SZAの「Saturn」を考察&解説 / 土星に逃避と悟りを求めて

グラミー賞「最優秀R&B楽曲賞」など、3部門の受賞でも話題のシンガーSZA。そんなニュースの熱も冷めやらぬまま、2024年の一発目にリリースされたのが楽曲「Saturn」です。

今回はこの「Saturn」の歌詞や和訳を用いながら、曲の内容を考察&解説していきます。

(※本記事は筆者の感想文が含まれます。あくまで考察としてお読みいただければと思います。)

SZAの「Saturn」はどんな曲?

「Saturn」は、SZAのセカンド・アルバム『SOS』のリイシュー版『Lana』からのリードシングル。彼女が地球上で経験する日常の単調さや現実への失望から逃れたい、幻滅している気持ちが表現されている曲です。

そんな地球からの逃避場所が「土星(Saturn)」という別の宇宙であり、変化への渇望・憧れの地として土星が登場します。

なぜ土星(Saturn)なのか?考えられる理由を考察

「変化」「成長」「困難な状況からの脱却」を表現したかった

土星は、占星術において「変化」「制限」「成熟」「責任」などの意味を持ち、「個人の成長」や「転換期」を象徴する「サターン・リターン」という概念で知られています。これは約29.5年ごとに訪れるとされていて、人生の節目や重要な変化を表しているそうです。

SZAはこの曲を通じて、自身の人生における変化や成長、困難な状況からの脱却を表現したいのかもしれません。

実際に彼女はApple Musicのインタビュー「占星術にハマってる」と言って、自身の曲を正座に例えたりしています。

環境保護への意識改革

「Saturn」はSZAが参加しているマスターカードの環境保護プロジェクト、Priceless Planet Coalitionとの関連も注目されており、「地球や環境に対する意識」も曲の背後にあるテーマの一つかもしれません。

元々SZAは、環境的レイシズム(特定の人種のグループが他のグループよりも悪い環境状況に置かれること)に問題提起していて[R]、彼女のおばあちゃんの住むニューアーク(ニュージャージー州)に木が全然無いことや、ロサンゼルスの特定の地域(特定の人種、コミュニティで)で空気汚染が酷いことなどを指摘。それに伴うように、彼女は環境保護活動にも意欲的であるように思います。

ここからは、「Saturn」の内容と「環境保護」の関わりについてですが、個人的な深読みをしただけの考察になりますのであしからず。

土星は先述したように「変化」「制限」「成熟」「責任」などのテーマを象徴しています。SZAが「Saturn」を通じて個人的な変化や成長を歌っているように、リスナーに対してもまた「地球環境に対して責任を持ち、より良い環境の未来に向けた変化を実現する必要がある」というメッセージを伝えたいのかもしれないなと思いました。

そんなマスターカード環境保護プロジェクトとのタイアップパフォーマンス映像(グラミー賞で披露された)もあるので是非。

アートワークも面白い

この曲のアートワークは「Saturn」の頭文字を取り、文字とビジュアルの両方を使って、さまざまな概念や感情、状態を表現しています。この曲に込める思いを紐解く大きな材料になりそうなビジュアルで、面白いです。

アートワークの内容(左から順進みます)
S – Saturn (土星) 惑星土星を意味する絵
A – Absent (不在) 何かの写真で、人が写っていない(黒い部分)ことから「不在」を象徴?
T – Trust (信頼) 二人の雰囲気から信頼関係を想起
U – Unwell (体調が悪い) 薬瓶が描かれており、体調不良や病気を示す?
R – Rare (珍しい) 色鮮やかな魚が、珍しさや特別な存在を象徴している?
N – Nothing (何もない) 何も描かれていないことから、文字通り「何もない」状態を表す
Sick(病気) 薬瓶と医療用品が描かれており、病気や治療を連想
Acorn(どんぐり) どんぐりが描かれており、成長や自然のサイクルを象徴?
Take my time(時間をかける) 化粧品?などが描かれており、時間の使い方を問うている?
Rotten(腐った) 腐ったリンゴが描かれており、悪化や朽ちることを示す?
Safe(安全) 銃やお金、抱き合う人が描かれており、安全や生活の保護を意味?
Atom(原子) 原子の模式図が描かれており、科学や微小な構造を示す?
Time Wasted(時間の浪費) 時計が描かれており、時間の無駄遣いについてを問う?

この絵が何を意味するか、皆さんも歌詞を読み解いた後に考えてみてください。

SZAの「Saturn」の歌詞を深読みする

ヴァース1 / 現状への不満と別の世界の渇望

Lyric

If there’s another universe
Please make some noise
(もし別の宇宙があるなら、何か音を立てて)
Give me a sign
(合図を頂戴)
This can’t be life
(これが人生のすべてのはずがない)
If there’s a point to losing love
Repeating pain
(もし愛を失う意味があるなら、なぜ痛みは繰り返されるの?)
It’s all the same
(全て同じこと)
I hate this place
(この場所が嫌い)

最初のヴァースでは、別の宇宙が存在するならと、そこからの合図を求めています。人生とは「痛み」や「失恋」の繰り返しだと感じ、現状に疑問と不満を持っているのが感じ取れます。

この部分では、SZAが人生の意味や目的について深く問いかけており、「愛を失うことに何の意味があるのか」、「なぜ痛みは繰り返されるのか」といった疑問を投げかけているのも印象深いです。

彼女は、現在の世界(この場所)に対する不満を表現し、何か違う世界や可能性を求めています。

プレコーラス1 / 現実世界は残酷である

Lyric

Stuck in this paradigm
(このパラダイムに囚われてる)
Don’t believe in paradise
(楽園なんて信じてない)
This must be what Hell is like
(地獄とはこういうものだろう)
There’s got to be more, got to be more
(もっとあるはず、もっとあるはずよ)
Sick of this head of mine
(自分の頭が嫌になる)
Intrusive thoughts, they paralyze
(押し寄せる考えが、私を麻痺させる)
Nirvana’s not as advertised
(ニルヴァーナは宣伝されているほどではない)
There’s got to be more, been here before
(もっとあるはず、前にもここにいた)

ここでは現実から逃れたいという願望と、理想と現実のギャップに対する苛立ちを感じています。現実は地獄のようで、もっと良いものがあるはずだと信じているようです。

SZAは、楽園や理想の世界に対する信念を失っており、「got to be more(もっとあるはず)」と繰り返すことで、現状に対する不満だけでなく、変化への望みも表現しているように思います。

「Nirvana’s not as advertised(ニルヴァーナは宣伝されているほどではない)」

というフレーズは、「期待されていた理想や極楽、究極の幸福が実際には思っていたほど素晴らしいものではない」という感覚を表現していると解釈しました。

Nirvana(ニルヴァーナ)とは

ニルヴァーナ(涅槃/ねはん)とは、繰り返される生と死のサイクル、「輪廻」から自由になる状態を指します。特に仏教で重視されており、心の中の苦しみや悩みがなくなり、究極の平和に達した状態を表します。つまり、すべての欲望や不安が消え、心が完全に落ち着いた究極の幸せな状態のことで、人がこの状態に達すると、もう生まれ変わりはないとされ、真の解放と見なされます。

コーラス / より良い生活のため土星に思いを馳せる

Lyric

Ooh Life’s better on Saturn
(土星の生活の方がいいわ)
Got to break this pattern
(このパターンを壊さなきゃ)
Of floating away
(ただ漂い続けるのを)
Ooh Find something worth saving
(救う価値のあるものを見つけて)
It’s all for the taking
(全てを手に入れられるの)
I always say
(いつもそう言ってるわ)

なぜ土星(Saturn)なのか?考えられる理由を考察」で説明の通り、ここでの「Saturn(土星)」は、占星術的な視点から「現実からの逃避先」や「理想的な世界」を象徴。SZAは、現実の苦痛や制限から離れた、より良い生活を土星で見出せるという希望を歌っています。

また、土星には「変化」「制限」「成熟」「責任」などの意味があることから、「パターンを壊す」というフレーズには、不健全な習慣を断ち切り、健康的なパターンを固めるという意味もあるかもしれません。

ポストコーラス / 土星を夢見る

Lyric

I’ll be better on Saturn
(土星ならもっと良くなれるわ)
None of this matters
(これらのことは何も重要じゃない)
Dreaming of Saturn, oh
(土星のことを夢見て)

ここでの土星での生活は、現実の問題から解放される夢のような存在。彼女はそこでの生活を夢見て、現実の重圧から逃れたいと願っています。

ヴァース2 / 善人はなぜ報われないのか

Lyric

If karma’s really real
How am I still here?
(もしカルマが本当に存在するなら、なぜ私はまだここにいるの?)
Just seems so unfair
(ただ不公平に思える)
I could be wrong though
(でも、私が間違っているかもしれない)
If there’s a point to being good
Then where’s my reward?
(もし善良でいる意味があるなら、私の報酬はどこ?)
The good die young and poor
(善人は若くして貧しく死ぬ)
I gave it all I could
(私は全てを尽くしたわ)

ヴァース2では、SZAが人生の公正さや、善行が報われない現実に対する疑問を深めます。

「なぜ善良であることが報われないのか?」、「なぜ良い人が苦しみを経験するのか?」について問いかけていて、彼女の内面の葛藤と、世界の不条理に対する深い考えを歌っています。

プレコーラス2 / 窮屈な場所に縛られている

Lyric

Stuck in this terradome
(このテラドームに閉じ込められてる)
All I see is terrible
(見えるのはひどいことばかり)
Making us hysterical
(私たちをヒステリックにさせる)
There’s got to be more, got to be more
(もっとあるはず、もっとあるはずよ)
Sick of this head of mine
(自分の頭が嫌になる)
Intrusive thoughts, they paralyze
(押し寄せる考えが、私を麻痺させる)
Nirvana’s not as advertised
(ニルヴァーナは宣伝されているほどではない)
There’s got to be more, been here before
(もっとあるはず、前にもここにいた)

二番目のプレコーラスでは、「Stuck in this terradome, all I see is terrible, making us hysterical.(このテラドームに閉じ込められ、見えるものすべてがひどいことばかりで、私たちをヒステリックにさせる。)」と歌い、圧迫された環境による精神的な苦痛と、それがもたらすストレスのサイクルを描いています。

テラドームは、閉塞感、圧迫感、息苦しい空間=地球(この場所)を表していると解釈しました。

まとめ

以上、SZAの「Saturn」の考察でした。

彼女が占星術に造詣深いことをふまえると、この曲が持つ深いメッセージと感情がより一層理解できるのかなと思いました。また、若干ですが仏教の概念なども登場したのが面白いなと感じます。

サターン・リターンや、それに伴う「人生の節目」「重要な変化」などの意味を知って、ふまえながら聴いてみるとまた味わい深くなるかもしれません。

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SZA – Saturn Apple Music

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