Dinner Partyとは / ジャンルの隔たりを無くす新たな音楽の地平

「俺たちはその壁を取り払い、音楽についてより深く考えたいと思った。誰が何を知っているとか、もっと知っているとか、そんなことは関係ない。ただ、心に響くものを作りたかったんだ。」

音楽界の異才が集結したスーパーグループ、Dinner Party。Terrace Martin、Robert Glasper、Kamasi Washington、9th Wonderといった実力派ミュージシャンが集まり、ジャズやソウルの要素を取り入れながら、独創的なヒップホップサウンドを創造しています。

本記事では、彼らのプロフィールや代表楽曲を紹介し、アーティストの魅力を深く掘り下げていきます。

Dinner Party(ディナー・パーティ)プロフィール

名前 Dinner Party(ディナー・パーティ)
メンバー ・Robert Glasper(ロバート・グラスパー)
・Terrace Martin(テラス・マーティン)
・9th Wonder(ナインス・ワンダー)
・Kamasi Washington(カマシ・ワシントン)
主な作品 ・『Dinner Party』
・『Dinner Party: Dessert』
・『ENIGMATIC SOCIETY』

Dinner Partyはアメリカの音楽グループで、Terrace Martin、Robert Glasper、Kamasi Washington、9th Wonderといった実力派ミュージシャンが集結したプロジェクトです。ジャズとソウルの要素を取り入れつつ、ヒップホップを根幹に据えたサウンドが特徴的。

2020年7月10日にリリースされたセルフタイトル作品『Dinner Party』は、全米Billboardトップコンテンポラリージャズアルバムで1位、トップジャズアルバムで2位にランクインしたほか、続編のリミックス版はグラミー賞にもノミネート。シカゴ出身のミュージシャンPhoelixが参加したシングル「Freeze Tag」は、警察の横暴や人種差別を題材にした歌詞が話題となりました。

2023年4月14日には、続編アルバム『Enigmatic Society』がメジャープラットフォームでストリーミングリリースされ、LAで行われる世界最大規模の音楽フェスティバル「コーチェラフェスティバル」の出演も決定しました。

長年にわたる友情とコラボレーションによって生まれたこのスーパーグループは、それぞれが異なるジャンルで活躍してきた実力派ミュージシャンが集結したことで、独創的なヒップホップを展開し、新たな音楽シーンを切り開く才能として大きな注目を集めています。

グループの成り立ち

きっかけはグラスパーとマーティンが、2019年秋のR+R=NOW[*1]のロンドンツアー中に思いついた「新しいグループのアイデア」だったそうです。

というのも、ジャズとヒップホップの隔たりを無くすことを目指していたグラスパーは、前年のニューヨークのブルーノートで行われたJ・ディラトリビュートでその可能性を示したものの、「ビートを曲の中心に据えるのは新たな挑戦だった」と、その難しさについて思考していました。

「俺たちはその壁を取り払い、音楽についてより深く考えたいと思った。誰が何を知っているとか、もっと知っているとか、そんなことは関係ない。ただ、心に響くものを作りたかったんだ。」FADER

R+R=NOWのロンドンツアー終了後、マーティンは友人であり、過去に共同でErykah Baduをフィーチャーした「Afro Blue」のリミックスを手掛けたこともある9thに連絡。アイデアを送ってもらうように頼んだそうです。

その後、9thから送られたビートを受け取り、マーティンはロサンゼルスのスタジオで他のメンバーと一緒に曲作りを開始。彼らは時間をかけすぎず、多くを語らず、リラックスしながらも、良いバイブスの中で音楽に集中したそうです。

「俺のセッションでは様々な人たちが集まってるから、色んなバックグラウンドを持つ人たちが一緒に音楽を作っているんだ。だから、話し合って分解する時間はあまりない。進むべき方向性が見えたらすぐに進んでいく。9thが何かを送ってきたら、一回聴いて、すぐにその音楽を分解して新しいものを作り出す。俺たちはスタジオでよりステルス的に作業する。つまり、考えすぎずに感覚的にやるんだ。」FADER

マーティンは、9thから送られてきた音源を一度聞いてすぐにアレンジを始めるスタイルで、スタジオでの即興演奏はいつもよりもステルスで、考えすぎないスタンスでプロジェクトが進められました。

ちなみに、マーティン、ワシントン、グラスパーの3人は、以前からの繋がりがあったそうです。2017年には、マーティンが率いるThe Pollyseedsとして、コラボレーションアルバムも作っています。

マーティンとワシントンは高校が一緒。マーティンとグラスパーは16歳の時に一緒にジャズキャンプに参加。さらに、ワシントンとグラスパーは、以前ロサンゼルスのピアノバーで一緒に演奏したことがある仲だったとか。

結成されるべくして結成されたバックグラウンドを持つ4人だったわけですね。

*1.R+R=NOW

R+R=NOWは、ピアニストのロバート・グラスパー、シンセサイザーとボコーダーのテラス・マーティン、トランペッターのクリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュア、ベーシストのデリック・ホッジ、シンセサイザーとビートボックスのテイラー・マクフェリン、ドラマーのジャスティン・タイソンの6人によるジャズのスーパーグループ。アーティストの義務である「時代の反映」というニーナ・シモンの引用に触発されており、「R」は「Reflect(反映)」、「R」は「Respond(対応)」、「R」プラス「R」は「NOW(今)」を表している。

主な作品

『Dinner Party』


Apple Music

Dinner Partyプロジェクトの最初の作品。中心メンバーの4人によるサウンドに加え、シカゴのシンガーのPhoelixのヴォーカルを巧みに起用した7曲入りの作品です。

警察の横暴や人種差別を題材にした歌詞で注目を集めた「Freeze Tag」をはじめ、ジャズ、ソウル、ヒップホップが融合された楽曲が濃縮。新しい音楽性を、実力派ミュージシャンが大々的に発信した衝撃作です。

『Dinner Party: Dessert』


Apple Music

『Dinner Party』のリミックス作品で、『Dinner Party』に収録のトラックはそのままに、Buddy、Reuben Vincent、Malaya、Tank and the Bangas、Punch、Bilal、Herbie Hancock、Rapsody、Cordae、Snoop Dogg、Alex Isleyなどのアーティストがさらにフィーチャーされた作品です。

ジャズ界の巨匠から、西海岸ヒップホップのレジェンドまで、あまりに多様な実力のあるアーティストたちが参加したことで、さらにヒップホップとのネガティヴな隔たりを曖昧にしている印象です。

『ENIGMATIC SOCIETY』


Apple Music

2023年リリース、Dinner Partyの二作目。前作のヴォーカルラインを支えたシカゴのシンガーPhoelixのほか、Arin RayやAnt Clemonsなど、甘くスムースな質感を持つシンガーをフィーチャーしていす。

メンバー

Robert Glasper(ロバート・グラスパー)

テキサス州ヒューストン出身のジャズピアニスト/音楽家。メロウで調和的であり、絶妙なヒップホップのテイストを持つことで知られています。

ニュースクール大学で音楽を学び、2004年には、デビューアルバム「Mood」をリリース。以降、『Canvas』や『In My Element』など、数々のアルバムを発表しています。

2009年には、『Double Booked』をリリースし、その後、”Robert Glasper Experiment”という名前で知られるバンドでは『Black Radio』を発表。ジャズ、ヒップホップ、R&B、ロックンロールの境界線を感じさせないスタイルが注目を集めました。

2022年には『Black Radio III』をリリースし、”Billboard Jazz”と”Contemporary Jazz Albums”の両方で首位を獲得し、グラミー賞の「最優秀R&Bアルバム」を受賞しました。ジャズやヒップホップ以外にも多様なジャンルで活躍し、名門ジャズレーベル「Blue Note Records」に貢献してきたことで、音楽業界で高い評価を得ています。

『Black Radio III』

Terrace Martin(テラス・マーティン)

クレンショー地区出身のアーティスト/プロデューサー/マルチインストゥルメンタリスト。グラミー賞に3度ノミネートされた名ジャズミュージシャンであり、LAのプログレッシブヒップホップシーンの中心人物です。

彼は、Kendrick Lamar、Travis Scott、Snoop Dogg、Herbie Hancockなどのアーティストと共演し、多才なコラボレーターとしても活躍。

代表作には、R&B、ジャズ、ヒップホップを融合した『Locke High』、『Velvet Portraits』、Pollyseeds名義での『Sounds of Crenshaw, Vol. 1』などがあります。

また、ジャンルを横断するプログレッシブなレコードレーベル”Sounds of Crenshaw”を立ち上げ、2021年には、アルバム『Drones』を完成させました。

『Drones』

Kamasi Washington(カマシ・ワシントン)

ロサンゼルスを拠点とするサックス奏者/作曲家。2015年にリリースされた3枚組アルバム『The Epic』で、新しいジャズの未来を担うアーティストとして注目されました。

彼の音楽は、多様なジャンルの要素を取り入れた独創的なものであり、モーダル、ソウル、ジャズ、ファンク、ヒップホップ、エレクトロニックミュージックなどを融合させたものが特徴とされています。

13歳でサックスを始めて以降、様々な楽器を演奏。Snoop Dogg、John Legend、Run the Jewels、Kendrick Lamarなど多数のアーティストと共演し、自身のアルバムのリリースや他のバンドとの共同制作など、多岐にわたる音楽制作活動を行っています。

『The Epic』

9th Wonder(ナインス・ワンダー)

ノースカロライナ州ウィンストンセーラム出身のヒップホッププロデューサー/DJ。スムース&ソウルサンプルと太いベースラインが特徴のビートメイキングスタイルは、「ヒップホップの複数の時代を定義した」と言われるほどです。

これまでにはJay-Z、Nas、Beyonce、Erykah Badu、Mary J. Blige、Kendrick Lamarなどのヒップホップ・R&Bメインストリームポップアイコンのヒット曲も手掛けている他、2000年代にはPhonte、Big Poohらと共にヒップホップグループ”Little Brother”のメンバーとしても活躍しました。

近年では、自身のレーベル”Jamla Records”で次世代アーティストの才能も見出しており、ヒップホップ界の多様性と影響力を継続的に広げる役割を果たしています。

Dinner Party(ディナー・パーティ)のヒットソング

1. Freeze Tag (feat. Phoelix)

リリース:2020年6月25日
収録作品:『Dinner Party』

シカゴを拠点に活動するボーカリストPhoelix(フェリックス)がフィーチャーされた、EP『Dinner Party』のリード・シングル。ブラック・プロテスト・ミュージックの要素が入ったこの曲は、警察の暴力について歌です。

Lyric

Then they told me if I move, they gon’ shoot me dead
(動けば、撃つと言われた)
But I think I’m ‘bout to cut a rug (Cut a rug)
(でも、踊ってしまいそうだ)
I been waitin’ on the summer (Summer)
(夏を待っていた)
Soul lookin’ back and wonders
(魂が振り返って考えている)
“How we ‘posed to get from under?”
(どうやって逃げ出せばいいんだ?)

警察に手を上げるように命じられ、自分が間違って逮捕されたと感じたことや、走り続けるのに疲れ、愛を探しているという感情が表現されています。自分が踊り続けることで自由になるかもしれない(自分自身を解放する方法として、踊りを通じた表現や音楽による逃避を暗示)と感じているのが伺えます。

2. Sleepless Nights (feat. Phoelix)

リリース:2020年7月10日
収録作品:『Dinner Party』

EPの幕開けを飾る曲であり、こちらもPhoelixをフィーチャーしています。

Lyric

Cloudy days, sleepless nights
(曇った日々、眠れない夜)
I lay awake, tossin’, wonderin’ when we’ll get it right
(目を覚まして、もやもやしている。いつ正しい道を見つけられるか考えながら寝返りを打つ)
We’ve been down, for so long(長い間落ち込んでいたけど)
Know change been on the way, ain’t worried no more
(変化が近いって分かってもう心配しない)

と歌うこの曲は、長い間辛い思いをしていた中で、変化が近いことを知り、「もう心配しない」という気持ちを表現しているのが分かります。

続くポスト・コーラスでは前進し続けることが重要であるというメッセージも強調されていて、人生の試練に直面している人々への後押しにもなるような一曲です。

3. First Responders

リリース:2020年7月10日
収録作品:『Dinner Party』

Sylvia St. Jamesの「Ghetto Lament」をサンプリングしたインストゥルメンタル。インストながらに、EPでは一番時間の長いトラックであり、じっくりとDinner Partyのサウンドを楽しませてくれる曲です。

4. Love You Bad

リリース:2020年7月10日
収録作品:『Dinner Party』

もうこのEPでお馴染みの、Phoelixヴォーカルで「あなたをただ好きになりたい(好きになりたいんだ)」とシンプルに歌い上げる一曲です。

5. LUV U

リリース:2020年7月10日
収録作品:『Dinner Party』

タイトルの通り、愛する人への献身的な愛情を表現した一曲。

「I can feel your soul(君の魂が感じられる)」や、「I see us holding hands with family plans(家族の計画を立てながら手をつなぐ僕らが見える)」など、相手との内面・精神の深いつながりや、一緒に家族を築く未来のビジョンなど、誠実的で愛情深く、献身的な恋愛を表現している曲です。

6.Insane (ft. Ant Clemons)

リリース:2023年3月8日
収録作品:『ENIGMATIC SOCIETY』

Dinner Partyの2作品目『ENIGMATIC SOCIETY』に収録。ニュージャージー州ウィリングボロ出身のアメリカのシンガーソングライターAnt Clemons(アント・クレモンズ)をヴォーカルゲストに迎え、Mtumeの1983年の名曲「Juicy Fruit」という大ネタをサンプリングした一曲です。

Lyric

I let you drive
(君に運転させて)
Drive me insane
(僕を狂わせて)
I’m down for the ride
(一緒に乗ってるよ)
Drive me insane
(僕を狂わせて)

と歌うこの曲は、彼女に自分の感情や人生のコントロールを委ね、彼女の魅力に狂わされること、そしてそれを受け入れることを表現し得ているのが伺えます。

また、アメリカの人気TV番組「Jimmy Kimmel Live(ジミーキンメルライブ)」の出演も話題になっています。

最後に

以上、Dinner Partyについてお伝えしました。何度も「スーパーグループ」と言ってますが、本当にスーパーグループすぎて、二作品目が出たことには喜びしかありません。

特にロバートグラスパーのディラトリビュート作品にはだいぶ食らっていたので、この4人のプロジェクトは嬉しいし、それがヒップホップとの融合を図るものだったのも(実はこの記事を書く上でそれを知ったので、知れたことについても)嬉しいポイントでした。

今回はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。

おすすめ記事:最新R&Bを軸にしたプレイリスト「Take It Easy」Vol.32

おすすめ記事:2023年3月 / 今月のチェックマーク作品リスト

Reference

The FADER: Dinner Party – Terrace Martin, Kamasi Washington, Robert Glasper & 9th Wonder (Freeze Tag) Interview Profile
GRAMMY.com: Dinner Party (Robert Glasper, Terrace Martin, Kamasi Washington & 9th Wonder) Interview on 2022 Grammys Nomination for Best Progressive R&B Album

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