発表。第58回グラミー賞「ベストアーバンコンテンポラリーアルバム」にノミネートされました。

前作『Cloud 19』との大きな違いを「私自身が成長したこと」と語る作品で、その成長をクリエイティブへ反映したのだとか。

「私自身が成長したこと。家族と新しい関係を築き、自分自身を本当に知ることができ、新しい人間関係に入ったわ。以前は必ずしも持っていなかった多くの人生を見出すことができた。そのおかげで、クリエイティブな面でとても広がりを感じることができたんだ。」billboard

ケラーニのパーソナルな部分、恋愛をテーマの多くとした楽曲で構成。複雑な家庭環境だった彼女にとっては「恋愛」が感情コントロールに必要なものだったそうです。

「家族の問題を抱えながら育つと、感情移入のプロセスを学べないことがあるんだ。普通の人は母親や親友に相談するところを、私はボーイフレンドに相談した。だからこそ、私と関係が深いラブソングをたくさん作っているんだと思うの。すべてが愛なんだ。私はただ、それをとても脆弱にすることを選んだだけなの。」billboard

メジャーレーベル契約で飛躍 / デビューアルバム『SweetSexySavage』と『While We Wait』


2015年にメジャーレーベルであるAtlantic Records(アトランティック・レコード)と契約したケラーニは、2017年の初めにメジャーデビューアルバム『SweetSexySavage』をリリースしました。

同年2月にビルボード200に3位でランクインし、アルバムのセカンドシングル「Distraction」は彼女にとって2度目のグラミー賞ノミネートをもたらしました。

TLCのアルバム『CRAZYSEXYCOOL』からインスピレーションを受けたというアルバムタイトルには、「すべての女性が、スイートで、セクシーで、野蛮で、スマートで、重要で、クレイジーで、セクシーで、クールで…という要素を同時に持っている」ことを意味しているのだそう。

また『SWEETSEXYSAVAGE』は辛い時期のあとにリリースできた作品でもあり、ネガティブではなく、ポジティブなメッセージ性があるのだそうです。

「『SWEETSEXYSAVAGE』には、ハッピーになりたい、楽しくなりたい、ネガティブなことにとらわれたくない、という私の進化が表れているの。だから、このアルバムは悲しいとか、そういうものではないんだ。」iHeart

2019年2月、ケラーニは3作目のミックステープ『While We Wait』をリリース。妊娠が発覚していた頃の作品で、「While We Wait(待つ間に)」と銘打たれた本作は、「娘への贈り物」と本人も語った愛のある作品です。彼女の成長がまた新たな形でより深みを持って表現されています。

サウンド面も多様性に富んでいて、Omarionの代表的な曲「Ice Box」をサンプリングしたMusiq Soulchildとの「Footsteps」から始まり、9曲と短い尺の中でグルーヴィーなメロディーから、シックなビートまで乗りこなしています。

また、ビルボード200チャートでは9位を獲得しました。

セカンドアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』 / 前作とは打って変わるダークな質感


コロナパンデミックという激動の時代に突入した2020年、ケラーニは二枚目のスタジオアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』をリリース。ビルボード200チャートでは2位デビューを果たしました。

本作はこれまでの作品の中で(2020年7月時点)「個人的なベストプロジェクト」と述べ、2020年の大晦日に亡くなったケラーニの友人ラッパー、Lexii Alijai(レクシー・アリジャイ)に捧げられたものだそうです。

「私のベストプロジェクトは『It Was Good Until It Wasn’t』。2番目に良かったプロジェクトは『You Should Be Here』よ。」Complex

彼女は「『SweetSexySavage』のような”ポップス”を作ろうとしなかった」と語り、前作と作品のトーンが違う、ダークな雰囲気に包まれています。

「このR&Bのプロジェクトはとても成熟したものにしたかったし、ストーリーを語って、一つの世界の中で自分が望む簡潔なものにしたかったの。このアルバムでは、アップテンポな曲を作る時期ではなかったから、もっとメランコリックなストーリーを語りたかったんだ。」genius

アルバムアートワークも「郊外の不気味さ、まるでホラー映画やスリラーのポスターのようなものを表現しようとした[R]」と語り、「一見幸せそうに見える地域だから、実際には何が起こってるのか分からない」という意味が含まれているのだそうです。

数々の人生の過渡期を乗り越えた三作目『Blue Water Road』

2022年4月、26歳になったケラーニはメジャーアルバム三作目となる『Blue Water Road』をリリース。前作『It Was Good Until It Wasn’t』のデラックスエディション用に執筆していた曲が、「新しいプロジェクトになりそうだ」と感じたところから発足したプロジェクトだそうです。

「ブルーウォーターロードは私の心の中の目的地」と声明を出し、芸術的な旅のひとつの終着点を表現しています。

「みんなにアクセス権を与えているの。それは感情の旅であり、性の旅であり、精神の旅でもある。私にとって、このアルバムはガラスの家のようなもの。軽くて、透明で、その中を太陽が照らしているんだ」billboard

どこか明るく振る舞うピエロを演じていた一作目の『SweetSexySavage』、ダークで不穏な香りを大人びた質感で演出した二作目『It Was Good Until It Wasn’t』から、さらに成長した彼女を感じられます。

「26歳のKehlaniは、ちょうど超ポジティブだけど過渡期にあったと思うんだ。私はたくさんの変遷を遂げてきたけど、今回は私の人生の中で最も大きく、最も恒常的な変わり目だった。私は平和を見つけ、理解を深め、地に足をつけることができたと思うし、だからこそこのアルバムはそのように感じられるのだと思う。」Complex

内容はこれまでよりもさらに充実感がありつつ、外向けの「演出」より、自身を内省し「理解」や「受容」の部分を表現した印象で「地に足をつけることができた」という発言が本作の特徴を表しているように感じます。

「音楽家としてだけでなく、一人の人間としての私の成長を聴いてほしい。昔の自分を全く失うことなく、今の自分に成長することが可能だということを見てもらいたいんだ。」HIGHSNOBIETY

どこか健やかな表情を見せるアルバムアートワークも『Blue Water Road』の特徴をよく表している印象です。

最後に

Kehlaniを紹介させていただきました。特にデビューしてからのアルバム三作品の流れを追っていくだけでも、彼女の葛藤や想いが伝わってくるような気がしました。

  • ファーストアルバムでは無理に明るく振る舞っていた部分があった。成功者としての一歩目はポジティブなものにしたかった
  • セカンドアルバムではセレブとして歩んでいく中での障壁や、自身の人生で起こった辛い出来事を「一つ大人になった自分として」表現した
  • サードアルバムをリリースした時点でこれまでにない過渡期があって、それは決して簡単なものではなかったが、それを乗り越えたことで一つの旅の目的地へ達成できた

上記はあくまでも僕の感想なので本当のところは分かりませんが、彼女の苦悩と成長が作品にしっかりと反映されていて、長編のヒューマンストーリーを見ているような感覚になりました。

三作目のアルバム『Blue Water Road』での「旅の目的地」という達成感にも似た表現は、彼女自身のセクシュアル・アイデンティティの理解が進んだのも大きいようです。

「ヒットソング紹介」のトピックでも記述しましたが、ヒットソング以外の個人的なおすすめ曲をYoutubeプレイリストにまとめているので、ぜひそちらも覗いてもらえたら幸いです。

では、最後までお読み頂いきありがとうございました。

おすすめ記事:最新R&Bプレイリスト「Take It Easy」Vol.20

おすすめ記事:2022年に紹介しきれなかった作品を一挙に紹介

Reference

COMPLEX「Kehlani Talks About the Making of “Cloud 19,” the Tutelage of Lauryn Hill, and Getting a Hand From Nick Cannon」
COMPLEX「Kehlani Ranks Her Projects, Talks Motherhood and Drive-In Concerts」
COMPLEX「On ‘Blue Water Road,’ Kehlani Reroutes」
COMPLEX「Who Is Kehlani? The Oakland Singer Talks About Being On “America’s Got Talent” & How Nick Cannon Saved Her Life」
YouKnowIGotSoul「Interview: Kehlani Talks Cloud 19 Mixtape, Being Managed by Nick Cannon, Authenticity in Music」
VOXATL「ON “WHILE WE WAIT,” KEHLANI DELIVERS A HEARTFELT, REAL-LIFE FANTASY」
CelebMix「MIXTAPE REVIEW: Kehlani – While We Wait」
billboard「Kehlani on Insecurity, Coming of Age and Bringing a ‘Vulnerable Honesty to R&B’」
HIGHSNOBIETY「KEHLANI IS IN A WHOLE OTHER PLACE NOW」
NME「Kehlani: “I’m really in a lighter, more mature, happy, fun space”」
Byrdie「Kehlani Is Constantly Reflecting and Forever Evolving」
Warner Music Japan「Kehlani」
genius「Kehlani」

Cite from Thumbnail Image

facebook.com/Kehlani

関連記事一覧