ブルックリンのクインテットバンド「Phony Ppl」の魅力

ニューヨークはブルックリンの音楽グループPhony Ppl(フォニー・ピープル)。「西のThe Internet(ジ・インターネット)、東のPhony Ppl(フォニー・ピープル)」とも称され、ブラックミュージックを始めとする様々な音楽ジャンルを再構築し、新しい音楽を作り出す注目のバンドです。

今回はPhony Pplのこれまでの歩みを振り返りながら、彼らの魅力を掘り下げます。

プロフィールや経歴、注目したい作品・ヒットソングなども紹介するので、Phony Pplが気になっていた方は是非お立ち寄り下さい。

Phony Pplのプロフィール

拠点 ニューヨーク・ブルックリン
結成 2008〜
メンバー ・ボーカル:Elbee Thrie(エルビー・スリー)
・ドラム:Matt “Maffyuu” Byas(マフュー・バイヤス)
・キーボード:Aja Grant(エイジャ・グラント)
・ギター:Elijah Rawk(イライジャ・ローク)
・ベース:Bari Bass(バリ・ベース)
アルバム ・『WTF is Phonyland?』(2009)
・『Phonyland』(2012)
・『nothinG special』(2012)
・『53,000.』(2013)
・『Yesterday’s Tomorrow』(2015)
・『mō’zā-ik.』(2018)

Phony Ppl(フォニー・ピープル)は、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する音楽グループ。メンバー5人それぞれの特出した音楽的知識をふんだんに活かし、R&B・ヒップホップ・ファンク・ジャズの雰囲気を醸し出すジャンルレスな音楽を作創り出しています。

ビルボードHeatseekersチャートにランクインした2015年のアルバム『Yesterday’s Tomorrow』は、彼らの名前を世界へ知らしめました。作品に収録の「Why iii Love The Moon.」は特に注目を集めた曲であり、彼を代表する曲です。

これまでには、タイラー・ザ・クリエイターやチャイルディッシュ・ガンビーノからの賞賛、エリカ・バドゥ、フェティ・ワップ、ザ・ルーツとの共演など、多くの著名なミュージシャンの支持を獲得。活動開始から10年以上経った今でも、コネクションは広がり続け、活躍の幅は広がっています。

Phony Pplのこれまでの歩み


Phony Pplの始まりは2008年で、当初は9人のメンバーで構成。中学時代、ボーカルのエルビーとキーボードのエイジャの出会いからスタートしました。

Matthew Byas:「多くのメンバーはBrower Parkで育ち、モブになって、僕やElbeeの家に来て音楽を作っていたんだ」UO BLOG

メンバー全員がブルックリン出身、様々な学校の友達同士が時間をかけて集まったのだそう。何人かのメンバーは、音楽家の両親の元で育ったというバックグラウンドを持っていたことでも有名です。(ドラムのマフューの父親はZulu Nationの伝説的なアーティストDJ Jazzy Jay)

活動をスタートして間もない2009年、初の自主制作アルバムの作品『WTF Is Phonyland?』をリリース。2012年には『Phonyland』や『nothinG special』など、さらに2枚のデジタルリリースを行いました。

Phonyland

nothinG special

同じ頃、シカゴのラッパーであるチャンス・ザ・ラッパーとも共演を果たしています。チャンスが初めてブルックリンへ訪れた際のセッションだそうです。

Chance The Rapper Kicks It With Phony Ppl and BrandUn Deshay in Brooklyn

翌年2013年には三枚目のアルバム『53​,​000.』もリリースされています。

53​,​000.

ヒット作の誕生と、グループの遷移

2015年、「ジャズ、ヒップホップ、R&B、レゲエ、ソウル、ロックなど、様々なサブジャンルの表現を実験的に表現した」というアルバム『Yesterday’s Tomorrow』は、ビルボードチャートイン、iTunesのR&Bチャートで6位、ローリング・ストーン誌の「その年のベスト15」に選ばれるなど、輝かしい評価を受けました。

『Yesterday’s Tomorrow』は、300 Entertainment社との契約によってメジャーシーンへの船出となった作品であり、Phony Pplのジャンルレスなフレーバーを広く知らしめた作品でした。

「このアルバムは、あきらめないことを教えてくれた。次の日には必ずビルボードに載るんだからね」tmrw

また、メンバーの脱退もありグループとしての体制も大きく変動。流れが大きく動いたのがこの時期でした。

Elijah Rawk:「『Yesterday’s Tomorrow』のときに感じた、5人でやっていけるのかという疑問はすでに解消されていて、まったく新しい場所に到達していたんだ。ここまで来てツアーも少しずつ増え、世界的にも多くの人が僕たちの音楽を聴いてくれるようになったんだ」Elevatormag

2015年以降は、アジャがマック・ミラーのラストアルバムに参加。イライジャがプリンセス・ノキアと共演。エルビーがスネークヒップの「I’m not sorry」へのヴァース参加など、個々の活動も顕在化。また、カリ・ウチスのツアー・ライブ・バンドとしても活躍しました。

新体制でさらなる飛躍と洗練の道へ

2018年、前作『Yesterday’s Tomorrow』から3年かけて創作されたアルバム『mō’zā-ik』がリリース。バンドの本質的な姿、最適な環境によるサウンドの向上、揺るぎないエネルギーが注ぎ込まれたプロジェクトが完成しました。

その後は、G.O.O.D MusicのCEOであるラッパーのPusha Tとのツアーにも同行。様々な大規模フェスにも参加し、オーストラリアの音楽祭「Splendour in the Grass Festival」、日本の大型フェス「FUJIROCK FESTIVAL」への参加による来日など、ワールドワイドな活躍も如実になりました。

その他にも、以下のように輝かしいステージパフォーマンスは多数行われました。

  • Tyler,The Creatorが主催「CAMP FLOG GNAW CARNIVAL」出演
  • Blue Note Jazz Clubでのレジデント公演
  • The Rootsが開催した「Roots Jam」への出演

2020年以降は、ミーガン・シー・スタリオンとの「Fkn Around」や、同郷ブルックリンのラッパーJoey Bada$$との「On My Shit」など、著名なアーティストとのコラボもみられ、次回作の期待も高まっています。

関連記事:Joey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)/ ブルックリンの秀才が歩んできた道

Megan Thee Stallionとのコラボセッション(NPR Music Tiny Desk Concert)

それぞれがソロでも活動

2015年以降は特に個人でもクリエイティブな勢いを発揮しているPhony Pplのメンバー。個々の音楽特性を活かし、アーティストのバンド参加や楽曲(楽器)提供も行っています。

Elijah Rawk ・Princess Nokia「Look Up Kid」、「Little Angel」
・Ski Mask the Slump God「So High」
Matthew Byas ・Kid Cudi「Dance 4 Eternity」
・Princess Nokia「Look Up Kid」
・Domo Genesis「Questions」
VanJess「Caught Up」
Elbee Thrie ・Nyck Caution「December 24th」
・Snakehips「​iii’m Not Sorry」
・Stro「P.S.A. Calm Down」
VanJess「Caught Up」
Aja Grant ・Mac Miller「2009」、「Cinderella」、「Small Worlds」etc
・​Kali Uchis「honey baby (SPOILED!)」
・ONE OK ROCK「Stand Out Fit In」

Phony Pplの注目したい二作品

彼らを世界へ知らしめた『Yesterday’s Tomorrow』


2015年にリリースされた初のメジャーアルバムで、Phony Pplの名前やフレーバーを世間に広めたヒット作品。

「生きること、問題に対処すること、自信を学ぶこと、自己愛を実践すること」をテーマにしたこの作品は、ビルボードチャートインをはじめ、iTunesのR&Bチャートで6位、ローリング・ストーン誌の「その年のベスト15」に選ばれるなどの功績を残しました。

リードシングルである「Why iii Love the Moon」もアルバムを押し上げるようにヒットし、彼らの代表曲とも言える、名曲中の名曲も誕生しました。

そんな輝かしくも見える作品『Yesterday’s Tomorrow』ですが、この時期はグループの体制も大きく動いた時期でもあり、実は様々な葛藤もあったそうです。

ファースト・アルバムを褒めてもらえてすごく嬉しいけど、じつはあれにはいろんなドラマがあって、さまざまなストレスや不安を抱えながら作ったアルバムだったんだ。あれは、それまでにあったものをぜんぶひとまとめにして出したものだから、その過程で辞めるメンバーもいたりして、「未来はどうなるんだろう」「自分たちはこれでいいのか」って、ものすごい不安を抱えながらリリースしたものだった。ele-king

表面的には見えないグループ内のドラマは、決して全てが良い出来事とは言えないかもしれませんが、このコメントを見て「どこかその葛藤を乗り越えた芯の強さ」を個人的に感じる作品でもありました。

前作から3年の時間をかけて創り上げられた『mō’zā-ik』


2018年リリース。『Yesterday’s Tomorrow』から3年の時を経てリリースされたアルバムです。

「いつも変わらなかったのは、『Yesterday’s Tomorrow』とは違うものにしたいということだったんだ。このプロジェクトでいつも言っていたのは、博物館にいるような感覚で、それぞれの部屋を歩いて、違うことを体験できるようにしたいということだった。異なる時代、異なる時間を体験できるように。特定の時代にこだわることなく、この部屋に行けば違うことを感じ、あの部屋に行けば違うことを感じることができる。」FIND

『Yesterday’s Tomorrow』とは違うものを目指し、そしてそれぞれの曲が展示物である「博物館」のようなテーマがあるそうです。また、収録環境など前作とは違っていたそうで、一貫性のある作品へと仕上がったのだそう。

「Way Too Far」から始まり、1950年代に耳を傾けたという「Cookie Crumble.」、ラテン・ジャズの要素を取り入れ、注目のミュージシャンmasegoをフィーチャーした「Once You Say Hello」、ヒップホップ・バラード「Before You Get A Boyfriend」など、時代やジャンルを問わないラインナップとなっています。

アルバムの最後の楽曲「everythinG iii Love」では、警察に射殺された黒人男性の物語を描いており、アメリカの現状に対する政治的なメッセージも込められています。

『mō’zā-ik』は、「音楽」というフィルターを通して、数え切れない程の要素を細部まで表現した作品です。

Phony Pplのヒットソング

1.Why iii Love The Moon.

リリース:2015年1月13日
収録作品:『Yesterday’s Tomorrow』

Phony Pplの5thのアルバム『Yesterday’s Tomorrow』の9曲目に収録。ブルックリンの寝室を改装したスタジオにでのジャムセッションから生まれたというこの曲は、自分が傷つかないよう「誰を信用するか?」など、失う辛さを知る者へのメッセージ性のある曲です。

Lyric

And that’s why I love the moon
だから僕は月が好きなんだ
‘Cause it’s always there for me
いつも僕のそばにいてくれるから

月は孤独なときにいつでも求めることができる、美しく恒常的なもの。と人間では叶わない愛の矛先をポエティックに歌い上げています。

「少年が本当に確信できる唯一のことは、月がいつも少年のためにそこにいるということだ。毎晩ね。人間にはできないように」FADER

また、ブルックリンのプロジェクションアート専門の集団Dawn of Manがディレクションしたミュージックビデオについては、以下のようにコメントしています。

「僕らのビデオではブルックリンの世界をオープンにして共有したいと思ったんだ。ブルックリンの目に見えない部分をね。」FADER

本当に良い曲なので、まだ聴いてない方は是非聴いて欲しい一曲です。

2.Fkn Around (feat. Megan Thee Stallion)

リリース:2020年1月31日

テキサス州ヒューストン出身のラッパーMegan Thee Stallionとのコラボ曲で、クラブを舞台に女性が他の男を試している様子が描かれています。

前の年の10月に開催された、MeganのNPRタイニーデスクコンサートでデビューした曲で、この時Phony Pplはバックバンドとして参加。「Fkn Around」は7:15〜辺りから演奏されています。

関連記事:NPR Music タイニーデスクコンサートのススメ【15選】

3.Somehow.

リリース:2015年1月13日
収録作品:『Yesterday’s Tomorrow』

アルバム『Yesterday’s Tomorrow』の締めのトラック。ギターの音色から静かに始まるドラマティックな曲です。

ソングライティングを務めたエルビー自身の内省的な歌で、自己愛の重要性を説いています。

なぜ生きていられるのか?人生はいつでも簡単ではないよ。君を救うのは、君だけだよ。君が君を守らないで誰が守るの?Genius

4.Way Too Far

リリース:2018年9月7日
収録作品:『mō’zā-ik』

アルバム『mō’zā-ik』のシングル。ある人を喜ばせようとやり過ぎて、結果的に自分を見失ってしまったことを憂いている歌です。

この曲についてエルビーは以下のように語っています。

「この曲は誰かが満足しているのを確認するために、今までずっと無理をしてきて、その気持ちを持続させることが自分の命を奪っていることに気付いた瞬間を表現しているんだ。それが何かはまだ分からないかもしれないけど、何かを変えなければならないのは間違いない。」Soul Bounce

5.On My Shit (feat. Joey Bada$$)

リリース:2020年11月13日

同郷ブルックリンの人気ラッパーJoey Bada$$とのコラボ曲。

パンデミックに入ってからのリリースとなった曲ですが、制作は随分前に行われたそうです。マンハッタンのソーホーで行われたセッションに招待されたのがきっかけで出来上がった曲なのだとか。

最後に

最後に、記事内には書けなかった彼らの音楽的な想いを綴って締めとさせていただきます。

J Dilla、João Donato、Jamiroquai、King Crimson、Earth Wind and Fireなどのアーティストに影響を受けているという彼らは、以下のようなコメントを残していました。

「僕らはみんな、Old Soulを持っていて、古き良き新しい音楽を見つけるのが好きなんだ」FIND

(Old Soulとは実年齢よりも高い聡明な心。輪廻を繰り返された魂。などの意味があるそうです)

ジャンルを意識せず、時代を越えて「良い音楽」を創ることに注力していることが読み取れますね。

ブログではできるだけ分かりやすく伝えようとの考えもあって、「HIPHOP」や「R&B」などのジャンルで括ってしまいがちなわけですが、ジャンルでは括れないものがあることも念頭に置いて記事を書いていきたいと思いました。

今回はここまで。最後までお読み頂いた方、ありがとうございました!

Reference

Phony Ppl Official Site
FADER「PHONY PPL Premiere Lovely Lunar Ode “Why iii Love The Moon”」
FADER「Phony Ppl’s “Why iii Love The Moon” Video Reveals The True Colors of Brooklyn」
Genius「Phony Ppl」
UO BLOG「Behind the Scenes: Phony PPL」
SOUL BOUCE「Phony Ppl Sings About Doing Too Much In A Relationship In ‘Way Too Far’」
FIND「Phony Ppl (Q&A at Dour Festival)」
tmrw「MEET PHONY PPL」
ele-king「NY発 新世代が奏でるソウルの真髄」
Elevatormag「Don’t Play Yourself: Phony Ppl」

Cite from Thumbnail Image

https://www.facebook.com/Phonyppl

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