2024年7月 / 今月のチェックマーク作品リスト
その月にリリースされたもので、チェックマークを是非とも付けておきたい作品(アルバム・EP・ミックステープなど)をピックアップする記事です。
ということで、7月は以下のラインナップとなっております〜。(先月末の作品も含みます。)
Nao Yshioka – 『Flow』
6/28リリース。米国を始め、アジアやヨーロッパでも活躍の場を広げる、大阪出身のシンガーソングライターNao Yshiokaの最新アルバム。「自己発見」と「表現」をテーマに、ソウル、R&B、ジャズ、ファンクが融合した極上サウンドが詰まっています。
国境を超えたコラボレーションも魅力の一つで、Devin Morrison、Reuben James、MXXWLL、JAEL、Jarreau Vandal、黒田卓也氏などが参加。どの曲もアーティストへのリスペクト、愛を感じる印象で、そんな想いが聴き手を一層深いところに持っていってくれる気がします。
過去のアルバムでは、自分を愛することや自分を認めることに対する葛藤を表現していたそうですが、『Flow』ではその葛藤から卒業し、よりリラックスした、楽観的なメッセージが中心になっているといいます。
「なりたい自分になるために頑張ってきた自分。でもその自分になれなかったら自分を愛せないって思ってた自分から卒業して、ダサい自分と付き合ってみたら人間的におもしろいって認められるようになった感じ。だから『Flow』は真剣なサウンドっていうより、ちょっと気が楽になったり、気が抜けた感じだったり、明るいメッセージの曲が多いんです。そこ(自分を愛せない自分)は卒業して、聴いてる人が未来は明るいかもしれない。気楽でいいのかなって思ってもらえたらいいなと思って作りました」bollboard JAPAN
そして「Flow」というタイトルは、心理学でよく使われる言葉「フロー状態*1」に由来しているそうです。
「音楽をずっと聴いてたら頭の中が自由になる瞬間。ゾーンに入るとかですね、たぶん。で、その時って人間の芯みたいなところにつながってる感じがして、今回はそれ(フロー状態)でアルバムを作りたいなって」bollboard JAPAN
フロー状態とは、人がある活動に完全に没頭し、時間の感覚を忘れるほど集中している状態を指します。この状態では、活動がスムーズに進行し、高い満足感や達成感を得られると言われてます。
Megan Thee Stallion – 『Megan』
6/28リリース。テキサス州ヒューストン出身のラッパーMegan Thee Stallion(ミーガン・ザ・スタリオン)の最新アルバム。本作は、ミーガンが「自身の再生」と「新しい自分への変化」を表現したそうです。
彼女はこのアルバムを「リバース(再生)」と称し、物理的にも精神的にも新しい自分に生まれ変わる過程を描いています。
「再生についてのこのアルバムを作ろうと思ったのは、自分が肉体的にも精神的にも新しい人間になりつつあると感じたから」Women’s Health
「自分自身に忠実でありながら、自分のメッセージにも忠実な音楽を作ることで、より良い空間に入っていけるようになったわ」Women’s Health
また、アルバムのモチーフには蛇が選ばれており、蛇は恐れられたり誤解されたりする一方で、尊敬されることもあり、治癒の象徴(という神話などがある)でもあります。ミーガンはこの蛇を、自分自身の変化や成長のシンボルとして使ったそうです。
千葉雄喜氏もフィーチャーされてたり、日本でも注目されるであろう一作だと思います。
VanVan – 『VAN VAN』
7/5リリース。ノースカロライナ出身の5歳のラッパーVan Vanのキャリアの出発点となるデビュー作。彼女の愛らしいラップスタイルと子供らしい視点が生かされた作品です。
キャッチーで軽快雰囲気と、どヒップホップな鋭い雰囲気とが交差していて、思わずお気に入りIN。5歳なのにも驚愕だし、その無邪気な感じが余すことなく出ていて、新鮮でした◎。
Tink – 『winter’s diary 5』
7/12リリース。シカゴのR&BシンガーTink(ティンク)の、2012年より始まった「Winter’s Diary」シリーズの最新作。Summer Walker、Jeremih、NoCap、Skilla Baby、Janineなどのゲストアーティストも参加しており、多彩なコラボレーションが魅力の作品です。
このアルバムは、痛みやストーリーテリング、率直さに焦点を当てており、彼女の過去1年間の経験が反映されているのだとか。アルバムが日記のようなもので、多くの痛みや物語、正直な気持ちが込められています。
「このアルバムは他のアルバムとはかなり違うわ。たくさんの苦しみがあり、たくさんの物語があり、正直さがあり、私がいつも話したがらないことがあり、それがこのアルバムを特別なものにしている。それがこのアルバムを特別なものにしているの」Breakfast Club Power 105.1 FM
また、リスナーに対しても寄り添う気持ちでいて、日常の困難や毎日が晴れではない人々のためのものだと語っています。
「私はバブルガムのようなアーティストではなく、ポップアーティストでもないわ。私はシカゴの出身で、シカゴのストリートから来た。同じような経験をしている女性たちがいることを知っていて、毎日が晴れではないということを知っているよ。だから『Winter’s Diary』は本当にリアルな人たちのためのものなんだ」Breakfast Club Power 105.1 FM
Jay Worthy, DāM-FunK -『Magic Hour』
7/12リリース。カナダ出身、西海岸を拠点にするラッパーJay Worthy(ジェイ・ワーシー)と、カリフォルニア州パサデナ出身のファンクミュージシャン、ボーカリスト、プロデューサーDāM-FunK(デイム・ファンク)のコラボアルバムです。
西海岸愛が如実に感じられる作品であり、特に西海岸のファンクとヒップホップの美学を融合させています。
「俺たちがここでやっていることは、西海岸に新鮮な息吹を吹き込んでいると感じる。そして西海岸のルーツはファンクだ。」CABBAGES
そんなファンクの純粋さを保ちつつも、本作はサンプルを使わずに制作されているそう。伝統を踏襲しながらも前に進めていく思いが詰まっているとも言えそうです。
故きを温ね新しきを知るとはまさにこのこと。
Common & Pete Rock – 『The Auditorium Vol. 1』
7/12リリース。『The Auditorium Vol. 1』は、シカゴのラッパー・Commonとニューヨークのプロデューサー・Pete Rockのコラボレーションアルバムです。本作は、二人が初めてフルアルバムを共同制作したものであり、ヒップホップの黄金時代と現代を結びつける魅力的な作品です。
本作の制作背景には、コモンがヒップホップの50周年を祝っている中で感じた「ヒップホップはまだ生きてる」「みんなが純粋なヒップホップを渇望しているのを感じた」という感情が由来。それを機に「ピートとともに新しい何かを作りたかった」と語っています。
「ヒップホップの50周年を祝っている中で、みんなが純粋なヒップホップを渇望しているのを感じたんだ。ヒップホップは生きているって実感したよ。死んでなんかいない。Tariqがあのライムをしているのを聞くと、『これがヒップホップだ』って感じる。ずっとピートと一緒にプロジェクトをやりたかったんだ。彼の家に行って、人間同士、男同士としての絆を深めて、音楽を聴かせてもらった。だから、『アルバム作らなきゃ』って思ったんだ。俺たちが作った音楽は、ヒップホップの精神をそのままにしていて、楽しさや魂、心が詰まってる。ヒップホップはまだ生きてるんだよ。だから、新しい何かをみんなに届けたかったんだ」Youtube Tonight Show
『The Auditorium Vol. 1』は、Pete Rockのシグネチャー的ブーンバップビートと、Commonの巧みなリリックが言わずもがな光っています。アルバム全体が、ヒップホップの黄金時代のエッセンスを持ちながらも現代的な感覚を持ち合わせていて、どの時代にも響く普遍的な魅力を感じます。
ちなみにタイトルの「Auditorium」は、コモンが「みんなをピート・ロックと俺のオーディトリウム*2に招待したかった」と思ったことから名付けられたそう。
「俺にとって、オーディトリウムはみんなが集まってアートや文化、音楽、人生を楽しむ場所なんだ。子供の頃、最初のパフォーマンスもオーディトリウムだったし、このアルバムを作っているときに感じた喜びが、また子供に戻ったような気分にさせてくれたんだ。だから、ピート・ロックと俺のオーディトリウムにみんなを招待したいと思ったんだ。それが象徴的だったから、最終的にこのタイトルにしたんだよ。最初は意見がぶつかり合ったけど、最終的には納得してもらえた」Youtube Tonight Show
大勢の人が集まって講演やコンサート、演劇などを楽しむための大規模な施設。日本語で言う「講堂」や「ホール」に近い概念。
Childish Gambino – 『Bando Stone and The New World』
7/19リリース。Donald Glover(ドナルド・グローヴァー)としても知られる、アーティストChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が、「Childish Gambino」名義での音楽活動に終止符を打つ、ラストアルバムです。
「世界の終焉」をテーマにしたというこのアルバムは、主人公が音楽を通じて自己表現や目的を見つける過程が描かれていて、特に「この世の終わりにおいて音楽の意味は何か?」というテーマ、ストーリーテリングがなされています。
サウンドは、エレクトロニカ、ファンク、ソウル、ヒップホップなどなど、容易に一言では表せない多様なジャンルで構成され、各曲には独自の色味がある印象です。
彼自身、インタビューで、「充実感がなく、もうこのようなやり方で作る必要はないと感じた」と語っていて、より大きな意味を見出すための自己探求の一環として、この作品が位置付けられそうです。
Blxst – 『I’ll Always Come Find You』
7/19リリース。ロサンゼルス出身のラッパー/シンガーソングライターBlxst(ブラスト)のデビューアルバム。20曲が4つのアクトに分かれており、アルバムには、2 Chainz、Offset、Anderson .Paak、Becky G、Ty Dolla $ign、Fatman Scoop、Joyce Wrice、Kamasi Washingtonといった多彩なゲストアーティストが参加しています。
本作は、Birdieというキャラクターが、亡き父の運転手サービスを継ぎながら人生の教訓を学ぶ姿が描かれ、物語形式で進行していく作品です。Blxstの個人的な経験も反映されているのだとか。
サウンドはLA特有とでも言えるのか、Blxstの特徴的な西海岸の風味を感じさせるR&Bを基盤に、ハウス、アフロビート、ファンクなどの要素が融合しています。
「自分の音楽に対して、今までで一番自信が持てる作品になった。このアルバムの制作中に乗り越えなければならなかったことが、俺の創作プロセス全体を変えたんだ。アーティストとして活動を始めたばかりの頃に夢見ていた高みに到達しないのは、自分にとって損なことだ。今ほど良い時はないよ」RedBull
Dear Silas – 『Cadillac Leather in July』
ミシシッピ州ジャクソン出身のシンガー、ラッパー、トランペット奏者、Dear Silas(ディア・サイラス)の最新作。
ジャジーでメロディアスなサウンドは滑らかで、夏の心地よさを醸し出している印象です。新鮮でありながらもどこか懐かしい感じとでもいう感じでしょうか。
また、Dear Silasの柔らかいヴォーカル&ラップも◎でした。