2024年10月 / 今月のチェックマーク作品リスト

その月にリリースされたもので、チェックマークを是非とも付けておきたい作品(アルバム・EP・ミックステープなど)をピックアップする記事です。

ということで、10月は以下のラインナップとなっております〜。

1.thủy – 『wings』


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10/4リリース。カリフォルニア州ベイエリア出身のシンガーソングライターthủy(トゥイ)の3作目のプロジェクト。

これまでの作品の中で「最高の芸術作品」と自負する本作は、成長や自己探求を描いており、これまで経験してきた内面的な葛藤や乗り越えた困難を音楽で表現。また、ユーモアや遊び心を取り入れつつ、女性らしさやセクシュアリティを大胆に表現した作品です。

「今回はいろんな音を試してみて、それがちゃんとひとつにまとまってるから、みんなちょっと驚くかもしれない。ほとんど同じプロデューサー陣と作ったんだけど、曲やタイトルにすごく遊び心を入れたの。だから、全体的にすごく楽しい感じが伝わると思うよ。」Atwood Magazine

『wings』というタイトルは、彼女が自由に飛び立つこと、解放されることを象徴。彼女が自分らしさを再発見し、自信を持って表現する過程が描かれています。

「『wings』がリリースされて、本当に素晴らしい音になっているよ。そう、飛び立つような自由さを表現したくて作ったプロジェクトなんだ。特に私にとっては、解放感を表現する作品だったんだ。」iHeart

「Roleplay」では声の使い方を大きく変え、通常の歌唱だけでなく、話すような表現を多用。「Cloud Eleven」では新しいプロデューサーと初めてセッションを行い、メロディのリフや即興的なアプローチを試すなど、サウンド面、歌唱面でも新しい試みをしたそうです。

コーチェラの出演で「キャリアの頂点に立った」と実感したthủyは、その上を目指さないといけないというプレッシャーの中に居たそうで、本作のリリースでやっとその重荷から解放されたのだとか。

そういう意味でも『wings』が彼女に翼を与えたのかもしれません。

2.Myia Thornton – 『f*ck what u heard』


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10/11リリース。DMVエリア出身のアーティスト、プロデューサー、ソングライター、ベーシストMyia Thornton(マイア・ソーントン)のヒップホップとR&Bが融合した最新作。

恋愛、自己成長、自己発見をテーマにした感情豊かな作品で、恋愛の痛みや喜び、自己との対話、自己肯定感の強化といったテーマがアルバム全体に対し、綿密に編み込まれています。

全体的に切ない雰囲気が漂う本作の前半は、失恋や裏切りからくる苦悩が描かれます。やがて自己愛と自分を守るための強さへと変わっていき、後半では「Really I’m That」や「Get It Girl」など、周囲に振り回されずに自己を貫く姿勢や、自己肯定と自信を取り戻す内容で締めくくられます。

自己肯定の大切さはもちろん感じましたが、同時に自己肯定の難しさも教えてくれるような人間味の強い作品だと思いました。

3.Dajah Dorn – 『Having My Way』


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10/18リリース。フロリダ州ジャクソンビル出身のシンガーソングライターDajah Dorn(デイジャ・ドーン)のデビューEP。90年代のR&Bの影響を受けながらも、現代的なサウンドや彼女自身のパーソナリティを織り交ぜ、リスナーに共感や力強いメッセージを届ける一作です。

「私の人生での本当の情熱は、常に自分を磨き続けることなの。だから、何か変えるべきことに気づいたり、もっと成長しなきゃと思ったら、いつでもそれを続けていくわ。」Streetz Atlanta

タイトルの如く「自分のやり方でやる」という信念が感じられ、「Dajahが自身のR&Bスタイルを紹介するデビュー作」とも評されています。

4.THEHONESTGUY – 『VELVET SOUL』


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10/18リリース。 トロントを拠点に活動するR&BアーティストTHEHONESTGUY(ザ・オネストガイ)の最新EP。今年の初めにリリースしている3曲入り作品『VELVET SOUL: SIDE A』の三曲に、新たな三曲が加わったR&Bとクラシックなソウルが融合した作品です。

ダニエル・シーザーばりの繊細で透き通ったヴォーカルが美しく、ジャズのテイストがほのかに香るのもポイント。18分、モダンでエレガントな時間を味わわせてくれます。

5.Raquel Rodriguez – 『Housewife』


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10/18リリース。ロサンゼルス出身のR&BシンガーRaquel Rodriguez(ラケル・ロドリゲス)の最新アルバム。リズミックでグルーヴィーな楽曲は、ラケルのパートナーであり、MAC AYRES作品などを手掛けるSammyBらが名を連ねていて、心地よいことこの上無し。

本作は「自分らしさ」を追求することをテーマにした作品で、従来のルールや「こうあるべき」という世間の期待にとらわれず、自分のペースで、自分の価値観で生きることの大切さを表現しているそうです。

「私にとっての「ハウスワイフ」は、結婚とか母親としての役割に収まることじゃなくて、女性(そして私の場合、インディーズのアーティスト)が見えないところで、あれこれやって物事を支えていることを表してる。家事をこなすハウスワイフと、インディーズで頑張るアーティストって、意外と似てるんだよね。どっちも愛情を込めて、必死に働いてるのに、なかなか認められなかったり、リスペクトされなかったりする。でも、音楽ってたくさんの人にとってすごく大切なものだし、私みたいなインディーズアーティストは、心血を注いで、誰も見てないところでコツコツと頑張ってる。」Bandcamp

つまり、ラケルにとっての「ハウスワイフ(主婦)」は、伝統的な家事や役割をそのまま表しているわけじゃなく、見えない努力や愛情から成り立つ「裏方」の仕事や、認められづらいけど大事なことを象徴しているということ。

アーティストとしても、愛する人のパートナーとしても、彼女が日々積み重ねている「影の努力」や「心のこもった仕事」が、この作品を通じてちゃんと評価されてほしい、という思いが込められています。

「自分らしく生きることを祝う作品」であり、音楽や料理を通して、彼女の今の幸せと、本当の意味での成功が描かれている一作です。

6.Ye Ali – 『Rap Sanga』


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10/22リリース。インディアナ州ハモンド出身のアーティストYe Ali(イェ・アリ)と、カリフォルニア州出身のシンガーソングライターDcmbr(ディセンバー)のコラボミックステープ。重低音強めなメロウR&Bサウンドと、滑らかなボーカルやラップが絡み合う作品です。

「火曜日に新しいミックステープを出すよ。昔からのファンたちへのちょっとしたサプライズってことでね。俺のアルバム『Trap House Jodeci 3』の前に。」X

9月にYe Aliがプロデューサー兼キュレーターとして新しい形をみせた『THJ Radio Vol.1』をリリースしたばかりですが、今度は次作アルバム『Trap House Jodeci 3』の間のファンサービスとして『Rap Sanga』をリリースした模様。

とてつもないペース感に脱帽です。

7.V.Cartier – 『Playback』


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10/25リリース。ロサンゼルスを拠点とするR&BアーティストV. Cartier(ヴィー・カルティエ)の最新EP。リラックスタイムに最適な、滑らかでリズミカルな7曲で構成されています。

彼の好きな時代のR&Bやソウルミュージックから着想を得てできたという本作。7曲に絞り込むのは大変だったそうで、友人や家族にとんでもなく沢山のデモを聞いてもらうなど、厳選された曲が詰まった作品です。

「今回の作品は、俺が一番好きな音楽の時代からインスピレーションをもらって、昔ながらのR&Bやソウルの要素(あと俺のサックス🎷もね)をもっと取り入れた曲集に仕上げてみたんだ。」Instagram

8.Tyler, the Creator – 『CHROMAKOPIΑ』


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10/28リリース。カリフォルニア州出身のラッパー、マルチタレントであるTyler, the Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の通算8枚目のスタジオアルバムです。

本作は彼が33歳という年齢で感じる人生の変化や、成長に伴う内面的な葛藤が根底にあるとされています。作中では「Like Him」や「Take Your Mask Off」などの曲で、彼が幼少期に母親から教えられた価値観や人生の教えを見直し、それを現在の自分にどう活かすかを模索。

「生まれも育ちもL.A.、イングルウッドとかホーソーンあたりね。このアルバムは元々、自分がこういうエリアで育ったことについて作り始めたんだよ。ふと思ってさ、「あれ、俺の17歳より前のことって誰も知らないじゃん」って。みんな「こいつ、郊外の出だろ」みたいに思ってるけど、いやいや、俺はここからちょっと先に住んでたんだっての。みんなが想像する「L.A.のヤツ」ってイメージには合わないっていうか… まぁでも、今のアルバムは、ガキの頃にママが言ってたことを思い出しながら作ってるんだよね。今33になって、あの時言ってたことが「あー、こういうことかよ」って分かってきたっていうか。「あー、俺ももう20歳の頃の自分とは違うんだな」って気づかされる。みんな歳を取っていくし、家族とか子ども作ってるのに、俺はフェラーリ買っただけだよ、みたいな。それでちょっと変な感じもあるんだよね。体重増えるし、胸毛に白髪も出てきたし、なんか人生ってこういうもんか、みたいな。なんていうか、ただ一人でいるときに考えることを曲にしたかったんだよ。」genius

また、色彩や光を通じた「自己探求」や「成熟」がテーマとして表現されています。

アルバムタイトル『Chromakopia』や冒頭の楽曲「St. Chroma」からも分かるように、色彩(Chroma)はTylerの中にある多様な感情や側面を表し、自分を深く理解し、多面的な自分を見つめるための手段として機能。

一方で光は、母親のBonitaから「自分の光を決して弱めるな」と教えられた教訓を基に、他者に合わせず本当の自分であることを示しています。

アルバムのモノクロビジュアルの演出や、彼が仮面をかぶっている(自分の本質と向き合おうとする)姿も、リンクしているように思います。

「ただ一人でいるときに考えることを曲にしたかったんだよ」と彼が言うように、自己を探究し、分析、内省する、タイラー自身のアイデンティティにフォーカスされた作品です。

タイラーといえば、イケイケで唯一無二の個性の持ち主で、大きな成功を納めた憧れの人物というイメージですが、ここに来て人生の葛藤というテーマの作品が出てくるのが感慨深いです。

「人生の意義」は、この世に生きている全員が平等に感じたり、考えられるものだということと、生きていく(いる)ことの価値や、難しさを改めて考えさせられました。

9.Flying Lotus – 『Spirit Box』


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10/29リリース。 ロサンゼルス出身の音楽プロデューサーFlying Lotus(フライング・ロータス)最新EP『Spirit Box』は、非サウンドトラック作としては、2019年のアルバム『Flamagra』以来のリリース作品です。

タイトルの如く神秘的な空気を纏う本作。重厚感のあるハウスミュージック「Ajhussi」でハイエナジーに始まりながらも、ドーン・リチャードやシド・スリラムといったシンガーを迎え、R&Bの質感や、ムーディーな空間を新たに展開し、各曲が独自の”ヴァイブ”を生み出しています。

「今作っているのは、超狂っていて騒々しくて速いテンポのもの。そういうものをやることもあるけど、今はこれも伝えたかった。僕にとって、このEPの曲には一撃で仕留めてしまうようなヴァイブがある。まずはこれを届けてから、その後に本当にクレイジーなものをぶつけるかもしれないよ」Rolling Stone Japan

10.BeMyFiasco – 『Pretty Little Love』


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10/29リリース。テキサス州ダラス出身のシンガーソングライターBeMyFiasco(ビーマイフィアスコ)の最新EP。ROMderful、ANKN & VDR、Zo! & Tall Black Guyなどのプロデューサー陣に加え、Phonte、Carlitta Durrand、Katori Walker、JAWAN.mp3、Sonny Miles、Lola Vialetといったアーティストがゲスト参加しています。

BeMyFiasco自身が初めて共同プロデューサーやギタリストとして参加した作品で、プロジェクトのきっかけ自体も、ギターと彼女の頭の中のまだ言葉にできない感情からスタートしたのだそう。

「この3年間で、自分のビジョンをどう形にするかをすごく学んだわ。リーダーとして引っ張っていくのは怖かったけど、FEファミリーのみんなが支えてくれて本当に感謝してる。自分らしい声を大事にするように背中を押してくれたの。Phonteのアドバイスのおかげで、ようやく自分だけの本物の作品を作るためのツールが揃ったんだ。」TheUrbanMusic

地に足のついたような安定感のある音像と、クラシックな雰囲気とが融合した、温もりを感じる作品です。

11.EARTHGANG – 『PERFECT FANTASY』


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10/29リリース。ジョージア州アトランタ出身のヒップホップデュオEARTHGANG(アースギャング)の最新アルバム。

彼らが自由な創造と自己表現に徹底的に挑戦した作品で、アーティストとしての自立を示すだけでなく、テーマや音楽性においても「既存の枠組みを壊し、新しい要素を取り入れている」と言います。

実際に彼らは日本を訪れていて、アトランタの音楽的背景を土台にしながら、日本文化からのインスピレーションも含まれているのだとか。

WowGr8:皆さんがきっと知っているだろうあの有名なアーティストがゲストとして参加していたり、あとはこれまでツアーで回った国や地域の音楽も要素として盛り込んでいます。今回のアルバムは僕らのこれまでの旅を表現した、集大成のようなものになる予定です。HYPEBEAST

今作は、EARTHGANG独自のヒップホップを基盤にしながらも、ファンク、R&B、ソウル、ゴスペルなど多彩なジャンルがミックスされています。

「Red Flag」や「Zone」のような楽曲は、柔軟性があり、ジャンルにとらわれないアプローチをしているのがわかります。

「Dot: 正直言うとさ、いいビート聴いたらただ乗っかるだけなんだよね。これが一番アーティスティックな答えってわけじゃないけど、もしビートが気持ちよかったら、それに声を乗せて何かメッセージを発信するって感じになるんだよ。ビートがハマれば、俺はただの器みたいなもん。自然と出てくるんだよね。「Red Flag」のビート初めて聴いた時さ、「これカントリーソングじゃね?」って思ったんだよね。でもさ、そもそもR&Bとカントリーってそんな違うか?ジャンルの線引きとかって、ぶっちゃけ人種で分けてるだけだったりするじゃん。で、今回のビートは波みたいな感じだったんだよね。だから俺らもその波に乗っかっただけ、みたいな。」GRAMMY

多彩なジャンルの音楽体験の提供、現代社会の深いテーマを軽やかに語るユニークさなど、彼らならではのウィットが効いた一枚です。

12.Kiana Ledé – 『Cut Ties』


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10/31リリース。アリゾナ州フェニックス出身のR&BシンガーソングライターKiana Ledé(キアナ・レデ)の3枚目のアルバム。

本作は、「別れ」と「自己解放」をテーマにした感情豊かなR&B作品で、恋愛や友情、人間関係における成長や葛藤が描かれています。彼女は、これまでの自身のトラウマや心の傷を振り返りながら、自分にとって不要になった人々や関係性を断ち切る決意表したといいます。

「このアルバムはストーリーなのよ。「素晴らしいと思ってたものが、最悪の方向にいくこともある」っていうメッセージを込めてるの。で、もう1つ大事なのは、「誰を自分の人生に残して、誰を切り捨てるべきかを、今までよりも早く見極める」っていうこと。このアルバムが、それを他の人にも考えさせるきっかけになったら嬉しいな。」Billboard

「『Grudges』はもっと感情的な作品だったんだ。恋愛で経験してきた色んなトラウマに気づくって感じでさ。『Cut Ties』はもっと広い視点で、恋愛だけじゃなくて友情とか自分自身に対しても向き合ってるかな。どの作品も自己反省ってテーマが共通してるんだけど、今回はさらに成長にフォーカスしてる感じ。いろんな人とのわだかまりを振り返って、そこから得たものを通して、より強くなった自分を表現してるんだ。それと、最近の恋愛の変遷も見えてくるっていうか。」Rated R&B

曲調はバラードやスイートな曲で構成されています。キアナ自身も「ストーリーを追って欲しい」と言っているので、体で聴くというよりも、心で聴く感じで触れると、より一層楽しめるアルバムかもしれません。

時間と機会があれば全曲解説したい、、、!

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