なぜBTSなのか / 世界的な人気の理由とは

ビルボード1位やグラミー賞ノミネートなど、世界的な人気を誇る韓国発のボーイズグループBTS。音楽シーンだけでなく、「カルチャー」「政治」など、多くの面で大々的に取り上げられるほど、影響力と波及力を持っています。

今回は「なぜBTSがここまで?」という疑問解消の一助になるべく、BTSが人気の理由・世界に注目される理由を、大きく3つの章に分けて考察していきたいと思います。

はじめに

本記事の前提条件と結論

BTS人気の理由は複合的な要素が多く絡んでいて、とても一言では述べられません。

  • 楽曲・歌詞の内容などの「作品の品質」
  • ハイレベルなダンスや歌などの「パフォーマンス力」
  • ビジュアルや人柄も含めた「メンバーそれぞれの才能や個性」

以上に魅力がある点や、「彼らの地道な活動・努力の賜物である」点は大前提というのをご承知おき頂ければと思います。

3つのポイントでみるBTS人気の理由

本記事では、以下の3ポイントを「BTS人気の理由」として述べます。

  1. 韓国・KPOPカルチャーの世界的な人気が、BTS人気も後押しした
  2. BTSが持つ「マイノリティー性(逆境を乗り越える姿」)、ありのままを見せる姿やアイデンティティが共感を生んだ
  3. 「ARMY」と呼ばれるファンの圧倒的な行動力・団結力がBTSを注目させるムーブメントを生み出した

それぞれ詳しく深掘りしていくので、気になる方は是非ご覧いただければと思います。

あくまで筆者の考察ですので「考察エンタメ」としてお読み頂ければ幸いです。

1.国の政策と韓国エンタメの世界的認知が関係


まず1つ目の理由は、1999年ごろから始まった韓国の政策によって市場規模が大きくなった、「韓国カルチャーの追い風」が関係しているというものです。

97年の経済危機以降、韓国は国を上げてエンタメに投資

韓国は、エンタメビジネスを政府主導で精力的に行ってきた歴史的背景を持っています。

1997年に起きたアジア通過危機によって、韓国経済は大きなダメージを受けました。韓国政府は経済回復の新たな一手として、1999年に「文化産業振興基本法」を制定し、コンテンツ産業に力を入れることを表明。

韓国の文化体育観光部(日本の文化庁的な政府の部署)の予算は、「文化産業振興基本法」が制定された1999年以降大幅に増額され[R]、それに伴い「コンテンツ産業部門」の予算も増額されました。

コンテンツ産業とはわかりやすく言うと、エンタメビジネスのこと。

天然資源に乏しい韓国がコンテンツ産業を重要視したのは、それが「ワンソース・マルチユース」型の生産性の高い産業だからである。ひとつのコンテンツが一度市場においてヒットすれば、 映画やゲームにグッズといった二次使用によってメディア間を行き来するごとに新たな付加価値が生まれ、複数回にわたって収益を生み出せる点に注目したのだ。K-POPはなぜ世界を熱くするのか

人口規模が日本よりも小さく、国土も限られている韓国。そんな状況下での経済回復の打ち手が、高い生産性の見込める「コンテンツ産業」だったわけです。

韓流の3大マーケットの一つであると呼ばれる日本でも、2000年代はじめ頃から『冬のソナタ』や『チャングムの誓い』など、韓国ドラマが火付け役となった「韓流ブーム」が到来。K-POP産業も例に漏れず、BOA、東方神起、KARA、少女時代などのアーティストたちが日本国内で人気爆発していました。

2009年には「韓国コンテンツ振興院*1」が発足。放送、音楽、ゲーム、アニメ、キャラクター、漫画、ファッションなどの分野が強化され、韓国コンテンツ産業はさらに活発化しました。

韓国コンテンツ振興院によれば、2021年のコンテンツ輸出額は5年前の倍に相当する115億ドルに達すると試算されている。従来の韓流ドラマを通じた韓国文化の拡散だけでなく、最近のトレンドを踏まえたYouTubeやNetflixなど各種プラットフォームを活用した展開も積極的に行われており、Netflixでの「イカゲーム」での大きな成功は記憶に新しい。JETRO

『イカゲーム』の他にも最近では『梨泰院クラス』『愛の不時着』など、韓流に疎い方でも耳に入ってくる作品が多くなった気がしないでしょうか。韓国コンテンツ産業の輸出額は現在進行形で増加傾向にあり、99年から始まった政府の大規模な政策は功を奏したと言えるでしょう。

BTSや多くのK-POPアーティスト達の成功も「コンテンツ産業政策」のレール上にあり、その恩恵や後押しを少なからず受けていると言えるのではないでしょうか。

*1 韓国コンテンツ振興院

2009年5月7日に設立された韓国の公共機関。文化産業の振興発展のサポートを目的としており、コンテンツ産業(放送、ゲーム、音楽、アニメ・キャラクター・漫画、ファッション、デジタルコンテンツ、Culture&Content Technologyなどのエンタテインメント系コンテンツが中心)の支援事業をおこなっている組織です。

これまでのアーティストが世界への入口を開けていた?

米ビルボードにおける韓国アーティストの活躍

「世界的ヒット音楽」の基準として大きな役割を担っている指標といえば「米ビルボードチャート」です。韓国アーティストは、2009頃より韓国アーティストがビルボードチャートへランクインするようになり、この頃から「K-POPの存在感」がグローバル化し始めたと考えられます。

韓国のポピュラー音楽、すなわちK-POPの歴史においてもっとも意義のある成果は、もちろん米ビルボードアルバムチャート1位に象徴される「アメリカ音楽市場の征服」に尽きるだろう。BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか

2009年〜のビルボードチャートランクイン作品
チャート種類 アーティスト名 作品名 順位
2009年 Billboard 200 BOA 『BOA』 127位
2009年 Billboard Hot 100 Wonder Girls 「Nobody」 76位
2012年 Billboard 200 BIGBANG 『Alive』 150位
2012年 Billboard Hot 100 PSY 「江南スタイル」 2位
2014年 Billboard 200 2NE1 『Crush』 61位

特にPSYの「江南スタイル」の大ヒットは快挙であり、売上げだけでなく、ラジオのエアプレイ回数(地元ラジオの放送回数)も重要視されるシングルチャート(Billboard Hot 100)は難関。「江南スタイル」のチャート2位は、米国において「韓国ポピュラー音楽の存在感」を強固なものにした出来事だったと思います。

また「ヒップホップアイドル」としてデビューしたBTSが、BIGBANGや2NE1など、ヒップホップ色の濃いアーティスト達の追い風を受けていた可能性もあるかもしれません。

PSY – 江南スタイル

アジア系アメリカ人女優のオークワフィナは、アメリカエンタメ業界でアジア系のポジションを確立したルーシー・リューに敬意を表したそうです。

2018年10月に人気コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』でオークワフィナがホストに選ばれた際、 2000年に同じ役を務めたルーシー・リューがアジア系のために「扉を開けてくれた」と敬意を表したように、それはリューなどがアメリカのエンタテイメント業界でアジア系のポジションを地道に確保してきた結果でもある。アメリカ音楽の新しい地図

ルーシー・リューがアジア系のポジションを確立したように、先人達の活躍による「入口が開かれた状態」は、他のK-POPアイドルやBTSにももたらされているのではないでしょうか。

韓国アイドルが海外で活躍しやすい環境が整い始めた

海外で打ち出す韓国カルチャーの大規模フェス「KCON」

2012年から、CJ ENM(韓国の有名ケーブルテレビMnetの運営元)と、韓国コンテンツ振興院が主催するイベント「KCON(コンサートや映画・ドラマ、ファッションなどのブースが一堂に会する韓国カルチャーのフェス)」がスタートしました。

アメリカではロサンゼルスやニューアーク、シカゴで開催され、その他にも日本、フランス、オーストラリア、アラブ、メキシコ、タイなど世界各国で開催。その規模は大きく数万人単位の会場で行われ、韓国国内で活躍するアイドルが海外での大規模ライブを経験する機会にもなっています。

BTS – Blood Sweat Tears KCON 2017 Mexico×M COUNTDOWN

(BTSはアメリカ・ロサンゼルス[2014年,2016年]、アラブ・アブダビ[2016年]、フランス・パリ[2016年]、アメリカ・ニューアーク[2016年]での開催回に出演)

ダンスパフォーマンスも大きな強みとなるアイドルにとって、外国で生の姿を見せられる環境とその影響は大きいと思います。コンサートのような体験型で触れられるイベントが「韓国カルチャー」としてセットで輸出されているのは、K-POPの土台を固める大きな役割を担っていると言えそうです。

とはいえ、近年では「BTS」が「K-POP」の検索数を超えているデータもあるので、「国の政策」「韓国カルチャー(K-POP)の人気」だけでBTSの人気を紐解くのは難しいかもしれません。

ということで以下に続きます。

BTSとK-POPのYouTube検索比較の推移

(※このトピックで述べたのは、BTSがK-POPの土壌で生まれたことを踏まえた、背景知識の話です。「BTS=K-POPである」と断定するものではないのをご承知置きください。)

2.「K-POP」だけでは語れない独自のアイデンティティを持つグループだった

理由その1では散々と「国の政策」や「K-POP土壌の強さ」など後押しの話をしてきましたが、それだけでは語れないBTS人気の理由が「独自のアイデンティティ」にあると思いました。

ヒップホップアイドルグループとして結成したBTSは、これまで定番とされてきたアイドルとは少し違う歩み方をしてきました。DIY精神を持った活動をし、ヒップホップを「飾り」に使うのではなく、ヒップホップの「精神」を持つことで独自のアイデンティティを築き、人々の胸を打ったのではないかと思います。

ベースにあるヒップホップマインドの魅力

BTSはK-POPの土壌で活躍しつつも、元々は「ヒップホップ」を基盤として結成されたグループです。ラップスキルの高さを見出されたリーダーのRMを中心に「ヒップホップを基本にしたチームを作ろう」という所からスタートを切りました。

デビューして間もない2014年には、ロサンゼルスで武者修行する企画番組『アメリカンハッスルライフ』が放送。西海岸の大御所ラッパーであるクーリオやウォーレンGから、ヒップホップの知識やマインド、曲作りについて学んだりもしています。

RMはウォーレン・Gから「偏見で自分を縛らないこと」「自分を貫くこと」を学んだと語っています。

RM:「ウォーレンGに言われたことで忘れられないことが2つあるんです。ひとつは、ヒップホップはどんな人にも開かれていること。人種がどうであれ、出身地がどこであれ、ヒップホップは、ヒップホップを楽しむ人のために、いつでもスペースを用意してくれる音楽なんだ。だから、偏見で自分を縛らないこと。もうひとつは、君はうまくいっているのだから、他の人がなんと言おうと、自分を信じてやりたいことをやること。」BANTANG tumbler

ウォーレンGが語ったヒップホップと同様に「偏見なくどんな人にも開かれた居場所」のようなものは、BTSのアイデンティティの根幹にある要素だと思います。

「BTSが国連で行ったスピーチ」や「BTSのファンには多様性がある点」など、彼らを取り巻く環境・活動には、上記に通ずる部分が沢山あります。(詳しい部分は後述)

自分達の成長・葛藤・苦難をさらけ出した

BTSは結成当初から曲作りやレコーディングに積極的に携わっていたことで有名です。これまでスタンダードとされてきたアイドルのシステムは、事務所によって企画・プロデュースされたものでした。しかし、BTSが発したメッセージはアイドルでありながらも「主体性」があり、ヒップホップによくみられる特有の要素が備わっていると言われています。

他のグループとは異なり、BTSのメンバーは最初から曲を書いていて、何を書くか自分たちで決めていた。また、韓国の芸能界では敬遠されがちな方言で歌うトラックや、イントロ、アウトロ、スキットなど、伝統的なヒップホップの構造を踏襲し、不人気でも他のグループとは違うものを作ろうという姿勢で、ほぼすべてのレコードに参加していました。Rolling Stone India

「成長における苦難」「批判に対するフラストレーション」「社会に対する問題提起」などを自分達の声で発信し、どんな状況でも音楽を通じて自らのアイデンティティを発信してきました。

彼らは非難や悪意の矛先が向いたときも、音楽で応えることを辞めず、仲間やファンと共に苦境を乗り越えてきました。時にはに弱った姿さえも見せるBTSの姿は、ある種の「アンダードッグ効果*2」を人々に与えたのではないかとも言われています。

人それぞれが持つ悩みに彼らの姿は投影され「心の中のヒーロー」のような、「困った時に支えてくれる友達」のような存在になったのではないかと思います。

BTSとヒップホップの関係性については別の記事で詳しく書いているので、是非あわせてご覧ください。

関連記事:BTSとヒップホップの関係 / 世界を席巻するグループの根底にあるもの

*2 アンダードッグ効果とは

不利・劣勢など、弱い立場に置かれた者を応援・同情したくなる心理現象。直訳で「負け犬効果」と解釈されることがあったそうですが、アンダードッグ効果は勝敗が決する以前の状況に対して用いられるため、「負け犬効果」は誤訳であるとされています。

3.ファンの強大さと多様性 / ARMYの存在の大きさ


最後の理由は、BTSファンの影響力の強さに紐づいているというものです。BTSのファンの集合体(ファンダムとも言います)である「ARMY(ファンコミュニティの呼び名)」の影響は多大で、BTSの活動を後押ししているのは言うまでもありません。

ARMYは一般的なファンコミュニティとは一線を画す発信力・行動力・団結力があり、「単なるアイドルファン」では到底片づけられない大きなムーブメントとなっています。彼/彼女たちの存在なくして現在のBTSは無かったといえるでしょう。

ファン(愛好者)であることは普遍的ですが、そこにあるのは主従関係ではなく「同等の関係」という印象です。お互いが支え合う特別な存在であると言えます。

本項ではそんなARMYが行ってきた活動や、BTSの名前を世界に広げることとなったARMY関連の事例や出来事をいくつか紹介します。

ファンがみずからプロモーターとなって活動した

SNSでの運動が大きな社会現象に

Twitter上ではARMYによる働きかけによって、BTS関連のハッシュタグが世界でのトレンド1位に上がることがしばしばあります。その内容はメンバーの誕生日を祝うものから、カムバック(新しいアルバムリリースなどで活動を再開すること)について。また、米・初代大統領ジョージ・ワシントンの記念日「#PresidentDay」を乗っ取ったもの*3まで、様々な事柄で世界のトレンドを席巻しています。

さらに、Black Lives Matterを支援する運動「#MatchAMillion」キャンペーン*4では、24時間で多額の寄付金を集めるなど、ARMYによるSNSでの影響力の大きさが伺える事例はたくさんあります。

圧倒的な購買力でチャートを押し上げた

最近の音楽業界はサブスクサービスによるストリーミングが主流となっていますが、ARMYはBTSの楽曲をCDやデジタルで「購入」をすることでも注目を浴びています。

というのも、「ビルボードアルバムチャート(Billboard 200)」や、国際レコード産業連盟(IFPI)による「グローバル・レコーディング・アーティスト・ランキング」は、CDやデジタル音源の購買がランキングに与える影響が強いとされているためです。

Billboard 200におけるアルバム1枚相当の集計規定
デジタル音源 10曲分
有料サブスクリプションオーディオストリーム 1250再生分
無料オーディオストリーム 3750再生分

欧米のアーティストがストリーミングに優勢であるのを知るARMYは、団結して「アルバムの購入」に目を向けました。

ビルボードアルバムチャートで1位に輝いた2019年の『MAP OF THE SOUL : PERSONA』は、米国内での初週売り上げ枚数にカウントされたのが約23万枚(うち実物のアルバム購入による売り上げは19万6000枚)。2020年の『MAP OF THE SOUL: 7』は約42万枚(うち実物のアルバム購入による売り上げはが33万枚)と、脅威の数字を叩き出しています。

地道な活動もいとわない / アメリカ各地域のラジオ局へのリクエスト

ビルボードのシングルチャートである「Billboard Hot100」では、ストリーミング再生、デジタルセールスの他、ラジオのエアプレイ(ラジオ局で曲がどれくらい頻繁に再生されるか)が重要視されます。

PSYの「江南スタイル」は爆発的な人気を誇りましたが、Billboard Hot100で1位を獲得できなかったのも、エアプレイが一歩及ばなかったのが要因とされています。アメリカのラジオ局において、非英語圏のアーティストの参入障壁がいかに高いかを物語っている事例です。

アメリカ国内のARMYは「BTSx50States」と名付けた全米50州にまたがるネットワークを結成。BTSの楽曲をアメリカのメインストリームにプッシュするべく、地元のラジオ局やDJにキャンペーンを行いました。

ジョージア州リングゴールドに住むアマンダ・マコウさん(40歳)は、地元のラジオ局にBTSの曲を流してくれるよう頼んだとき、「何度も断られた」と振り返る。「でも、君の仕事はなに?リストに線を引いて次の局へ行くことだ。」Yonhap News Agency

アマンダさんのように、他のARMYたちもラジオ局へのリクエストは苦労したそうです。「うちは”本物”の曲しか流さないよ」と失礼な返答をされたり、ラジオDJが興味を示してくれても上司の意向でBTSを流せなかったりと、逆風がありながらも地道に活動をしていきました。

ARMYたちの活動は功を奏し、『MAP OF THE SOUL:PERSONA』のタイトル曲「Boy With Luv(Feat.Halsey)」は、1日で約850回も流れ、米ビルボードチャート「Pop Songs Radio Airplay」ではトップ20入りを果たしました。

また、2017年の「DNA」がHot 100にて67位にランクインや、同年12月初旬の「Mic Drop」の28位デビューなど、ビルボードシングルチャートでも勢いを見せました。その後、「Dynamite」「Butter」「Permission To Dance」が1位を獲得したのは多くの方が知る限りです。

翻訳家たちの活躍 / BTSコンテンツがグローバルで楽しみやすくなる

ARMYにはBTSのコンテンツをグローバルにするため活動する、ARMY翻訳家たちがいます。彼/彼女たちのおかげでBTSコンテンツに関する言語の壁はクリアになり、「BTSを楽しむ」のに国境は関係なくなりつつあります。

ツイッターで30万人フォロワーを抱える翻訳アカウントを運営するチェ・ミンジさん(@BTSARMY_Salon)は「外国のBTSの情報を韓国のARMYと共有したい」と思ったことから翻訳活動を始めたそうです。

「BTSが初めてビルボード・ミュージック・アワード(以下BBMAs)に参加した時、多くの外国メディアが取り上げましたが、そのなかにとても心を込めて書かれた英語の記事を見つけたんです。調べたけれど、まだ韓国語に翻訳されていなかった。記事の内容を韓国のARMYと共有したいと思い、悩んだすえに訳してツイートしたのがきっかけです。」BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか

チェ・ミンジさんのように翻訳活動を行うARMYは、韓国だけでなくアメリカやヨーロッパ諸国など、さまざまな国に点在しています。もちろん日本でも翻訳コンテンツは存在していて、実際にYoutube上で「BTSの楽曲+日本語訳」で検索すれば、ほとんどの楽曲の日本語訳を見られます。

*3 ARMYの「#PresidentDay」ジャック

Presidents’ Dayとはアメリカ合衆国の祝日のこと(米・初代大統領ジョージ・ワシントンの誕生日にちなみ、2月の第3月曜日に祝われます)。この日Twitter上では「#PresidentsDay」とハッシュタグが付けられ大統領の日が祝われますが、BTSのRMが「大統領」というニックネームで親しまれていたことから、ARMYが「#PresidentsDay」をRMを称えるものとしてジャックし、BTS関連のダグへと塗り替えた出来事がありました。

*4 「#MatchAMillion」キャンペーン

2020年6月6日、BTSがBlack Lives Matter(黒人への人種差別抗議運動)を支援するため、100万ドル(当時の約1.1億円)を寄付。これに伴い、ARMYがBTSと同額の100万ドルを寄付するキャンペーン「#MatchAMillion」を開始し、わずか24時間で寄付金100万ドルを集めました。

政治・社会問題と向きあうことが一つのムーブメントに

BTSが持つ波及力の大きさは並大抵のものではなく、彼らがとったアクションによって、たびたび政治的・社会的な論争が巻き起こることがあります。

ARMYはサポートになるだけではなく、その問題に向き合い、ファン同士で学ぶ姿勢を持っています。これがまた世界が注目するムーブメントへと発展します。

BTSはとても象徴的な存在になりました。韓国の象徴にもなりうるし、アジアの象徴にも、K-POPの象徴になる時もあるでしょう。アイデンティティーが違う以上、対立は常にどこかで生じます。もし、私たちが正しい知識を身につけて討論し、何か合意点を見出さなければ、ただの分裂で終わるでしょう。好書好日

ホワイトペーパープロジェクト / 歴史・国交が絡む論争とも真剣に向きあう

2018年10月中旬、メンバーが着用していた「原爆の写るTシャツ」がネットに出回りました。それが発端となり大きな論争が巻き起こります。

日本が原爆投下で受けた悲惨極まりない被害を考えれば、Tシャツが簡単に許容できるものでは無いのは想像に難くなさそうです。しかし歴史とは複雑なもので、韓国からみた原爆投下に対する認識は日本のものとは違っているのが実際のところだそうです。

「被害者」「加害者」「第三者」、どの立場で見るかでも食い違いが生まれます。それぞれの視点が入り乱れた論争です。(第二次世界大戦以前の日本と朝鮮半島の関わりや、「韓国」の成り立ち・建国神話などを調べると、よりこの問題の複雑さが分かると思います)

この論争に対して、翻訳アカウントを運営する5大陸にまたがるARMY(職業、宗教、年齢もさまざまな方たち)が『ホワイトペーパープロジェクト』という全133ページからなる論文を発表しました。

この論文の意図は以下のようのものです。

  • メディア等が流すBTSに関する情報の妥当性について
  • Tシャツに関する韓国側の意見を理解するために、歴史的な背景をより深く知る必要があるということ

擁護が前提と思われてしまうファンという立場をふまえ、客観的かつ慎重に見解を表明した論文です。

ホワイトペーパープロジェクトチームは、BTSが推奨する「#ENDviolence(暴力をなくそう)キャンペーン」と同じ脈絡で、それぞれが「知ること」「考えること」を世間に訴えかけました。もちろんBTSと所属事務所Big Hit Entertainment(現 HYBE)も公式に謝罪文を掲載していて、この一件で「理解」の重要性について多くの議論が行われたのではないかと思います。

以下ホワイトペーパープロジェクトより。ファン側の心境や、この論文で何を伝えたかったのかを特に述べていると感じた部分を引用させていただきます。

BTSが政治に関与しないことを望むのは当然ですが、音楽はある程度、本質的に政治的なものです。BTSのメンバーはデビュー以来、社会経済的、政治的な意識を示し、音楽を通じて独自のメッセージを発信してきました。また、近年、前例のない世界的な成功を収め、韓国人であることを公言していることも相まって、政治・外交的な状況に巻き込まれることもあります。私たちは、表面的で偏った情報を鵜呑みにするのではなく、政治的、歴史的、文化的背景や風土を十分に理解する責任があるのではないでしょうか。ホワイトペーパープロジェクト

【番外編】BTSファンは人種・年代問わず多様性が非常に優れている

「ARMYの影響力の強さ」とは少し文脈が違いますが、番外編としてBTSの「ファンの多様性」についてお伝えしておきます。

BTSのファンは、人種や年代に多様性があるといわれています。彼らの優しさのあるメッセージ性や、これまでの(特に欧米で主流だった)「屈強な男性像」とは違う、清廉でキャッチーなビジュアルも関係しているようです。

2019年の北米ツアーに参加したあるヒップホップ専門記者は、「自分がこれまでいったすべてのヒップホップのコンサートよりもBTSの公演に来た観客たちが多様性に満ちていた」 と、驚きを隠さなかった。黒人、白人、アジア系、LGBTQ、ミドルエイジの人々など、幅広い人種と属性で構成されたファンを目にしたのは初めてだったという。BTSとARMY わたしたちは連帯する

BTSが伝えるメッセージ / 誰にでも「居場所」を作るグループの姿勢

2018年に国連のスピーチでリーダーのRMが語ったのは、「自分自身のことを話そう」「あなた自身を大切に」というメッセージでした。

RM「あなたが誰なのか、どこから来たのか、肌の色やジェンダー意識は関係ありません。ただ、あなたのことを話してください。話すことで、自分の名前と声を見つけてください。」unicef

BTSが国連総会で行ったスピーチ

『LOVE MYSELF(私自身をまず愛そう)』キャンペーンをはじめ、BTSが語りかける言葉は、多くのファンの心に寄り添いました。人種や年齢、住んでいる地域は関係ないという差別のないメッセージです。BTS自身が辛い立場を経験してきたからこそ重みの出る言葉なのではないかと思います。

『BTSとARMY』の著者イ・ジヘンさんは、ARMYの行動が「マイノリティーの共感と結びつくもの」と述べています。

BTSはデビューした韓国でも、海外進出直後の欧米でも、常に主流ではない、アウトサイダーやマイノリティーとしての偏見にさらされてきました。長い人生、誰もがアウトサイダーにもマイノリティーにもなりえます。単にBTSを応援することにとどまらず、Black Lives Matterやトランプ大統領反対など、マイノリティーが実際に経験する苦痛への共感と強く結びついているからではないかと、私は思うのです。好書好日

2章の繰り返しになってしまいますが、ウォーレンGが語ったヒップホップと同様に「偏見なくどんな人にも開かれた居場所」がBTSと、彼らのコンテンツにはあるのだと思います。

BTSが覆したジェンダーアイデンティティ / 「自分らしく生きよう」が共感を生む

彼らなりの「ありのままの姿」を見せるBTSは、東アジアの代表格となった今、これまでの男性像(ジェンダーアイデンティティ)の地図を塗り替えていると言われています。

BTS関連の書籍を多数翻訳する桑畑優香さんは、世界20か国以上から学者が集まった「BTS学会(2020年にロンドンで開催)」に参加した際、「BTSとのショッキングな出会いを語りたくてここまで来た」というメキシコ女性の話を聞いたそうです。

「何がショッキングなの?って聞いたら、ミュージックビデオ見てたらメキシコとは違う男性像っていうのが初めてそこにはあったっていうんですね。具体的にどうなのっていえば、キュートで美しくて、だいたいヒゲがないよねって言ってたんですよね。」TBSラジオ YouTube

日本では「イケメン」「ハンサム」など、美男子をカッコいいという文化は根付いていますが、これまで欧米を初めとする海外では「権威的な」「剛腕な」「屈強な」男性像が理想とされていた部分もありました。

ルックスやメイクに気遣い、周りの人に優しく、同性同士で仲がいいBTS。東アジアの青年の成功ストーリーは、世界のさまざまな文化圏の若者たちに、アイデンティティを構築するためのすばらしい材料を提供している。また、女性と男性、LGBTQコミュニティの白人と有色人種のファンすべてに解放感を与えていると評価されている。BTS オン・ザ・ロード

2017年の#MeTooムーヴメント*5による世間の動きもあり、最近では「権威的な男性像」への目の向けられ方も変わりつつあります。

BTSが持つ新たなジェンダーアイデンティティは「ありのままでいいんだ」という共感を生み、「どんな属性を持っていても受け入れてくれる」という、マイノリティ性持つ人々への支えになっているのかなと思いました。

*5 #MeTooムーヴメントとは

「私も」という意味を持つ、性暴力・ハラスメント被害の告発運動のこと。2017年10月5日にハリウッドで影響力のあるプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年のセクシャルハラスメントをニューヨーク・タイムズ誌が報道したことで世界中に広まりました。

まとめ / 最後に

BTSの人気の理由を考察させていただきました。改めて本考察の全3章をまとめると、

  1. 韓国カルチャーの世界的な人気に伴う追い風
  2. 「マイノリティー」の逆境を乗り越え、ありのままを見せる姿やアイデンティティが共感を生む
  3. ARMYの圧倒的な行動力・団結力がBTSを注目させるムーブメントを生み出す

以上が人気・注目に火をつけているんじゃないかということでした。大事なことなので再度言いますが、あくまで個人の考察なのをご承知置き下さい。

最後に

この記事は以前の記事「BTSとヒップホップの関係 / 世界を席巻するグループの根底にあるもの」を執筆している上で感じた彼らの奥深さや、魅力を深掘りしたいと思ったところからスタートしました。

彼らがここまで世界を巻き込む理由はとても複合的なもので、自然発生的な要素も多いと思います。ここまで記事を書いておいてなんですが、シンプルに「人気の理由はずばりコレ」と言い切ることができないのが正直なところです。。

ただBTS関連の書籍や、記事・インタビューなどを読み漁った結果として個人的に思うのは、多くの人の心に「本音で生きられず苦しんでいる」という部分があって、BTSが持つ「正直さ(本音で生きる様)」に力をもらっている人が、更なるパワーを生んでいる。これが「この現象の核」になっているのかなと思いました。

BTSやARMYの活動を経て、歴史や風土、社会問題を学ぶムーブメントが起きているのも凄いことだと思います。執筆にあたって、個人的にも多くのことを学ばせてもらいました。

参考にさせていただいた「BTS三部作」と呼ばれる書籍(『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』/『BTSとARMY わたしたちは連帯する』/『BTS オン・ザ・ロード』)は、さらにBTSを詳しく知るために必読の良書なので、気になった方は是非読んで欲しいと思います。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。普段はHIPHOPやR&Bを中心に音楽やアーティストの魅力を紹介しているので、是非そちらもチェックして頂けたらと思います。

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Reference

『アメリカ音楽の新しい地図』大和田 俊之(著)
『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』田中絵里菜(Erinam) (著)
『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』キム ヨンデ (著), 桑畑 優香 (翻訳)
『BTSとARMY わたしたちは連帯する』イ・ジヘン (著), 桑畑優香 (翻訳)
『BTS オン・ザ・ロード』ホン・ソクキョン (著), 桑畑 優香 (翻訳)
TBSラジオ公式YouTubeチャンネル「BTS学~なぜ、BTSは、世界を動かしたのか?~」桑畑優香さん , Dr.Colette Balmain」
好書好日 本好きの昼休み「#25 【歌あり・訳者と語る】BTS現象を読み解く3冊・桑畑優香さん
好書好日「「BTSとARMY」イ・ジヘンさんインタビュー 世界的スターに押し上げたファンダム、その行動力と政治的志向とは」
JETRO「プラットフォーム時代の韓国コンテンツ産業振興策および事例調査」
BANGTAN tumblr「[INTERVIEW] APRIL EDITION 2015 OF ‘SINGLES’ – RAP MONSTER」
ROLLING STONE INDIA「Understanding BTS’ Foundation in Hip-Hop」
Yonhap News Agency「(News Focus) Catching fire: Grassroots campaign that sold BTS to mainstream America」
WHITE PAPER PROJECT.
unicef「世界中の若者たちへ BTS防弾少年団が国連総会で行ったスピーチ #GenerationUnlimited(無限の可能性を秘めた世代)」
K-BOOKフェスティバル YouTubeチャンネル「音楽評論家キム・ヨンデ氏と語る 〜欧米ミュージックシーンから見た、BTSとK-POPの躍進~」

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