VanJess(ヴァンジェス)とは / ナイジェリアをルーツに持つR&B姉妹
ナイジェリアをルーツに持ち、現在はLAで活躍中の姉妹シンガー「Vanjess」。Masego、GoldLink、Kaytranadaなど、人気のアーティストとのコラボレーションも活発で、注目を集めるデュオです。
今回はVanJessのプロフィール(生い立ちや影響を受けた人物)、主要なリリース作品、ヒットソング10選などを紹介します。
Vanjessについて気になっていた方は是非お立ち寄り下さい。
VanJess(ヴァンジェス)とは
VanJess(ヴァンジェス)は、Ivana(イヴァンナ)とJessica(ジェシカ)の姉妹からなる、ナイジェリア系アメリカ人のR&Bデュオです。ナイジェリア出身で、現在はカリフォルニアを拠点に活動中。
90年代のR&B、ソウルのテイストをまとった音楽性を持ち、デビューアルバム『Silk Canvas』や、EP『Homegrown』などの作品が有名です。
00年代の終わり頃から、ビヨンセやリアーナ、マライア・キャリーやドレイクのカバーをYoutubeにアップロード。少しずつ視聴者を増やしながら、2013年にデビューEP『00 Till Escape』を自主制作でリリースしました。
2018年には、Masego、GoldLink、Leikeli47らアーティストが参加、KaytranadaとIAMNOBOIらがプロデュースに加わったデビューアルバム『Silk Canvas』をリリース。
その後Kaytranadaの「Taste」にフィーチャリング参加などを経て、2020年に楽曲「Come Over」で復帰。2021年2月5日にはこの「Come Over」を軸に制作されたEP『Homegrown』をリリース。カバーアートにナイジェリアの文化を取り入れるなど、自らのルーツに根ざした音楽を表現しました。
ナイジェリアとアメリカの両方で育った二人
ジェシカはアメリカ、サウスカロライナ州生まれ。イヴァナはニュージャージー州生まれ。アメリカで1年ほど滞在した後にナイジェリアへ戻り、8〜9年を過ごしたそう。(ナイジェリアのイボ族がルーツだそうです)
イヴァナが10歳、ジェシカが8歳の時に再びアメリカに移住。カリフォルニアのラ・パルマやフォンタナなどの都市へ移り住み、家族と暮らしていたそうです。
イギリス系アメリカ人の学校に通っていた際には名字などをからかわれ、大変な思いもしていたのだとか。
ナイジェリア時代は教会で歌っていて、イボ族のスピリチュアルソングは彼女たちの歌い方に大きな影響を与えたそうです。
私たちは自分たちのことを誇りに思っているわ。ナイジェリア系アメリカ人であることを誇りに思っているし、それを今後の美学の前面に出していきたいと思っているの。DJ BOOTH
と語る二人。Youtubeのこれまでの活動を見ても、ファッションの変化から伝統へのリスペクトが感じられます。(R)
ナイジェリアの伝統を自分たちの美的感覚で表現するために、スタイリストのUgo MozieとDaver Campbellとつながったのだそうです。
J:「私たちがナイジェリア系アメリカ人であること、褐色の肌に自然な髪を持つ女の子であること、そしてそれを受け入れていることを、これまでになく人々に知ってもらいたいと思っているわ。」BUZZFEED
また、2021年のEP『Homegrown』では、アートワークにナイジェリアの文化を色濃く感じさせる工夫がされています(詳しくは後述します)。その点でも、彼女たちにとってナイジェリアのルーツがいかに重要なものなのかが分かります。
影響を受けたアーティスト
彼女たちが影響を受けたアーティストとして、以下の名前をあげています。
- マイケル・ジャクソン
- ジャネット・ジャクソン
- スティービー・ワンダー
- ホイットニー・ヒューストン
- TLC
- ブランディ
- トニ・ブラクストン
- SWV
- XSCAP3
- ギャップ・バンド
- チャーリー・ウィルソン
- S.O.S.バンド
- ブリトニー・スピアーズ
- スパイス・ガールズ
- *NSYNC
- シュガベイブス
- クレイグ・デヴィッド
また、2021年のインタビューでは「最近お気に入りのアーティスト」について
Jess:今、好きなアーティストの一人はPerfumeね。日本のエレクトロニック・バンドでとても気に入っているわ。正直なところ私は本当にあちこちにいるの。Jhené Aikoも大好き。昔から彼女の音楽が好きで、今も好き。Jazmine Sullivanはいつも素晴らしいと思う人。もちろんSZAもね。okayplayer
Ivana:私はMoonchildがとても好き。Men I Trustというバンドがあって、Haim、Cleo Sol、それに私たちのプロジェクトに参加しているDevin Morrisonがいるわ。Phony Pplも私たちのプロジェクトに参加しているわね。好きな人がたくさんいる。okayplayer
ジェジカはPerfume、Jhené Aiko、Jazmine Sullivan、SZAを。イヴァナはMoonchild、Men I Trust、Haim、Cleo Sol、Devin Morrison、Phony Pplの名前をあげています。
まさかここに来てPerfumeが登場したのは驚きました。日本人としても嬉しいですね。
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主要なリリース作品
『Silk Canvas』
2018年7月27日にリリースしたVanjessのデビューアルバム。Masego、GoldLink、Berhana、Leikeli47、Little Simzなどのアーティストが客演参加。また、Jay”Kurzweil”Oyebadejo、IAMNOBODI、KAYTRANADAなどプロデューサーが携わっています。
『Silk Canvas』の由来については以下のように語っています。
「『私たちの声を表す言葉は何か』と自分たちに問いかけて、拗ねたような、滑らかな、官能的な、絹のような、と考えたの。絹のような滑らかさ、セクシーなベッドルームの雰囲気、これは間違いなく私たちのサウンドだわ。「Canvas」は私たちが白紙の状態からやり直したいと思ったときに、これが私たちだと世界に伝えたいと思ったものなの」VOGUE
「キャンバスは私たちの人生のステージを表しているの。私たちは新しいことを始めようとしていて、全く新しいものを創造するために白紙の状態を望んでいたのよ」NYLON
「Silk」には、Vanjessの歌声を聴く上で「Silk(=絹のような滑らかで光沢のあるイメージ)」を感じて欲しいという想いがあるそう。また「Canvas」には、新しいものを創造するために必要な「白紙の状態」を表したものだそうです。
2019年11月8日には、Ari Lennox、Bas、Saba、Xavier Omärなどをフィーチャーしたリミックス版もリリースされています。
『Homegrown』
2021年2月5日リリースのEP。よりオールドスクールへの愛着を深めた作品と言われる本作には、KAYTRANADA、Devin Morrison、Jimi Tentsなどのコラボレーターが参加。9月17日には、9曲から14曲に拡張されデラックス・エディションもリリースされています。(↑に埋め込んでいるのもデラックス・エディションです)
『Homegrown』は、もともと『Silk Canvas』のタイトルになる予定だったそうです。
J:元々は私たちの最初のプロジェクト『Silk Canvas』のタイトルになる予定だったの。当時の私たちは、音楽業界でアーティストとして認められず、苦労していたのよ。人々は私たちと一緒に仕事をしたがらなかったから、自分たちだけでやらなければならないことが沢山あって「Homegrown」は完璧なタイトルだったわ。これは、VanJessが自宅でレコーディングを始めたことを表す最適な表現なの。去年私たちは同じ環境に戻ってきた。ロックダウンや世界の状況を見て、私たちは自分たちの家で自分たちだけで創作や作曲をすることに戻ったの。まさに一周回ったわけね。BuzzFeed
「Homegrown(自家製)」というのは、「自宅で・手作業で創作や作曲をすること」に因んでいるそうです。
- まだ名の知られていない時代の、自宅で手探りに音楽制作をしていた「Vanjess」
- 有名になってからパンデミックによって、自宅で手探りに音楽制作をしなければならない環境が回帰した「Vanjess」
時を超えて訪れた二つのVanjessによって出来上がったのが『Homegrown(自家製)』の成り立ちの部分となっています。
アートワークには二人のルーツが詰まっている
『Homegrown』のアートワークは、「もし70年代のナイジェリアに隔離されていたら、どんな服を着るだろう?」ということから着想を得て、ナイジェリア系アメリカ人であることを視覚的に表現したデザインが施されています。(写真も自宅で、ジェシカのiPhoneで撮影されたそう。「すべてを家で作る」という意図も込められているようです)
今回のプロジェクトでは、私たちが何者であるかをビジュアルで明確に表現したいと思ったの。それが私たちの意図よ。これまでの私たちはとても曖昧なイメージを持っていたわ。今回のプロジェクトでは、私たちが何を持っているのかを知ってもらうのと同時に「私たちはナイジェリア系アメリカ人の女の子で、アメリカで生まれたのよ」ということを知ってもらいたかったの。Rated R&B
と、彼女たちのルーツを意図的に表現することで「自分たちが何者であるか?」や、そのストーリーを伝えたい想いがあるそうです。
音楽やアートワークを含め、全体として「ナイジェリアとアメリカのルーツを融合させた世界観」を表現したかったことが分かります。
VanJess(ヴァンジェス)の10ヒットソン
1.Slow Down ft. Lucky Daye
リリース:2020年11月19日
収録作品:『Homegrown』
ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のR&BシンガーLucky Dayeとのコラボソング。Wreckx-N-Effectの「Rump Shaker」や、JAY-Zの「Show Me What You Got」の元ネタでも有名な、1970年代のファンクロックバンドThe Lafayette Afro Rock Bandの「Darkest Light」をサンプリングしている曲です。
ジェシカがフックを考え、イヴァナがそれに合わせて詩を書いたというこの曲。ジェシカは以下のように曲への想いを述べています。
「一日の終わりには、人生の中で時間の概念が消えてしまうような人たちがいるものよ。誰かと一緒に居る瞬間を感じることができる。私はそれを言葉にしたかったの」RATED R&B
時間を忘れる程に夢中なパートナーとの恋愛ソングです。
関連記事:セクシーかつスモーキーなシンガーLucky Dayeとは / 成功までの軌跡
2.Addicted
リリース:2018年4月18日
収録作品:『Silk Canvas』
デビューアルバム『Silk Canvas』に収録された一曲。Quincy Jonesの「Summer In The City」がほのかにサンプリングされたこの曲は、90年代を彷彿とさせるスロージャムで、文字通り「Addicted(中毒性)」のある人間関係・恋愛について歌った曲です。
3.Come Over
リリース:2020年9月3日
収録作品:『Homegrown』
この曲は、EP『Homegrown』のプロジェクト全体のトーンを決定づけたとされる曲です。この曲を通じて『Homegrown』という作品が出来上がったとも言える重要な一曲。
J:「最初は2016年に作った曲なんだけど、去年家でレコーディングしてティーザーをツイートをしたら、これはいよいよシングルで出そうということになったの。ボーカルの残りの部分はこの家で録音したから、小さなホームスタジオが曲のクレジットにも入っているわ。”Come Over”はこのプロジェクトの他のすべての曲のトーンを決定づけたのよ」BuzzFeed
実はミュージックビデオよりも再生回数を稼いでいるのがライブパフォーマンスビデオ。こちらも合わせて是非!
4.Through Enough ft GoldLink
リリース:2017年9月2日
収録作品:『Silk Canvas』
ワシントンD.C.出身のラッパーGoldLinkとのコラボソング。Gallant、H.E.R、Goldlink、Moss Kena、BTSなどのプロデュースでも知られるLophiileのアップテンポなトラックが印象的な曲です。
ジャンルの壁を越えた、新鮮な雰囲気もありますね。
5.Caught Up ft. Phony Ppl
リリース:2021年2月5日
収録作品:『Homegrown』
ニューヨークはブルックリンの音楽バンドPhony PplのボーカルであるElbeeを起用した一曲。パンデミックの中で生まれた曲だそうで、「Elbeeが自分の詩を送ってくるまで時間がかかったけど、それだけの価値があったわ(R)」と語っている曲です。
関連記事:ブルックリンのクインテットバンド「Phony Ppl」の魅力
6.Touch The Floor ft. Masego
リリース:2016年12月1日
収録作品:『Silk Canvas』
ジャマイカ系アメリカ人のミュージシャンのMasegoとのコラボレーション曲。MasegoとはGoldLink作品の撮影にエキストラとして出演した際に出会ったそうです。
「彼はYouTubeで私たちのことを知っていて、そのあと何度か会って、Masegoが”Touch the Floor”でラップしてくれたら最高だと思ったの。”Through Enough”では、プロデューサーであるMasegoの友人に会って、座って曲を作ったのよ。こんなことは計画的にはできないわ。」VOGUE
Vanjessの持っている魅力や、偶然が重なってできた曲です。
関連記事:「トラップ・ハウス・ジャズ」というオリジナルジャンルを確立したシンガーMasegoを紹介
7.Boo Thang ft. Devin Morrison
リリース:2021年2月5日
収録作品:『Homegrown』
フロリダ州オーランド出身、現在はLAを拠点とするアーティストDevin Morrisonとのコラボレーション曲。パンデミックの真っ只中に生まれた曲だそう。
一見軽快にも感じるトラックには良い重みがあって、両アーティストのコール&レスポンスが心地よい曲です。
8.Easy ft. Berhana & Leikeli47
リリース:2018年2月23日
収録作品:『Silk Canvas』
ラッパーのBerhana & Leikeli47をフィーチャーした、滑らかなシンセが際立つ曲です。
特にLeikeli47のストレンジャー・シングス、プリンス、ライオネル・リッチーなどを巧みに引用したバースが個人的に好きです。
9.Sinead Harnett – Stickin’ (feat. Masego & VanJess)
リリース:2020年7月10日
収録作品:『Ready Is Always Too Late』by Sinead Harnett
イギリス出身のシンガーソングライターSinead Harnettのセカンドアルバム『Ready Is Always Too Late』に収録された曲で、Vanjessが客演参加しています。
「Touch The Floor」でもコラボしたMasegoも同じくフィーチャーされていて、2020年のベストR&Bソングとも言える人気の一曲です。
関連記事:イギリス出身LA在住のシンガー「Sinead Harnett(シニード・ハーネット)」を紹介
10.KAYTRANADA, VanJess – DYSFUNCTIONAL
リリース:2019年4月10日
カナダの人気プロデューサーKAYTRANADAとのコラボレーション楽曲。この曲が出来た背景は、メアリー・J・ブライジとのセッションがキャンセルになったことがきっかけなのだそう。
Dysfunctionalは、電話をかけてこないことや上手くいかない人間関係について歌った曲で、この関係を上手くいかせたいと思っているのに、上手いこといかない。この曲ではそれを目指しているんだ。Genius
とKAYTRANADAが語るように、上手く行かない関係・壊れかけた関係を描いた曲です。また、KAYTRANADAは「Vanjessはワンテイクで完璧にやってくれたよ」と、彼女たちの仕事ぶりを賞賛しています。
最後に
姉妹アーティストVanjessを紹介しました。2021年の作品『Homegrown』は本当に素晴らしくて、個人的2021年のベストアルバムにも入りました。
歌のスキルはもちろんですが、やはり彼女たちのブランディング(ナイジェリアのルーツを作品にしっかり落とし込む感じ)が作品の質をブーストさせていると思います。
彼女たちのYoutubeの過去の動画を見ると分かるのですが、今と全然雰囲気が違くて、ビジュアルの重要性について考えさせられるものがありました。
今後の動きにも期待したいと思います!最後までお読み頂いた方、ありがとうございました。
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・RATED R&B「How VanJess Took an Organic Approach for New EP ‘Homegrown’: Interview」
・BuzzFeed「VanJess Talks Us Through Creating In Quarantine And The Making Of Their EP, “Homegrown”」
・okayafrica「VanJess Are Set to Takeover the R&B World and Beyond」
・DJBOOTH「VanJess Are Telling R&B Stories of Confidence & Belonging」
・okayplayer「VanJess Perfected Their Own R&B Sound on the ‘Homegrown’ EP」
・VOGUE「VanJess Are The Sister Two-Piece Cultivating Their Own Strand Of R&B」
・NYLON「VANJESS IS TAKING CONTROL OF THEIR OWN STORY」
・Genius「DYSFUNCTIONAL」
・Genius「Vanjess」
・THE 405「Sister Collab: The 405 meets VanJess」
・FACT「VanJess are the new architects of electronic-soul on their debut album Silk Canvas」