Victoria Monétの「Alright」を考察&解説 / 女性の自由と自立の賛歌
2024年のグラミー賞で最優秀新人賞を含む3つの賞を受賞し、その後もBETアワードで5つのノミネートを獲得するなど、急速に人気を集めているVictoria Monét(ヴィクトリア・モネ)のアルバム『Jaguar II』からのシングル「Alright」。リリース直後からファンの間で大きな話題となり、ミュージックビデオも多くの注目を集めました。
今回は、この「Alright」の歌詞や和訳を用いながら、曲の内容を考察&解説していきます。
(※本記事は筆者の感想文が含まれます。あくまで考察としてお読みいただければと思います。)
Victoria Monétの「Alright」はどんな曲?
この曲は、女性の解放と自由を描いたセルフ・エンパワーメントソング。男性優位の社会に対する挑戦と、女性が自らの力で自立する姿を、悪役っぽく表現します。
カナダのプロデューサーKaytranadaが制作した、エネルギッシュなアップテンポビートが巧みに融合しているのもポイントです。
「私の音楽的なペルソナとは違って、現実の私はとても清潔で良い子よ。でもこの曲ではちょっと悪役になりたかったんだ。ラップの歌詞で女性がどう扱われているかを見ると、私たちも同じようにやり返してみたかったの。」Genius Verified
「このセッションで気に入ったのは、Krataが私をアップテンポの世界に引き込んでくれたこと。普段ならミッドテンポやスローな曲を選んだり作ったりするので、Krataと一緒に仕事をすることでエネルギーが上がるわ。」Genius Verified
ミュージックビデオは過去の名作オマージュが盛りだくさん
ミュージックビデオは、「ミッシー・エリオット、ジャネット・ジャクソン、ブリトニー・スピアーズ、ハイプ・ウィリアムスの映画『Belly』など、90年代と2000年代のポップ・カルチャーを象徴する瞬間にオマージュを捧げている」と声明が出されています。
ビデオを手掛けたのは、2000年代初頭に「All for You」や「Want You」などの曲でジャネットとコラボしたことのあるデイヴ・メイヤーズ。
ジャネットの同名曲「Alright」のオマージュがふんだんに取り入れられていて(マイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」オマージュとも言われている)、さらに「Alright」のティーザーでは、マイケル・ジャクソン「Thriller」を思わせるシーンも見受けられるなど、先駆者のカルチャーを重視した構成となっています。
🍿🎥💙 “Alright” is premiering tonight at 9pm pst at a YouTube link near you! pic.twitter.com/Rl3998fDkx
— Victoria Monét (@VictoriaMonet) June 10, 2024
また、ダンスの振り付けは「On My Mama」」の振付師であるショーン・バンクヘッドのが手掛けていて、「On My Mama」同様見応えのあるダンサブルムービーにもなっています。
関連記事:Victoria Monét – 「On My Mama」を考察&解説 / 産後うつの中での自己肯定の探求
Victoria Monétの「Alright」を深読みする
ここからは「Alright」の歌詞の内容を、和訳を用いながら考察していきます。本人解説もされているので、そのコメントも織り交ぜながら深掘りします。(繰り返しの部分は省略させていただきます。)
※ここでは直訳ではなく、独自の解釈を含んだ意訳を含む場合があります。ここでの解釈が正解と思わず、「考察」「感想文」程度にお読みくださいますようお願いします。
ヴァース1 / 自己過信の男性に対する厳しい現実
He gave me some dick in bed
Now, he think his dick is embedded
‘Bout to leave his text on read
I’ma let him know that I read it
彼はベッドで私と関係を持った
今や彼は自分が特別だと思っている
彼のメッセージを既読にして放置
彼に読んだことを知らせてやる
最初のヴァースでは、Victoria Monétが男性との一夜の関係を描写しています。彼は自分(のアレ)が特別だと思っているが、彼のメッセージを既読スルーすることで彼にその考えを打ち消します。
モネ自身も「男性は時々、自分のアレが特別な力を持っていると思っていて」と語っており、「一度関係を持てば、女性がその経験をずっと覚えていて、忘れられないと考えている」と思っているようです。
「そう思っている人には”もう忘れちゃったかもしれないよ”と伝えたかったんだ。あるいは”そもそも満足してないかもね”と。これは曲の始まりに少し厳しい現実をぶつけて注意を引くためよ。」Genius Verified
女性も男性と同じように、自由に性に関する選択をする権利があるというメッセージを感じます。
プレコーラス / 相手の感情を揺さぶる歌い手
Makin’ niggas feel a way, it’s a forte, really
Might not even hit you when I’m in your city
Thought you was about to get some foreplay with me?
Won’t even get a picture of these 4K titties
男たちに感じさせるのが得意、本当に
あなたの街にいても連絡しないかもね
私と前戯でもするつもりだった?
この4Kの胸の写真さえあげないわ
プレコーラスでは、男性に対しての女性の優位性や強い意志を表現。彼女は感情を揺さぶるのが得意であることを述べ、彼女は自分が男性の街にいても連絡しないかもしれないし、彼らが期待するような前戯や親密な瞬間を共有するつもりもないことを明確にしています。
最初のラインにある「forte」はフランス語由来の英語で、元々は「強い点」や「得意分野」という意味があります。
「私はただどれほどプロフェッショナルに人を感じさせることができるかを表現したかった。それが”forte”というラインの由来よ。これは私にとってとても自然なことで、本当に得意なんだ。」Genius Verified
ここでは、モネが自分の行動や存在によって男性に強い感情や反応を引き起こすことが得意で、そのことを自信を持って(ごく自然なこととして)表現したかったようです。
また、「4K」には、「とても鮮明な写真(=高い画面解像度という意味での4K)」と、「4000ドルの価値のある胸(=4K[4000ドル]の整形費用がかかる胸)」というダブルミーニングにもなっているそうです。
コーラス / 自分のペースで進む夜
I’m gon’ be on my shit tonight
No one on my hip tonight
Plus, I got this feelin’ life’s
Alright, alright
Gon’ be on my shit tonight
No one on my hip tonight
Plus, I got this feelin’ life’s
Alright, alright
今夜は私のペースでいくわ
今夜は誰も私の邪魔をしない
それに、人生が大丈夫な気がするの
大丈夫、大丈夫
今夜は私のペースでいくわ
今夜は誰も私の邪魔をしない
それに、人生が大丈夫な気がするの
大丈夫、大丈夫
このコーラスでは、モネが今夜は自分のペースで過ごし、誰も彼女の邪魔をしないことを強調。彼女は自分の力と独立性を誇示し、人生がうまくいっているという自信を持っています。
「外に出るとき、心配事は何もない。請求書は支払われているし、髪も完璧、銀行口座も潤沢で、物事はすべて順調。そうやって外出するのよ。」Genius Verified
女性の自立と自己肯定感を表現している部分だと思いました。
— ポストコーラス省略 —
ヴァース2 / 関係に縛られない自由な意志
Once he think he touched my soul
I’ll be back out here solo
Yeah, he might call me a ho
But I like to call it immortal
彼が私の心に触れたと思ったら
私はまた独りに戻るの
そうね、彼は私を尻軽女と呼ぶかも
でも私はそれを不死身と呼ぶのが好き
ヴァース2前半
ここでは、男性が彼女の魂に触れたと思った瞬間、彼女は再び独りに戻ると述べています。
男性が深い感情的な繋がりを持ったと思い込む一方で、彼女はその関係に縛られることなく、自らの自由を保つことを選択しています。
「これはちょっと悪役っぽい感じがするね。女性が完全にコミットしなくてもいい自由を持つべきだと思う。いろいろな人とデートして、自己表現する自由がある。恋に落ちる必要はない。このラインは、あなたが私を手に入れたと思った瞬間、そうじゃないことを示しているんだ。私たちは手に入れられない、所有されない。」Genius Verified
ヴァース2後半
後半部分では、彼が彼女を「尻軽女」と呼ぶかもしれないが、彼女はそれを「不死身」と呼ぶのが好きだと述べています。ここでも女性の自由と独立を守るための強い意志が感じられます。
「ho」は「whore(売春婦)」の略で、「ビッチ」「尻軽」などの意味を持つ英語のスラング。多くの場合、女性に対して軽蔑的に使われますが、文脈によってはリベラティブな意味や自己認識を示すために使われることもあるそうです。
この文脈では、男性が彼女を軽蔑的に「ho」と呼ぶかもしれないが、彼女自身はそれを「不死身」と呼んでいる、と解釈できます。
「コントロールできないと、人はネガティブな意味で”ビッチ”と呼ぶことがあるけど、私は”いや、実際には私は力を持っていて、自分のしたいことをしている”と感じているわ。」Genius Verified
immortal(不死身)というワードに隠れたステレオタイプ
モネはimmortal(不死身)というワードを聞くと、対戦格闘ゲームの「Mortal Kombat」を思い出すのだとか。
これは男性がプレイしているイメージが強いとした上で、歌詞と関連付けると、
「あなたが私を遊んでいると思っているけど、実際には私があなたを遊んでいるのよ」
という具合に、男性が自分が優位に立っていると思っている状況でも、実際には女性が強く、自分の意志で行動しており、むしろ男性をコントロールしているというメッセージが隠されているようです。
「音楽の中でジェンダーのステレオタイプをひっくり返すのが好きなんだ。実際にはそういうことがあるからね。」Genius Verified
— 以下繰り返しプレコーラス/コーラス/ポストコーラス/アウトロ 省略 —