2024年8月 / 今月のチェックマーク作品リスト

その月にリリースされたもので、チェックマークを是非とも付けておきたい作品(アルバム・EP・ミックステープなど)をピックアップする記事です。

ということで、8月は以下のラインナップとなっております〜。

Ravyn Lenae – 『Bird’s Eye』


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8/9リリース。シカゴ出身のRavyn Lenae(レイヴン・レネー)の2ndアルバム。

本作は父親との複雑な関係について歌っている、ハイライト曲の一つ「One Wish」など、彼女自身の経験や感情が深く掘り下げられています。また、24歳の今の自分を「Pilot」などの楽曲でリアルに記録し、音楽を通して人生の瞬間を刻むというコンセプトが大きな魅力です。

制作においては、ライターのサラ・アーロンズとの共同作業を通じて、作詞に対する新たな愛情を見つけたと話しています。メロディを大切にし、その上に言葉を乗せていく彼女の独特な作曲プロセスが、このアルバムにも生きています。

「私にとっては、メロディーがすべてなんだよね。コードを聞いた瞬間にまずメロディーが浮かぶ。そこから言葉が出てきて、最初は単語だけでも、それを感情に繋げて、そこからストーリーができていく感じ。今回のアルバムでは、友達のSarah Aaronsと一緒に作詞をして、彼女は超才能あるライターなんだけど、すごく仲良くなって、私の感情や物語をどう表現するかを一緒に探っていくのが本当に楽しかった。今まで共作なんてしたことなかったんだけど、今回は最初から最後まで彼女がサポートしてくれて、私の視点や物語をどうやって伝えるかを理解してくれて、本当に美しい体験だったよ。」Women In Pop Magazine

『Bird’s Eye』は、「ジャンルを超えた自由な表現をしている」と言われていますが、制作自体を楽しんで行なったこともそんな”自由さ”に繋がったのかもしれません。

「よく”2枚目のアルバムはプレッシャーがすごい”って話を聞くけど、私は全然そんなことなくて、1枚目を出して、じゃあ次はもっと自分が好きなことやろうって感じだった。だから、このアルバムは本当に楽しかったよ。」Women In Pop Magazine

Ambré – 『i do this sh*t in my sleep』


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8/9リリース。ニューオリンズ出身のシンガーソングライターAmbré(アンブレ)の新作ミックステープ。現在アルバム制作に取り組んでいるという彼女が”デモ集”としてリリースした6曲からなる作品だそうです。

「これはアルバムじゃないんだ。これらの曲に何ヶ月も費やしたわけじゃない。これらはデモの集まりなんだよ」DEF PEN

「これがデモだなんて」と思わせるような、極上メロウな曲ばかりで、アルバムに期待が高まります。

関連記事:Ambréとは / ソフトで繊細なボーカルを持つ魂のメロディメーカー

Chlöe – 『Trouble In Paradise』


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8/9リリース。アトランタ出身のシンガーChlöe(クロイ)の2ndアルバムです。

本作は、前作『In Pieces』が「失恋の悲しみを受け入れる』」内容だったとすれば、「女性としての成長を祝う、楽しさに満ちた、人生をあまり深刻に考えないためのアルバム」だといいます。

多くの曲が、カリブ海にあるセントルシア島滞在中に制作されたそうです。日々人々の評価の矢面に立たされるセレブの彼女にとって、平和な精神状態で制作できたことは、作品にも大きな影響を与えていると言えるでしょう。

「ノーメイクで歩き回れるし、自分の体を愛しながら歩けるし、海にも行ける。そして、人生は自分のキャリアがすべてではないということを思い出させてくれる。外面的な評価ではなく、内面的な平和が大切なのだと。私はただ、この場所が私にもたらした平和と愛を感じてほしかったの。この場所が、私の創造的な心と創造的な精神を開放してくれて、文字通り楽園で悩みを書き綴ることができた。そしてこのアルバムは、ひと夏の恋のような、行ったり来たりするような、高揚感、低揚感、愛に満ちた作品に仕上がったわ」HelloBeautiful

R&Bはもちろんのこと、カリプソ、ゴスペル、アフロビーツなど、ナチュラルでグラマラスな音楽が濃縮された作品です。

Kenyon Dixon – 『The R&B You Love: For the ’99 and the 2000s』


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8/9リリース。ロサンゼルスのシンガーKenyon Dixon(ケニヨン・ディクソン)のニューEP。

彼の「The R&B You Love」シリーズの最終章であり、文字通り1990年代後半から2000年代初期のR&Bへの愛を全面に押し出した作品です。

Dixonは、このプロジェクトを通じて、「R&Bが死んだわけではなく、その感覚は今も生き続けていること」を伝えたいと語っています。また、「R&Bというジャンルには常に居場所があり、今でもその美しさを感じられる」というメッセージも込めています。

「このプロジェクトは『The R&B You Love』シリーズの最終章だ。これは、長年にわたって俺たちをインスパイアしてきたR&Bへのオマージュなんだ。シリーズ全体における俺の主な目標は、みんなにあの感覚が消えていないことを思い出してもらうことだった。俺たちが愛するR&Bには、今もこれからも常に居場所があるんだよ」Rated R&B

ちなみに楽曲「Brand New」は、もし自分が90年代を代表するR&Bグループのメンバーだったらどうだったかを想像しながら制作したのだとか。

Jodeciはその時代のスタイルを象徴するグループであり、彼にとっても非常に大きなインスピレーション源だったと語っています。

「”Brand New”はその中でも特別な一曲です…この曲は、史上最高の男性R&Bグループの一員であったらどんな感じだったのか、という俺の夢を体現したものだ。彼らはその時代を支配し、90年代R&Bの非常に影響力のあるスタイルを生み出したトレンドセッターだった。この曲は彼らのおかげなんだ!」Rated R&B

Kalisway – 『A Kid From Toronto』


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8/16リリース。カナダはトロント出身の、オルタナティブR&Bアーティスト/ソングライター/プロデューサーであるKalisway (カリスウェイ)の新作。

ノスタルジーを感じるファンク、R&Bを色濃く匂わせる本作は、彼女が大好きだという<80年代>と、<ジャネット・ジャクソン>の2つを結びつけた何か新しいものを作りたかったのだそう。

昔の曲を聴き込み、それを自分の世界観に構築し直して、現代的80sファンクを作り上げたそうです。

また『A Kid From Toronto』は、タイトルにからも分かる通り、彼女のルーツであるトロントに対する思いと、彼女自身の物語を色濃く反映してるのだとか。

「私がリリースしてきたプロジェクトって、いつもキャリアの進化の一歩だったんだよね。でも今回は、もっと自分自身とか、私を取り巻くコミュニティに深く響くものにしたかったんだ。私がトロント出身だってこと、そしてそこから来たことを誇りに思ってるって、みんなに自信を持って伝えたかった。”A Kid From Toronto”っていうのがアルバムのタイトル曲なんだけど、これは一番最初に作った曲で、私が誰なのかってストーリーを語ってる。めっちゃ正直で、ピュアで、ポジティブなエネルギーが詰まってる。内面的な迷いとか、色々乗り越えてきたけど、それでも「今こそ私の時だ」って信じてやってきた。この街には本当にたくさんの才能があって、私はこの街で新しいサウンドを作り上げたんだって、ゼロから認められたいんだよね。」Wonderland

アップテンポでリズミカル。体を揺らすのにももってこいなアルバムです。

Tinashe – 『Quantum Baby』


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8/16リリース。2023年の作品『BB/Ang3l』に続く、3部作のシリーズ2作目です。

「Quantum Baby」は、ティナーシェ自身を表す比喩で、「強さ」と「弱さ」という対照的な面が同時に存在していることを示しています。

これは量子パラドックスにインスパイアされているそうで、「宇宙がまだ解明されず謎が多いように、自分自身も完全にわからない部分が多い」ことを表しているのだとか。

答えがない状態でも、それを受け入れ、自分の複雑さを面白いと感じているという意味があるそうです。

「私にとって、”Quantum Baby”は、今の自分を表す比喩みたいなものなの。今回のアルバムでは、自分がどこにいるか、どう感じてるかを反映させたかったんだけど、それって、すごく強い部分もあれば、すごく脆い部分もある、まさにその板挟み状態に生きてる感じなの。コインの裏表みたいに、この2つが一緒にあることがすごく重要だと思ってるのね。それで、”量子パラドックス”っていう考え方にすごくインスパイアされたんだけど、答えがそんなに多くないってことも、まぁいいんだって思えるようになったの。宇宙をめちゃくちゃ小さいレベルまで分解していくと、すごく多くの疑問とか未解決なことがあって、まだ分かってないことがたくさんある。それがすごく面白いし、魅力的だなって感じる。なんか、自分自身もそれに似てるって思ったんだよね」ELLE

ちなみに、Tinasheがこれらをシリーズにしている理由は、アルバムがすぐに消費され、新作を求められる現状に対応するためだそう。こうすることで、各曲がより深く味わわれ、すぐに消費されるのを防ぎたいという意図があるといいます。

また、リスナーが次のリリースを待ち望み、楽曲に対する期待感を高めることで、作品全体の価値を引き出す狙いもあります。

Kehlani – 『While We Wait 2』


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8/28リリース。カリフォルニア州オークランド出身のシンガーKhelani(ケラーニ)の、2019年のミックステープ『While We Wait』の続編となる、最新ミックステープです。

前作『Crash』から程なくしてリリースされた本作。『Crash』とはまた違った、クラシックなR&Bの香りをふんだんに感じさせる作風で、印象もガラッと変わっていますね。

Brandyの「Sittin’ Up In My Room」が引用された「S.I.N.G.L.E.」、Lil’ Moが参加した「Know Better」では、彼女の2003年のヒット曲「4 Ever」のサンプルが使用されているなど、R&B好きにはたまらない曲が多々収録されています。

「WWW1のときのこの感覚を続けられることが、すごく意味ある。私の裏庭の家で、このテープを2週間で作ったの。大好きな人たちみんなと一緒にね。フィーチャリングしてくれたみんな、夜中まで一緒に曲書いてくれた友達、エンジニア、そしてチームのみんなに感謝。すっごい気楽なプロセスで、誰も深く考えなかった。ただ、90度(約32℃)の暑い中で感じたことを詰めただけ。楽しんでくれたら嬉しいな。ツアーで会おうね🫂」Khelani Instagram

制作過程がとても気軽で楽しいものだったと振り返っていることから、WWWシリーズは彼女とそのチームにとって一番ナチュラルなものが反映されているのかもしれません。

関連記事:Kehlani(ケラーニ)/ 成長し続けるリアリスティックR&Bアーティスト

Muni Long – 『Revenge』


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8/30リリース。「Hrs and Hrs」で最優秀R&Bパフォーマンスのグラミー賞を受賞したシンガーソングライターMuni Long(マニー・ロング)の『Public Displays of Affection: The Album』に続く2枚目のアルバム。

「Made for Me」や「Make Me Forget」など、最近のヒットリリースも含む14曲で構成された作品です。

関連記事:Muni Longの「Make Me Forget」を考察&解説 / 痛みを忘れさせる愛の力の歌

関連記事:Muni Longの「Made For Me」を考察&解説 / 「あなたしかいない」を純粋に歌ったラブバラード

『Revenge(復讐)』という恐ろしげなタイトルですが、「復讐」という言葉は表面的なものではなく、より深い意味で解釈したのが本作なのだそうです。

過去の苦い経験や業界での困難に対し、それを乗り越え、成功を収めることが最大の「復讐」であると捉えているのだとか。

「なぜアルバムを『Revenge』と名付けたのかって?それは、最良の復讐は成功だからよ。最高の復讐はあなたの財産よ。数年前なら、あなたがまだ息をしている間に生きたまま皮を剥いでいたかもしれない。でも、今はそんなことはしないわ。ただ、どこにでも私の顔が載っているビルボードを見せてあげるのよ。」Youtube Apple Music

数年前であれば、怒りや感情的な反応で「復讐」を求めたかもしれないが、現在ではそのような方法ではなく、成功こそが最も効果的な形の復讐であると気づいたと言います。

「5年前の私なら、Lisa Left Eyeみたいにこの家を全焼させて、全てを壊そうとしていたかもしれない。でも今は違うの。ただ、こう思うのよ。『あなたの勝ちよ、私はアイスクリームを買いに行って、泣くかもしれない。でもそれが今の私』ってね。今は、ただ自分が嫌なものを見続けるより、チャンネルを変えるような感じなの。嫌いな映画を見続けている意味はない。リモコンは自分の手にあるんだから、ただオフにすればいい」Youtube Apple Music

アルバムのタイトルである「Revenge」も、その概念を反映しており、単純に相手に害を与えることではなく、自分の成功と成長が最大の力になるというメッセージを伝えています。

キャリアが確固たるものになった2ndアルバムでこれを名付けているのも粋です。

Doechii – 『Alligator Bites Never Heal』


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8/30リリース。フロリダ州タンパ出身のシンガー/ラッパーであるDoechii(ドーチ)のミックステープです。

感情的な起伏を表現するため、スタイルやビートの多様性にこだわったという本作。物語を伝えるために音楽の順番や内容を慎重にキュレーションし、暗いテーマからの回復や、最終的な解放感に至るまでの感情の旅を描いたとしています。

(「Denial is a River」では、個人的なトラウマや葛藤をユーモアを交えて語っている)

「作る時に意識してたのは”文脈”だね。これがすごく大事で。プロジェクトが長く感じるときって、何を話してるのかに文脈がない時なんだ。物語がないとか、それを支えるナレーションがないとかね。だから、自分のストーリーをいろんなビートを使って、いろんな形で細かく語る必要があるって思ったんだ。そして、これまで自分に何が起こったのか、それがどう感じさせたのか、どうやってそれを乗り越えたのか、そして今どこにいるのかっていう順番で進めていくことが大事だった。だから、プロジェクトの後半まで本当に盛り上がるような曲は出てこないんだ。」Rolling Stone

多種多様なビートを織り交ぜているのが分かるし、前半は特に引き込むためのパンチのある曲が揃っているのも個人的にグッドでした。

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