Smino

Smino / セントルイスをルーツに持つソウルディテールラッパー

「俺はただ、自分にとって良い音を出したいだけなんだ。自分の作る音楽が反響を呼ぶかどうかを判断することはない。」

セントルイスをルーツに持ち、シカゴの後押しを得てシーンに頭角を表したSmino。ソウルフルディテールなラップで、ジャンルに捉われない彼のスタイルはまさに唯一無二です。

今回はSminoの半生を掘り下げながら、彼が出した二つのアルバムを紹介します。

Smino(スミノ)

名前 Smino(スミノ)
本名 Christopher Smith Jr.(クリストファー・スミス・ジュニア)
生年月日 1991年10月2日
出身 ミズーリ州セントルイス
主な作品 ALBUM
・『blkswn』2017
・『NØIR』2018
EP
・『S!Ck S!Ck S!Ck』2015
・『blkjuptr』2015
・『4sport』2018
・『High 4 Da Highladays』2019
MIXTAPE
・『Smeezy Dot Com』2012
・『She Already Decided』2020

Smino(スミノ)は1991年生まれ。本名Christopher Smith Jr.(クリストファー・スミス・ジュニア)。ミズーリ州セントルイス出身のラッパー/ソングライター/レコードプロデューサーです。

自身を「ソウルフルディテール」と喩え、ヒップホップだけでなくソウル、R&B、ゴスペルなどのジャンルからインスピレーションを受けるスタイルで、多くの人の心を掴んでいます。

若干18歳で地元セントルイスを離れ、シカゴへ移住。2015年のEP『S!Ck S!Ck S!Ck』より注目を集め、2017年のデビューアルバム『blkswn』より、本格的な人気を獲得しました。

翌年にはセカンドアルバム『NOIR』をリリースし、ビルボードへチャートイン。2020年にはミックステープ『She Already Decided』をリリースしました。

2019年にはJ. ColeのレーベルDreamvilleのコンピレーション『Revenge of the Dreamers III』への貢献が評価され、初のグラミー賞にノミネート。また、同じ年にはチャンス・ザ・ラッパーのアルバム『The Big Day』へのフィーチャーでも注目されました。

Smino 6ベストヒットソング

1.Wild Irish Roses

リリース:2017年3月14日
収録作品:『blkswn』

アルバム『blkswn』からの4枚目のシングル。

「Wild Irish Roses」はワインの銘柄だそうで、Sminoと「Wild Irish Rosesを飲みに行こう」という誘いと、恋人とのクルージングの模様が描かれています。

2.Amphetamine

リリース:2017年3月14日
収録作品:『blkswn』

こちらもアルバム『blkswn』からの一曲。シングルカットではありませんが、「Wild Irish Roses」に次ぐ、もしくはそれ以上に人気・認知度の高いの曲です。

8分弱あるこの曲は二部構成のようになっていて、Jean Deaux、Noname、Bariなどの仲の良いメンツがこっそり集結。ポッセカットのようなトラックになっています。

3.Z4L (with Bari & Jay2)

リリース:2018年11月8日
収録作品:『NØIR』

Zero FatigueのメンバーSmino、Bari、Jay2の三名のコラボ曲。女性との関係の中で、フェンティ(リアーナプロデュースのメイクブランドFenty Beauty)のメイクアップについて色濃く語られています。

300ドルもした新品のシャツにフェンティメイクがついた事に軽い怒りを覚えるという、リアリティのある男女関係の話が描かれています。

というか実話だそうですが。

4.Netflix & Dusse

リリース:2017年3月14日
収録作品:『blkswn』

アルバムのサードシングル。実はこの曲は、Big SeanがChance The Rapperをフィーチャーした「Living Single」というトラックに入っていたヴァースが使われています。

この曲の正式バージョンはDej Jam Recordings「Direct Deposit Vol.2」という作品に収録されていますが、どういうわけかSminoのヴァースはカットされたようです。

Sminoが参加した「Living Single」が以下で聴けます。(スミノのヴァースは最後の方)

Chance The Rapper – Living Single (ft. Big Sean, Jeremih, Smino)

関連記事:チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)を紹介 / 経歴からリリースアルバムまで

5.Anita

リリース:2017年2月8日
収録作品:『blkswn』

『blkswn』から二枚目のシングルカットです。この曲は映画『ドリーム』(原題: Hidden Figures)を見たことにインスパイアされてできた曲なのだとか。

「”Hidden Figures”を観に行ったんだけど、歴史上、書かれていない黒人女性がたくさんいることにすごくがっかりしたんだ。だから、黒人女性がどれだけイケてるかを強調するものを作りたかったんだ」HotNewHipHop

6.Monte Booker – Kolors Ft. Smino

リリース:2015年10月23日
収録作品:『Soulection White Label: 016』

ロサンゼルスの音楽レーベルSoulectionのシリーズ作品『White Label Series』の第16段。Sminoが信頼を置くプロデューサーであるMonte Bookerが担当した『Soulection White Label: 016』の2曲目に収録されています。

TikTokでも人気を集めたそうで、それまで二人が発表した曲の中で「最も成功した曲だ」と言われているようです。

Sminoの半生を振り返る

セントルイスの音楽一家の中で育つ

Sminoはアメリカの中部であるミズーリ州ノース・セントルイスをルーツに持っています。父と母、そして4人の姉に育てられ、祖父の家でも多くの時間を過ごしたそうです。

Sminoの母親は歌手であり、父親もピアノを演奏するという音楽に馴染み深い家庭環境で育ったそう。また、祖父はブルース・ミュージシャンのMuddy Waters(マディ・ウォーターズ)のベースを担当していたのだとか。

「母は歌い、父はピアノを弾き、日曜の朝には教会でその演奏を聴くことができる。まるでミュージカル・アダムス・ファミリーだよ」Chicago Tribune

セントルイスではフレンドリーな人々に囲まれていたそうですが、誰もが「超えてはいけない一線」を持っていて、一歩間違えると悪に染まってしまう。という環境でもあったそう。

「スラングからスタイル、ラップの流れまで、多くのことがそこで始まったんだ。中西部には独立系で革新的な頭脳の持ち主が多く、そこには”スタンダード”がない。中西部はこういうところだ、というのを誰も決めたことがないんだ」GOAT

ラップを始めたのは7歳のとき

7歳のときに父親からドラムを贈られ、教会のバンドで演奏するようになりました。当時教会では歌っていなかったものの、MCだった従兄弟の真似をしてラップをスタート。中学の頃には、クラスメートをサイファーで打ちのめすまでになったのだとか。

「ラップを始めたのはすごく早くて、たぶん7歳くらいだったかな。従兄弟にギャングスターのラッパーがいて、そこでラップを始めたんだ。彼の曲でスタジオに入れたんだけど、いつも外でラップしてたから、みんな俺のことを知ってたんだ。”俺とラップしろ”ってね」COMPLEX

11歳の頃、銃乱射事件で従兄弟を亡くします。その従兄弟へ捧げるラップが最初に書いたラップだったそうです。その後は制作の才能を開花させ、トラックメイキングも行うようになりました。

高校卒業後、シカゴへ移住

Sminoは高校卒業を機に、コロンビア大学へ進学するため、イリノイ州シカゴへ移住します。大学では「Art of the Recording Business」のクラスで、ビジネスについて学んだそうです。

また、シカゴの環境に身を置くことで、アーティストとして成長できたことも語っています。

「シカゴに来た途端、環境が一変したんだ。チームを作るということがどういうことかを学んだ。もし、あのコミュニティがなかったら、今頃どうなっていたかわからないよ。彼らのおかげで、集中力を保つことができた。今でもラップをやっているかもしれないけど、今の俺とは違う」GOAT

「俺はここで新しいファミリーを作り、自分の直感を信じ、誰を信じ、どのように信じ、どのように畜生を行かせるか、そのようなことを学ばなければならなかった。情熱を持ち続ける方法を学び、その情熱で何かをする方法を学び、そして同時に自分自身でこれをしなければならなかったんだ」VIBE

大学は二学期で中退したものの、シカゴの地で第二の故郷と呼べる友人たちやコミュニティを築き上げました。

セントルイスへ戻り、プロデューサーとして活動


Sminoは14歳の頃、地元のラッパーであるBari Allenと出会いました。

Sminoがセントルイスに帰郷した後、二人はラップデュオ「YDOC(Young Dumb and Out of Control)」を結成。Sminoがプロデュースを担い、ショーのブッキング、チケットの手配、CDの焼き付け、曲のミキシング、その他いろいろな事をやったそうです。

「Monte(Sminoのプロデューサー、Booker)に会うまでは、ラップをしている間ずっとビートを作っていたんだ。ビートを作るのをやめたのは、モンテに出会ったからだよ」COMPLEX

Bariとは『Smeezy Dot Com』や『Retail』というミックステープでコラボレートした後、Sminoは独立します。

第二の地、シカゴでボーカリストやソングライターとしての才能を開花


独立したSminoはセントルイス、ミルウォーキー、シカゴを行き来しながら活動の幅を広げていたそうです。

コロンビア大学在学中に知り合った、Chris Inumerable(クリス・イヌメラブル/現在スミノがレコーディングをしているクラシックスタジオのオーナーであり、スミノのマネージャーを務めるZero Fatigue(*1)の最重要人物)との繋がりが機転となって、再びシカゴを拠点に活動するようになります。

後にSminoのメイン・プロデューサーとして名高いMonte Booker(モンテ・ブッカー)と出会い、「3M」などZero Fatigue作品は、彼のプロダクションに全幅の信頼を置きました。

「彼はビートを作るのが上手すぎるんだ。あんなにビートを作る人は見たことがない」RollingStone

Smino – 3M (feat. Jay2) (prod. by Monte Booker)

シカゴでの後押しを受けつつ、常に故郷セントルイスを意識するSmino。家族のために音楽での成功を諦めた父や祖父に代わり、夢の実現をZero Fatigueとともに体現し続け、現在に至ります。

「家族には、何でもできるんだということを知ってほしいんだ。普通のことができないようにね。それが俺の目指しているものだ。自分の人生の中で、100%夢を追いかける人を見たことがないんだ。そしてその夢を実現するために、すべてがうまくいくような気がするんだ」VICE

*1.Zero Fatigue

Sminoによって設立された、シカゴを拠点とするミュージックコレクティブ/インディーレコードレーベル。Monte Booker、Ravyn Lenae、JayBaby TheGreaty、Nosidamなどのプロデューサーやアーティストが在籍し、Chris”Classick”Innumerableが運営しています。

Sminoの二つのアルバムを紹介

『blkswn』


2017年リリース。2016年にリリースされた『blkjuptr』に続く作品で、ミズーリ州セントルイスのエリアコード「314」にちなむ、3月14日に意図的にリリースされました。

アメリカの黒人社会に焦点を当てた作品で、「blkswn」というタイトルは「黒鳥は白鳥よりも攻撃的である」という認識からきているそうです。

また、金融用語の一つである「ブラックススワン理論(*2)」についても考慮されているのではないか、とも考察されています。

theMIND、Rayvn Lenae、Akenya、Nonameなどのアーティストが参加。主要プロデューサーにMonte Bookerを据え、Phoelix、THEMPeople、Sangoなどのプロデューサーも参加しています。

*2.ブラックススワン理論

ナシーム・ニコラス・タレブ氏の著書『ブラックスワン』にて唱えられた理論。リーマンショックなど、金融市場において「予測できないことが起こると、その影響力は増大する」という意味で使われはじめた用語です。もともと、「黒い白鳥は存在しない」と考えられていましたが、オーストラリアでの黒い白鳥の発見を機に、鳥類学の常識を覆したことに由来しているそうです。

『Noir』

2018年リリース。フランス語で「黒」を意味する「noir(ノワール)」と名付けられたこのアルバムは、Sminoの人生がブラックアスムービーであることをテーマにしていると語っています。

NØIRは、俺の人生がブラックアスムービーであることをテーマにしている。だから、俺の好きなカバーのいくつかをホメロスたちと一緒に再構築してみたんだ。アルバムも発売されるよ。

『NØIR』は、前作『Blkswn』の時ほど難しく考えず、ミックステープのように作ったのだとか。また、「KRUSHED ICE」、「Z4L」、「LOW DOWN DERRTY BLUES」など、女性からの影響がさまざまな形で感じられる点も特徴の一つです。

「このアルバムは本当に自分のことなんだ。何も考えずに、日々感じていることをそのまま表現している。そして女性について語ることは、まさに俺自身。俺が経験してきたことだ」Pitchfork

「ディープなアルバムを作ろうとは思っていない。いつも正直で、何が起こっているのかを話しているんだ。レゲエであろうと、ヘビーバンガーであろうと、セックスをテーマにしたR&Bのハーモニーであろうとね。そんな感じだ」Pitchfork

両親、祖父母、Sminoを育てた人たちから受け継いだものが、Sminoのアルバムテーマなのだそうです。

二作品とも「黒」がキーワードな点も、彼がどれだけ黒人である事に誇りを持っているかがわかります。

最後に

こちらではSminoのミックステープが聴けるので、是非。

ST. LOUIS, CHICAGO
S.A.D.

次作アルバムの噂もちらほら出ているようなので、情報をキャッチし次第、ブログやTwitterで発信していきたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

おすすめ記事:ブルックリンのインディーラップアーティストKota the Friendとは

Reference

RollingStone「By the Time Smino Releases an Album, He Already Hates It」
billboard「Smino on Why ‘Noir’ Was Better Than ‘Blkswn,’ Wanting to Form a Group With Noname & Saba and Unity Among Midwest MCs」
Pitchfork「Smino Talks Love, Peace, and Hair Grease」
Chicago Tribune「Interview: How St. Louis rapper Smino found his path in Chicago」
GOAT「GREATEST / SMINO」
COMPLEX「Meet Smino, One of 2017’s Most Promising Rappers」
VIBE「Smino Talks Outer Space, Soulja Boy, Braids And The Elements Of His Would-Be Biopic」
VICE「Smino Is Making a Midwest Musical Moment」
THE FADER「Meet Smino, The Deeply Loyal Rapper Putting His People First」

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facebook.com/SminoBrown

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