BTSとヒップホップの関係 / 世界を席巻するグループの根底にあるもの
「小さな芸能事務所のアイドルグループ」という立ち位置から、今では世界を股にかけ活躍し「世界最高峯のグループ」と称されるBTS。ビルボードチャートやグラミー賞を始めとする音楽シーンでの快挙のみならず、近年では国連総会でのスピーチやホワイトハウスへの訪問するなど文化的な影響力も多大です。
今回は、彼らのルーツともいえる「ヒップホップ」との関係性にフォーカス。世界へ羽ばたいたBTSが、ヒップホップとどのような歩みをしてきたのかをお伝えしていきます。
こちらもあわせてお読みいただくと、更に彼らの理解が深まると思います。よろしければ是非!
BTSは元々ヒップホップを軸に結成されたグループだった
BTSは元々、リーダーのRMを軸にヒップホップグループとして活動する予定だったと、BTSの音楽プロデューサーのひとりであるPdoggは語っています。
Pdogg「当時はBTSの方向性が細かく決まっていたわけではなく、”ヒップホップを基本にしたチームを作ろう” という感じでした。2010年から2011年にかけて全国でオーディションを行い、SUGAが入ってきて、そういう展開になりました。最初はアイドルグループというより、ヒップホップグループを作りたかったんです。」TONGUE TECHNOLOGY
ことの始まりは、Pdoggと韓国のラッパーSleepyとの会話に由来しているそう。
Pdogg「2010年頃、Sleepyと一緒に飲んでいて、僕たちはちょっと仲が良くてね…。Sleepyが、すごいパフォーマーで17歳の高校1年生の子がいるんだけど、聴かないかって言ってきたんです。」TONGUE TECHNOLOGY
「17歳のすごいパフォーマー」というのがRMのこと。Pdoggも音源をチェックし「素晴らしい子がいる」と、BTSの生みの親であるパン・シヒョク代表に話したことがBTS結成のはじまりだったそうです。
「こういう子を埋もれさせるわけにはいかないという感じでした。」TONGUE TECHNOLOGY
また、パン・シヒョク代表も、KBSの番組「防弾少年団 (BTS)とK-POPの未来~明見萬里」でRMの才能について述べています。
パン・シヒョク「こんなに才能のある子を手放してはいけないという一種の使命感がありました。」
防弾少年団 (BTS)とK-POPの未来~明見萬里
BTSが結成される以前は30人ほどの練習生がいて、レコーディングや曲作りをして、お互いの反応を見る期間が3年ほどあったそう。(海外のポップスを作る子、ヒップホップを作る子などに分かれたり、ヒップホップ的に解釈し直す作業なんかも行っていたそうです[R])。
そんな期間経て残ったのが、SUGA、ラップモンスター(RM)、J-HOPEというラップラインの3名。その後、ジン、ジョングク、V、ジミンがBTSへ合流し、今の7人となりました。
BTSの初期の作品から感じるヒップホップ愛
BTSの初期の作品は、昔のヒップホップやR&B、西海岸ギャングスタラップの影響を感じる楽曲が多数あります。
流行りのものやポップスだけではなく、伝統的なサウンドにも取り組んでいて「ベースはヒップホップにある」というのがサウンド面からもみてとれます。
Intro : 2 COOL 4 SKOOL feat. DJ Friz
ビートの強いブームバップトラック(バスドラムやスネアドラムが良く聴いた古典的なヒップホップトラック)なイントロ。「スクラッチ」「サンプリング」などの要素も見えるヒップホップ色の強い楽曲です。
I Like It / Like
ヒップホップと密接な関係にあるのがR&Bソング。ラップを得意とする面々と、歌を得意とする面々が分かれているBTSは、その彩をうまく使っています。
この曲は、2000年代を代表するR&BグループのB2Kや、初期のクリスブラウン彷彿とさせる、メロウだけど踊れる感じのR&Bソングです。
길 (道/Path/Road)
先述した「Intro」とはまた違ったシリアスなブームバップ曲。リリックも内省的なのがトラックにマッチしています。
If I Ruled The World
80年代末から90年代に熱を帯びた、西海岸ヒップホップの特徴である「Gファンク」の影響を色濃く感じるトラックが特徴。当時のウォーレン・Gを彷彿とさせる一曲です。
JUMP
90sラップの代表曲の一つである、クリスクロスの「Jump」を完全に意識している一曲。
Hip Hop Phile
トラックはオールドスクールっぽくないですが、リリックで数々のヒップホップアーティストの名前を引用しながら、彼らなりのヒップホップとの向き合い方について歌っています。(和訳:https://youtu.be/v6kjJBxyq8A)
近年のラップソング
「ヒップホップアイドル」というコンセプトが色濃かったデビュー当時だけでなく、近年でもラップソングはリリースされています。「Dynamite」や「Butter」など、ボーイズバンド雰囲気のある曲が有名ですが、ラップラインの三人(RM,SUGA,J HOPE)がリリースしている曲も良いので紹介します。
RM,SUGA – All Night ft.Juice World
悔しくも亡くなってしまったイリノイ州シカゴ出身のラッパーJuice Worldとのコラボ曲。BTSの曲の中で筆者が一番好きな曲かもしれません。
J HOPE – Base Line
J HOPEのソロミックステープ『Hope World』に収録された一曲。『Hope World』はKYLE、Aminé、Joey Bada$$に影響を受けたのだそうです。
関連記事:Joey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)とは / ブルックリンの秀才が歩んできた道
BTSのプロデューサーの一人Pdoggの存在が大きい
韓国のヒップホップジャーナリストであるキム・ボンヒョン氏は、BTSのプロデューサーの一人であるPdoggが「長年のヒップホップファンである」ということを語っています。
キム・ボンヒョン「Pdoggはプロデューサーである以前に、すごいヒップホップマニアです。Pdoggと話せば、80~90年代のアメリカのヒップホップについてかなり広く深く理解していると、すぐにわかります。」BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか
KBSテレビで放送の番組『不朽の名作』にて、最年長メンバーのジンはPdoggについて「デビュー前、何も知らなかった僕らにヒップホップの歴史を教えてくれたり」と語っています。
Pdogg自身も、BTSがヒップホップに馴染み深くなってもらえるよう環境づくりをしてきたと言います。
Pdogg「ヒップホップをよく理解しているメンバーもいれば、そうでないメンバーもいたので、まずは身体と耳で自然にヒップホップに慣れるようなレッスンをしました。押しつけや丸暗記ではなく、自分から好きになれるような雰囲気作りをしました。また、昔のヒップホップから新しいヒップホップまで聴きながら、一緒に話し合う時間も設けました。」TONGUE TECHNOLOGY
Pdoggはオールドスクールヒップホップを解釈した上で、音楽シーンのトレンドを加え、BTSのオリジナリティを高めていきました。
Pdoggがプロデュースした、BTSの「Go Go」は、当時の流行サウンドを取り入れている顕著な例だと言われています。
筆者がこの曲に近いエッセンスとしてパッと浮かんだのは、Cardi B, Bad Bunny & J Balvinの2018年の「I Like It」。(エド・シーランの曲「Shape of You」の雰囲気に近いという声もあるようです)
Pdoggは、BTSの音楽のベースにあるものがヒップホップであるのと同時に、彼らの音楽をグローバルスタンダードに合わせることを念頭に置いているそうです。
「BTSの音楽のベースは、ヒップホップだ。だが、時間が経つにつれ自然にポップスへと境界を広げていった。 BTSの音楽をつくる基準は「グローバルスタンダード」に合わせること。韓国のグループだからといって韓国的な要素を強調しようとせず、逆にアメリカ人が好むことをわざと取り入れようともしなかった。時代や世界の普遍的な基準がどこへ向かっているのか。それをつねにキャッチしようとしていたんだ。」BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか
デビューして間も無く、本場ロサンゼルスでヒップホップを学ぶ企画を経験
2014年には、アメリカで武者修行するリアリティ番組『防弾少年団のアメリカンハッスルライフ』がMnet(韓国のケーブルテレビ)で放送されました。デビューから間もないBTSが、ヒップホップの大御所であるクーリオやウォーレン・Gなどから、ヒップホップについて学びを得る経験をしています。
クーリオからはヒップホップの基礎知識を叩き込まれる
Coolio(クーリオ)はカリフォルニア州コンプトン出身。名曲「Gangsta’s Paradise」ではグラミー賞も受賞したレジェンドラッパーです。
BTSはクーリオから「ヒップホップの基礎知識」と題して、以下の3つの問題を出されました。
- 2ライブ・クルーに関して起きた事件は?歴史、政治、音楽産業に与えた影響は?
- 地声でラップをした最初のラッパーは誰か?
- パブリック・エナミーの音楽は何から影響を受けたか?どこから音楽的なアイデアを得たか?
それぞれの回答は以下の通り。
- 「未成年に不適切(Parental Advisory / ペアレンタルアドバイザリー)」という警告シールがCDに貼られた
- ラキム
- ブラックパンサー
クーリオはこの3つの質問に対して以下のように語りました。
「この質問の意図だが、3つの質問はヒップホップだけでなく、音楽産業全体にとっても重要だからだ」防弾少年団のアメリカンハッスルライフ
以下では問題の解説を交えて「BTSが何を勉強したのか」を深掘りしていきます。
Q1 解説:「未成年に不適切」という警告シールがCDに貼られた
2ライブ・クルーとは、80年代後半から90年代にかけて活動していた、フロリダ州マイアミをベースとするヒップホップクルー。今日のヒップホップ作品のジャケットによく見られるラベル、「Parental Advisory(ペアレンタルアドバイザリー)」が貼られた最初のアルバムが2ライブ・クルーの作品でした。(騒動の発端の楽曲はプリンスの「ダーリン・ニッキー」だそう)
2ライブ・クルーの楽曲の内容は下ネタが多く「未成年に不適切」ということで物議を醸していたそう。当時の副大統領夫人であるティッパー・ゴアは、RIAA(全米レコード協会)へ指示を出し、「親への警告」という意味を持つ「Parental Advisory」ラベルが貼るよう求めたそうです。
このラベルがついた作品はウォルマートなど一部の小売店で発売禁止とされ、多くのアーティストは「ペアレンタルアドバイザリーラベルは売り上げを落とす」と懸念しました。
ところが、禁止されるほど欲しくなるのが人間の性でもあります。また、「反体制的なメッセージに惹かれる」などの要因もあって、逆にマーケティングツールとして自らラベルを貼るアーティストも出現。
結果としてラベルの効果はティッパー・ゴアの意図しない方向(ラベルをつけた方がアーティストブランディングに繋がる)へと働きました。
Q2 解説:最初に地声で歌ったのはラキム
Rakim(ラキム)は、ニューヨーク州ロングアイランドのワイアンダンチ出身。ヒップホップデュオ「エリック・B&ラキム」の片割れとしても有名で、「史上最も偉大なラッパー」とも言われている人物です。
ラキムはラップにおける「リリックスタイル(歌詞の内容)」や「フロー(ラップの流れ・歌い回し)」など、ラップの進歩と発展に大きな影響を与えた人物だと言われています。
ラキムが活動を開始した80年代の中ごろ、多くのラッパーは同じタイプの韻律とフローでラップしていました。ところがラキムは、それまでになかった流れるような独特のフローや、奥深い歌詞を披露。それに人々は魅了され、後につづく多くのラッパーたちにも影響を与えました。
彼のラップフローを「レイドバックフロー(きっちりしたリズムではなくゆったりとした歌い回し)」と表現する人も。
『アメリカンハッスルライフ』を見た方は、「初めて地声でラップしたのはラキム」という字幕に「??」となった方もいると思います。これは先述した「レイドバックなフロー」についてのことなのかなと思います。
とにもかくにも、「ラキムはヒップホップシーン(音楽シーン)において大きな変化をもたらした重要人物だ」というのを説明したかったのだと思います。
Q3 解説:パブリック・エナミーの音楽に影響を与えたのはブラックパンサー
Public Enemy(パブリック・エナミー)はニューヨークのロングアイランド出身のヒップホップグループ。人種差別やアメリカメディアに対してなどの、社会的・政治的メッセージを多く発信したことで有名で、特に80年代後半から90年代前半にかけて注目されたグループです。
彼らは、60年代のブラック・パワー・グループ、特にブラック・パンサーをイメージの中心に据えていた。パブリック・エナミーのバックダンサーは、パンサーズの伝統的な服装にインスパイアされた衣装を身にまとっていた。BLACK PAST
「ブラックパンサー党」は1966年に黒人の人権を守るために結成された組織です。人種差別による暴力行為や、差別による困窮などを軽減するべく活動し、貧困地域への食糧の無料配布や、医療の提供なども行っていました。
ブラックパンサー党が行った運動は、白人優位の痛烈な現状をどうにか変えようとした大きなムーブメントとして歴史に刻まれています。
詳しく知りたい方は、こちらの動画も参考になるので見てみてください。
実際にパブリック・エナミーは、ヒット曲「Fight The Power」で「権力と戦え」と声高にラップしています。
「Fight The Power」は、2020年に熱を帯びたブラックライブスマター運動(黒人への人種差別抗議運動)にもリンクする、社会的意義のある重要な楽曲です。
BTSも2022年5月31日にホワイトハウスを訪れ「人種差別やヘイトクライム(憎悪犯罪)に歯止めをかけたい」と声を上げました。
人種の社会問題に真摯に取り組まなければならないと感じているのがわかりますし、クーリオからの学びが生かされているのかもしれません。
ウォーレン・Gから音楽制作で重要なマインドを学ぶ
ウォーレン・Gは、カリフォルニア州ロングビーチ出身。ネイト・ドッグとスヌープ・ドッグとともに活躍したグループ213での活動や、義兄のドクター・ドレーとのコラボレーションなどで有名な、アメリカ西海岸を代表する伝説的なヒップホップアーティストです。
ロサンゼルスでウォーレン・Gと会ったBTSは、ウォーレン・Gに地元のさまざまな場所を案内されたあと、とあるミッションを出されます。
ウォーレン・G「俺の曲 “Regulate” の歌詞を書き直すんだ」防弾少年団のアメリカンハッスルライフ
各自の人生を振り返って、それぞれの「Regulate[*1]」を作り上げるというミッションです。ウォーレン・Gは、「自分について語ることで、本当の自分をさらけ出せる」と語ります。
ウォーレン・Gの大ヒット曲であり、90年代のヒップホップの代表曲です。ビルボードのシングルチャートでは2位を記録したこの曲は、LAのロングビーチで起こったある晩のことを描いた曲で、「Regulate(規制する)=目を光らせるぜ」という意味を持つ。
BTSの7人はそれぞれ、以下のような悩みや葛藤をめぐらせ、歌詞に落とし込む作業を行いました。
- ジン:役者上がりで、畑違いだった自分がヒップホップを表現できるのかという葛藤。
- J HOPE:チームを組んだ頃は自分だけがダンサー(周りにはラッパーしかいなかった)で、疎外感を感じていたことや、そこからラップに真剣に打ち込もうと考えたこと。
- ジミン:自分がまだ具体的に何がしたいのかわからないこと。他人の目を気にしてしまうこと。
- RM:ジミンと共通点があると感じていて、他人の目を気にせず生きたいという悩み。
- ジョングク:釜山にいる時は自信に溢れていたが、ソウルでは周りに圧倒され、井の中の蛙だと感じてしまったこと。
- V:父親がこの道へ進むことを後押ししてくれたこと。父への感謝。
- SUGA:ヒップホップアイドルは「所詮事務所が企画したアイドルだ」と見られそうなことや、実際そう思われていることへの劣等感。やりたい音楽をやるのか、求められる音楽をやるのかという葛藤。
Vは「自分の話を音楽にするなんてはじめての経験だ」と語り、リリックに携わってこなかったメンバーも音楽に対して真剣に向き合う姿が映し出されました。
またウォーレン・Gの元では、他にもミュージックビデオを作る企画があり、BTSは彼から作品制作におけるさまざまなことを学んでいます。
RMはその後のインタビューで、ウォーレン・Gからヒップホップにおける大切なマインドを教わったことを語っています。
RM:「ウォーレンGに言われたことで忘れられないことが2つあるんです。ひとつは、ヒップホップはどんな人にも開かれていること。人種がどうであれ、出身地がどこであれ、ヒップホップは、ヒップホップを楽しむ人のために、いつでもスペースを用意してくれる音楽なんだ。だから、偏見で自分を縛らないこと。もうひとつは、君はうまくいっているのだから、他の人がなんと言おうと、自分を信じてやりたいことをやること。」BANGTAN tumbler
「ヒップホップ×アイドル」という葛藤と苦難の物語
元々は「ヒップホップアイドル」としてデビューしたBTS。「”ヒップホップ”と”アイドル”には矛盾したアイデンティティがある」と、ヒップホップジャーナリストのキム・ボンヒョン氏は語ります。
アイドルには、「サービス」や「戦略的にうまくつくられた商品」というイメージ (という本質) があります。たいして、ヒップホップのスタイルや感情は「ストリートカルチャー」や「反骨精神」に根ざしたもの。両者は衝突せざるを得ません。BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか
BTSはこの矛盾と戦いながら成長してきた歴史があります。
自らの想いを自らの声で発信した珍しいアイドルだった
BTSはK-POPアイドルという側面を持ちながらも、K-POPのスタンダードなアイドルシステム(事務所によって企画・プロデュースされたもの)とは違った、主体的な要素の強いグループと言われています。
他のグループとは異なり、BTSのメンバーは最初から曲を書いていて、何を書くか自分たちで決めていた。また、韓国の芸能界では敬遠されがちな方言で歌うトラックや、イントロ、アウトロ、スキットなど、伝統的なヒップホップの構造を踏襲し、不人気でも他のグループとは違うものを作ろうという姿勢で、ほぼすべてのレコードに参加していました。Rolling Stone India
『アメリカンハッスルライフ』でのウォーレン・Gのミッションのように、メンバー自らが楽曲制作に携わることで、ヒップホップミュージックの特徴の一つである「主体性」がBTSにはあったと言われています。
また、ある黒人のBTSファンの女性は、BTSについてこう語ります。
「私はもともとフィラデルフィアで育ちました。だから、オールドスクールヒップホップをたくさん聴いてきたわ。それらは本当に重要なことを話していた。社会的な問題、コミュニティにおける暴力、成長することの難しさなどよ。彼らとの間には類似点があると思う。というのは、彼らはデビューしたころから、社会的な問題や成長の仕方について話していたからよ。」防弾少年団 (BTS)とK-POPの未来~明見萬里
BTSはマネージメントされた「作られたもの」よりも、「自らの考えをストレートに表現すること」に比重を置く楽曲が多いです。それゆえ、アイドルでありながらも「ヒップホップ的なマインドや共通点を感じる」という意見や考察がいくつもあります。
(※あくまで「マネージメントされたものが良くない」などの是非を問うものではないことをご了承ください)
Pdogg「BTSの仲間たちも、夜遅くまでスケジュールをこなした後、スタジオに入って朝まで音楽制作をしています。誰かに命令されたわけでもない。本当に音楽が好きだから、積極的にできるんでしょうね。」TONGUE TECHNOLOGY
ヒップホップコミュニティから受けた批判の声
「ヒップホップ」と「アイドル」は相反するものというのは先述の通り。一部ヒップホップのシーンからはBTSへの批判の声も上がりました。
キム・ボンヒョン「BTSはヒップホップアイドルを標榜してデビューしたため、ヒップホップファンたちにさんざん叩かれました。正統派ではないため、とくにきつい批判が飛んだのだと思います。スモーキーなメイクや、 完璧にアレンジされた群舞などに非難が集中しました。「どうして男が化粧をするんだ?」「なぜラッパーが踊るんだ?」と。」BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか
事実、2013年の『キム・ボンヒョンのヒップホップ招待席』というポッドキャスト番組では、RMとSUGAが同席したラッパーに批判を受けるハプニングがあったことも有名です。
おそらく『キム・ボンヒョンのヒップホップ招待席』でのハプニングは氷山の一角で、当時彼らへの否定的なコメントは沢山あったと思います。世間に広がる「アイドル」のイメージと、「ヒップホップとはかくあるべし」のネガティブなギャップがいかに大きかったかを物語っていますね。
BTSはこれらの批判を受け、楽曲「We On」や「Cipherシリーズ」で、ヘイターへの怒りや「自分達の音楽に偽りはない」ことを音楽で表現しました。
BTSが持つヒップホップマインド
ヒップホップミュージックは「自身の生い立ち」や「置かれている現状・苦難に対する想い」「ここまで成り上がってきた」というサクセスストーリーなどが顕著に表れる音楽ジャンルだと思います。
ラップの「ボロボロから金持ちになる物語」と「ポジティブな視覚的イメージ」がカタルシスの作用であり、「自由になる手段(と希望のメッセージ)」であると指摘しているが、まさにその通りである。VICE
BTSの作品を振り返ると、『学校三部作[*2]』で、批判と戦いながら自分達の価値を証明する姿を描き、『青春三部作[*3]』では、成功とそれに伴う不安との葛藤を描きました。
『Love Yourselfシリーズ[*4]』で「自身を愛すること」を内省し、外側へと向いていた若い牙は、成長とともに内省へと変化しました。
他のアイドルにももちろんサクセスストーリーはあると思いますが、BTSはそのストーリーを「音楽に落とし込んだ」部分に、ヒップホップ特有のマインドがあるのかなと感じました。
ローリングストーンインディア誌は、BTSの成長を「主流のリリカルヒップホップ」に似ていると述べています。
BTSが年齢を重ねるにつれ、彼らの視点は外在化から内在化へと変化し、それは主流のリリカルヒップホップに非常によく見られることです。Rolling Stone India
自身のメンタルヘルスについて歌ったラッパーのキッド・カディや、アルバム『4:44』でパーソナルな部分をラップしたジェイ・Z。孤独や不安を表現する「エモラップ」などの流れとも似ている部分があるのかもしれませんね。
『2 Cool 4 Skool(2013)』『O!RUL8,2?(2013)』『Skool Luv Affair(2014)』の3作品こと。競争社会における抑圧への不満、ヘイターへの反抗・自己肯定、夢などを10代の目線から歌っています。
『花様年華 pt.1(2015年)』『花様年華 pt.2(2015年)』『花様年華 Young Forever(2016年)』の3作品のこと。成長の中で感じる苦悩・葛藤を描いています。また、MV、ショートフィルム、小説などで緻密に物語が展開されているのも見どころ。この3作品の後『WINGS』という「誘惑」をテーマにした作品もリリースされています。
シングル「LOVE YOURSELF 起 ‘Wonder’」とアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her'(2017)』『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear'(2018)』『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer'(2018)』の4作品からなるシリーズ。起承転結があり「自信を愛することから始まる」というテーマを持った作品集です。
最後に
BTSとヒップホップの関係についてをお送りしました。BTSがシーンから受けた批判について色々考えてみると、「そもそも何をもってヒップホップとするのか?」という部分が極めて難しいなと感じました。
その問いは、多くの非難を受けた彼らが最も自問自答したはず。
僕の中では腑に落ちたのは、RMが2015年のインタビューで「ヒップホップを定義することは、愛を定義しようとするのと同じこと。」という回答でした。以下引用です。
RM:ヒップホップを定義することは、愛を定義しようとするのと同じことです。世界に60億人いたら、60億通りの愛の定義があるように、ヒップホップの定義も人それぞれです。もちろん、辞書的な定義をすることは可能です。1970年、サウスブロンクスにDJハークという人がいた。彼が主催するパーティーで、ビートに合わせてブレイクを入れ、そのブレイクの間に誰かがラップをし、誰かが踊り、誰かがグラフィティをする…そうやって生まれたのがヒップホップで、それをヒップホップの4要素と呼んでいますが、こういう辞書的な定義は誰でも知っていることですが、その精神を説明すると…一言では説明できないものなんです。自分を表現する手段であり、自由や反抗の意味もある。人が遊んで楽しむものだから、平和や愛のメッセージも込められる。ポケモンに例えるなら、「同人」のようなものです。個人的には、私にとってのヒップホップは世界です。自分が生きている世界……難しいですよね。正直、自分もまだ難しいです。BANGTAN tumbler
文化の定義とは、得てして簡単なものではないことが容易にわかりますが、改めて「難しい」と表現している部分からは、彼らがヒップホップを簡単に捉えている訳ではなく、敬意を持って向き合っているように感じました。
最後に、この記事を書くきっかけとなった書籍『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』がめちゃめちゃ面白いので、気になった方は是非!
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・『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』キム・ヨンデ(著)
・『BTSオン・ザ・ロード』ホン・ソクキョン(著)
・『BTSとARMY わたしたちは連帯する』イ・ジヘン(著)
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