Princess Nokia(プリンセス・ノキア)とは / 創造的矛盾と多様性の女王

「私はすばらしいアートを創り、他の人々にインスピレーションを与えることに全力を尽くす。それが私にとってのすべて。それ以降のことは、神にお任せ。」

ニューヨーク出身、矛盾と多才さを併せ持つラッパー、Princess Nokia(プリンセス・ノキア)。作品ごとに異なりを見せる多面的なサウンドと個性的なラップで、幅広いジャンルを探求し、女性の力強さを訴えるアーティストです。

本記事では、彼女の生い立ちや音楽キャリア、ヒットソングを中心とした楽曲を深掘りし、紹介します。

Princess Nokia(プリンセス・ノキア)プロフィール

名前 Princess Nokia(プリンセス・ノキア)
本名 Destiny Nicole Frasqueri(デスティニー・ニコール・フラスケリ)
生年月日 1992年6月14日
出身 ニューヨーク
主な作品 ALBUM
・『Metallic Butterfly』(2014)
・『1992Deluxe』(2017)
・『Everything Sucks』(2020)
・『Everything Is Beautiful』(2020)
EP
・『I Love You but This Is Goodbye』(2023)
MIXTAPE
・『A Girl Cried Red』(2018)

Princess Nokia(プリンセス・ノキア)はニューヨーク出身の多才で矛盾に満ちたラッパー兼ソングライター。多面的なビジュアルと音楽で知られ、以前はDestiny(デスティニー)やWavy Spice(ウェイヴィー・スパイス)という名前でも活動していました。

リズミカルでエネルギッシュなサウンドと独自のラップスタイルは、女性の力強さと自己表現の重要性を訴え、リスナーに勇気と希望を与えています。

彼女の音楽キャリアは、2012年に発表したダンスフロアアンセム「Bitch I’m Posh」で始まり、ヴォーグなバップからヒップホップ、エモラップまで幅広いジャンルを探求。

2016年の『1999』もとより、翌年リリースのデラックス版ではビルボードのHeatseekers Albumsチャートで評価され、NME2017年のベストアルバムにも選ばれています。

2020年には対照的な2枚のアルバム「Everything Sucks」と「Everything is Beautiful」を同日にリリースし、創造的に矛盾したスタイルをさらに深めました。

彼女の曲は自身の経験やニューヨークのカルチャーに根差し、彼女の世界へと旅ができるものとなっており、その多様性とエネルギー溢れるパフォーマンスは、これからも音楽シーンで大きな影響を与え続けることを予感させます。

Princess Nokia(プリンセス・ノキア)ヒットソング

1. Tomboy

リリース:2016年4月1日
収録作品:『1992 (2016)』

スウェットの上にオーバーサイズシャツで、「小さなおっぱいとぽっこりお腹」というインパクトがあり親しみやすいフレーズで人々を魅了したPrincess Nokiaの人気曲です。

「私は自分の欠点すべてに恋をしてきた。私は自分の存在を、型にはまったものに対する大いなるファックユーだと思っている。確かに私はおっぱいが小さくて、お腹がぽっこり出ているけど、だからといって女神でなくなるわけでも、媚薬でなくなるわけでもない。」genius

一般的にネガティブなイメージを覆す曲であり、ボディ・イメージをありのままに出し、「美」の既成概念を考えさせられるような一曲です。

2. I Like Him

リリース:2020年2月26日
収録作品:『Everything Sucks (2020)』

ニューヨークのラップクルーPro EraのメンバーでもあるPowers Pleasantがプロデュースした楽曲で、RIAA(アメリカレコード協会)からゴールド認定を受けた曲です。

Lyric

[Chorus]
I like him, like him too
(彼が好き、彼も好き)
He my man, he my boo
(彼は私の男、彼は私の恋人)
He my type, he so cute
(彼は私のタイプ、彼はとてもかわいい)
I want him, and I want him too
(彼が欲しい、彼も欲しい)
I like him, like him too
(彼が好き、彼も好き)
He my man, he my boo
(彼は私の男、彼は私の恋人)
He my type, he so cute
(彼は私のタイプ、彼はとてもかわいい)
I want him, and I want him too
(彼が欲しい、彼も欲しい)

とサビで歌うこの曲は、歌い手の自信に満ち溢れた愛の自己表現や、選択の自由を強調する内容。彼女は自分が求める男性との関係を堂々と語り、一般的な社会的な女性像や期待から自由になることを求めているメッセージが感じられる曲です。

ちなみにミュージックビデオは、ネットフリックスのドラマ『ブラックミラー』のような世界観で、面白い作品となっているのも注目。誰とでも好きなことができる仮想世界の中での未来的なデートの様子を描いていて、歌の内容をテクニカルに表現しています。

3. Kitana

リリース:2016年9月1日
収録作品:『1992 (2016)』

「残虐格闘ゲーム」と呼ばれるバイオレンスな表現が特徴的なゲーム『モータルコンバット』の登場キャラクター、Kitanaをモチーフにした楽曲。コーラスで「キタナ」と「モータルコンバット」が連呼されているのが印象的です。

Lyric

[Chorus]
Kitana, Kitana, Kitana, Kitana
(キタナ、キタナ、キタナ、キタナ)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
Kitana, Kitana, Kitana, Kitana
(キタナ、キタナ、キタナ、キタナ)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
Mortal Kombat, I’ll see you mañana!
(モータルコンバット、明日会おう!)
I step in this bitch and I do what I want
(この場所に入ってきて、好きなことをやる)
I don’t give a damn and I don’t give a fuck
(まったく気にしないし、何もかも気にしない)
I step in this bitch and I do what I want
(この場所に入ってきて、好きなことをやる)
I don’t give a damn and I don’t give a fuck
(まったく気にしないし、何もかも気にしない)

セクシーな暗殺者として知られ、力強く忠義と愛に溢れたキャラクターKitanaを重ね合わせるように、自己主張と自己価値の重要性を強調しているのがうかがえる一曲です。

4. BRUJAS

リリース:2016年9月4日
収録作品:『1992 (2016)』

スペイン語で「魔女」を意味する言葉「BRUJAS」がタイトルとなっている曲。プエルトリコやヨルバの祖先[*1]への敬意を表しているのがうかがえ、Princess Nokiaのルーツが色濃く反映されているように思えます。

Lyric

[Verse 2]
I’m that Black a-Rican bruja straight out from the Yoruba
(私はヨルバ族から来た黒人とプエルトリコの魔女だ)
And my people come from Africa diaspora, Cuba
(そして私の人々はアフリカ系のディアスポラ、キューバから来ている)
And you mix that Arawak, that original people
(そしてあなたが混ぜるそのアラワク族、その原住民たち)
I’m that Black Native American, I vanquish all evil
(私はその黒人のネイティブアメリカン、私は全ての悪を打ち消す)
I’m that Black a-Rican bruja straight out from the Yoruba
(私はヨルバ族から来た黒人とプエルトリコの魔女だ)
And my ancestors Nigerian, my grandmas was brujas
(そして私の祖先はナイジェリア人で、私の祖母は魔女だった)
And I come from an island and it’s called Puerto Rico
(そして私は島から来て、それはプエルトリコと呼ばれている)
And it’s one of the smallest but it got the most people
(それは最も小さい一つだが、最も多くの人々が住んでいる)

特に上記の2バース目では、彼女がアフリカ系の祖先、カリブの先住民、ネイティブアメリカンの血を引き、プエルトリコ出身であることをまっすぐに表現。それらの要素が彼女のアイデンティティとなっていることを示しているのが、ここからも感じられます。

彼女が自身の祖先とその信仰への強い尊敬の念を示していると解釈できる一曲です。

*1 ヨルバの祖先

ヨルバとは、西アフリカのナイジェリア、ベナン、トーゴなどに居住する民族集団の一つ。ノキアの家族のルーツは、ヨルバ系宗教の一つである「レグラ・デ・オチャ(サンテリアとも呼ばれる信仰で、アフリカ・ナイジェリアおよびその周辺地域に発展したヨルバ語系文化を起源とする宗教であり、オリシャと呼ばれる神々を崇拝する)」にあります。

5. G.O.A.T.

リリース:2017年6月28日
収録作品:『1992 Deluxe (2017)』

プロジェクト『1992』で初めて発表した楽曲。不穏なサウンドに乗せ、自立、自己表現、自身を受け入れることなど、「自己」の部分の重要性を強調した一曲。リリックでもそれぞれの節が彼女の生活、価値観、自己像を反映しています。

「いつ書いたのか、書いたときに何をしていたのかはよく覚えていないね。でも、この曲の背景にあるインスピレーションは、自分のキャリアや人生における現実的なところから来ていることは覚えているわ。」genius

6. Bart Simpson

リリース:2016年9月1日
収録作品:『1992 (2016)』

彼女の子供時代を歌った曲。「Bart Simpson with the shits(トラブルメーカーのバート・シンプソンみたい)」と、コメディアニメ『ザ・シンプソンズ』のバート・シンプソンの態度の悪さを、自身の子供時代の行儀の悪さと重ね合わせて歌っています。

Lyric

[Verse 1]
Rotten apple to the core, damn, I been a fuck up
(腐ったリンゴのように、しまった、私は全くだめなやつだ)
Gettin’ picked for last in gym, I can’t even do a lay up
(体育では最後に選ばれる、レイアップすらできない)
Writing on my sneakers, being sneaky with my teachers
(スニーカーに書き込み、教師たちに対してずる賢く振る舞う)
Smokin’ weed under the bleachers, cuttin’ out and gluein’ pictures
(スタンドの下でウィードを吸う、写真を切り抜いて貼り付ける)
Carryin’ my CD player, suckin’ on a Now or Later
(CDプレイヤーを持ち歩き、Now or Laterキャンディーを舐める)
Sour Apple was the flavor, scribblin’ on doodle paper
(味はサワーアップル、落書き用の紙に書き散らす)
Tryin’ hard to pay attention but I have no real direction
(注意を払おうと頑張るけど、本当の方向性はない)
So I say, “yo, fuck this lesson,” spark the leaf, my back is stressin’
(だから、”この授業はくそだ”と言い、葉を燃やす、背中が疲労困憊)
Who I am and where I’m headed, cuttin’ school and actin’ crazy
(自分が誰で、どこへ向かっているのか、学校をサボり、おかしな行動をする)
Foster care done got me crazy, living with a crazy lady
(養護施設でおかしくなっちゃった、おかしな女性と暮らしている)
Every day I’m always late, puffin’ on a skimpy J
(毎日いつも遅刻して、少量のジョイントを吸う)
Staying in my grandma house, wasn’t even far away
(おばあちゃんの家に滞在、それさえ遠くにはなかった)
But I guess that’s what I do, makin’ life more difficult for me and you
(でも、私がやることはそれだ、私たちの生活をより困難にする)

単に「行儀の悪い曲」なんかではなく、自身の苦労を赤裸々に語っているように思える曲であり、彼女の幼少期の雰囲気がひしひしと伝わってくる歌でした。

7. Sugar Honey Iced Tea (S.H.I.T.)

リリース:2019年9月16日
収録作品:『Everything is Beautiful (2020)』

「Sugar Honey Iced Tea」=「shit」のアナグラム(言葉遊び)として、驚いたり困惑したりした時に使っているフレーズをタイトルにしている一曲。

自分や人に向けられた、何らかの憎悪的なものに対して歌っているように感じられる歌です。

「日記に詩を書いていて、自分に向けられたものについて考えていたんだ。だから、”別に気にすることでもないし、歌にしてみようかな “と思ったんだ。」genius

Lyric

[Verse 2]
I’m on the train throwing soup
(スープを投げて電車に乗っている)
The racist men making threats
(人種差別主義者の男たちが脅迫している)
I’m not a gangster, but I can tell you I love to throw hands
(ギャングスターじゃないけど、手を出すのが好きだと言える)
On racists, bigots and scum
(人種差別主義者、頑迷な人、下劣な人々に対して)
I don’t like drama, it’s dumb
(ドラマは好きじゃない、それは馬鹿げている)
I don’t be fightin’ no women
(私は女性とは戦わない)
I don’t be totin no guns
(私は銃を持って歩かない)
I hate domestic abusers
(家庭内暴力をふるう人を憎んでいる)
In fact, they all make me sick
(実際、彼ら全員が私を病気にする)

2バース目「スープを投げて電車に乗っている」の辺りは特に印象的で、これはニューヨークの電車で10代の黒人少年たちに人種差別的な中傷を浴びせた白人男性に対するノキアの反応を描いたものだそう。

他人への感受性、思いやり、謙虚さなどの奥深さも感じました。

8. Gemini

リリース:2020年2月26日
収録作品:『Everything is Beautiful (2020)』

「Gemini(双子座)」の特性と誇りを歌う曲です。これでもかと双子座であることを強調し、その性格的な特性や振る舞いについて詳述。双子座の特性として知識、適応性、多面性、自由を愛し、変化を恐れず、コミュニケーション力があることを示しています。

Lyric

I am Gemini, super fly, fly guy
(私はジェミニ、超かっこいい、飛ぶ男)
I am Gemini, two heads, one eye
(私はジェミニ、二つの頭、一つの目)
I am Gemini, like Pac, André, Lauryn
(私はジェミニ、Pac、André、Laurynのように)
And Kanye, Boy George, and Anne Frank
(そしてKanye、Boy George、Anne Frankのように)

有名な双子座の著名人(2upac、André 3000、Lauryn Hill、Kanye West、Boy George、Anne Frankなど)の名前をあげたり、

I am Gryffindor, but don’t move like snake(私はグリフィンドール、しかし蛇のようには動かない)

と、ハリー・ポッターの物語を引用し「正義感が強く、勇敢である」ことを示すグリフィンドール(ハリーポッターが所属する寮の一つ)のような特性持っていることを歌うなど、リリカルで奥深い部分が沢山あります。

これをいなたいブームバップで、クールに歌い上げてるところがまたカッコいいです。

Princess Nokia(プリンセス・ノキア)の生い立ち


ニューヨーク・ブロンクス育ち。両親はNuyorican(ヌヨリカン)[*2]で、ラテンの要素は彼女の大事なアイデンティティの一つだそうです。(スペイン、アイルランド、イタリアの一部の血も引いているのだとか)

子供の頃はさまざまな宗教に触れ、カトリックの学校に通ったり、ユダヤのキャンプに参加したりしていたそう。音楽の部分では、幼少期からヒップホップ好きであり、またベビーシッターがヘビーメタルを教えてくれるといった愛情深い家庭だったそうです。

母との別れとクィア・クラブシーンとの出会い


しかし、「親友のような存在」とまで語る、敬愛していた母親は10歳のときに他界。彼女を引き取った祖母もその後亡くなっており、16歳までの間、里親の家を転々として過ごすこととなります。最後にいた養護施設の養母からは虐待も受けていたそうです。

「写真の日だった、彼女は私をぶん殴ったんだ」VOGUE

「私は黒い目をしていた。10、11歳の私に化粧をさせたんだ」VOGUE

その後、3ドルとバッテリー75%の携帯電話だけを手に、ロウアー・イーストサイド(ニューヨーク市マンハッタン地域)の祖母(もう一人の祖母?)の元に逃げ出し、ロウアー・イーストサイドのクィア・クラブシーン[*3]に迎え入れられ、安らぎを見出したといいます。

「ニューヨークのクィア・フォークのナイトライフで育ったことで、自分自身と向き合うことができ、人と違うことを受け入れることができるようになったんだ」NME

16歳の頃にはパーティを主催したり、ゴーゴーダンスを踊っていたりしていた彼女。やがて曲も書き始め、アンダーグラウンド・ヒップホップシーンでも活動するようになったそうです。

*2 Nuyorican(ヌヨリカン)

「ヌヨリカン」は、主にプエルトリコ出身者やプエルトリコ系アメリカ人を指すスラングのこと。「New York Rican」の短縮形であり、プエルトリコからニューヨークに移住した人々を指す際に使用されるそうです。

*3 ロウアー・イーストサイドのクィア・クラブシーン

ニューヨーク市のマンハッタン地区に位置するロウアー・イーストサイド地域で発展しているクィア(LGBTQ+)コミュニティのクラブカルチャー。ニューヨークのLGBTQ+文化の重要な部分を占めており、バーやその他の施設は、コミュニティやアクティビズムにおいて重要な役割を果たしている場所と言われています。

Princess Nokiaが信仰する宗教/音楽に反映されたルーツ

記事前半、4曲目に紹介した「BRUJAS」の部分でも触れましたが、ノキアの家族のルーツは、ヨルバ系宗教の一つである「レグラ・デ・オチャ(サンテリアとも呼ばれる信仰で、アフリカ・ナイジェリアおよびその周辺地域に発展したヨルバ語系文化を起源とする宗教であり、オリシャと呼ばれる神々を崇拝する)」にあります。

「私の宗教的信念は生まれながらのもの。私はプエルトリコの女性で、家族のルーツはサンテリアとしても知られるレグラ・デ・オチャにある。私は西アフリカとタイノの祖先を敬い、神聖で神聖なものだと考えているわ。」FADER

「私とレグラ・デ・オチャとのつながりは、私の母と母の母を通してもたらされたものなんだ。」FADER

彼女は、先述した西アフリカ(ヨルバ系宗教の一つサンテリア信仰)のルーツと、タイノ(カリブ海地域の先住民族であるタイノ族=ノキアの血筋であるプエルトリコの歴史でもある)のルーツを尊重しており、楽曲にもその信念が反映されていたりするので、ここで触れておきます。

音楽キャリアのスタート

2010頃よりWavy Spiceの名前で活動を開始し、2012年に「Bitch, I’m Posh」をリリース。ハーレム出身のクール&ファッション愛好家女子たちのアンセムで注目を集め、5つのレコード契約の依頼も来たそうです。(すべて断ったそうですが)

2014年、現在まで続くステージネーム「Princess Nokia」として、デビュー・アルバム『Metallic Butterfly』をリリースしています。

「Princess Nokia」の名前の由来

ちなみに「Princess Nokia」という名前の由来は、オバマ政権により低所得者に配布されていた無料の携帯電話「Obama Phone(オバマフォン)」に由来しているそう。

オバマフォンには「Nokia」というシリーズのモデルがあり、それが名前のインスピレーションだそうです。

Princess Nokia(プリンセス・ノキア)を最も有名にした作品『1992』

2016年のミックステープ『1992』。翌年にリリースされたフルレングスアルバムであるデラックス版は、ビルボードのHeatseekers Albumsチャートで25位、NME2017年のベストアルバムにも選ばれています。

「私が1992[Deluxe](彼女のデビューアルバム)を書いた大きな理由は、周りのみんながすごいグラマラスで、どれだけ望んでも私にはそれが理解できないんだって思ったからなんだよ」GARAGE

「だから、私は単に世界に対して、大きなTシャツと逆キャップ、だらしないアフロとだらしないポニーテールで旅をして、とても汚いスニーカーを履いて、時々ニオって、同じ服を何度も何度も着て、メイクもしないし、ちょっとクレイジーでちょっと臭い感じに見えることも気にしないってことを示すつもりなんだ。これが私。私の醜さは美しさの盾だった。強くて、それを自分のものにして美しくすることができたから。それが”Tomboy”の由来だよ」GARAGE

一般的なコンプレックスの概念を覆す「Tomboy」、プエルトリコやヨルバの祖先へ敬意を表した「BRUJAS」など、当時の時点での彼女のアイデンティティの全てが詰まっている作品。

フェミニストであり、ヨルバのスピリチュアリストであり、アフロ・ラティーナであり、ニューヨーカーでもある多彩で多様なクリエイティビティがパッケージされています。

最後に

今回は彼女の作品全てを紹介するには至らなかったですが、彼女の音楽遷移には面白いものがあったので、まとめとして最後に記しておきたいと思います。

ニューヨーク・ボール・シーン(ニューヨーク市を中心に発展したLGBTQ+の地下カルチャーとダンスムーブメント)にインスパイアされたキャリア初期の『Posh』からスタートし、2016年頃彼女のルーツとアイデンティティ、多様性を深掘った『1992(&Delux)』で有名に。

2018年のミックステープ『A Girl Cried Red』オルタナティブ・ロック、ポップパンク、クラウドラップなどの要素が入ったエモサウンドを表現したと言われた作品をリリースし、2020年にヴィンテージライクなヒップホップやネオソウルを感じる『Everything Is Beautiful』と、ダークでアグレッシブな『Everything Sucks』というダブルリリースのアルバムで二面性を示していました。

最新作の『i love you but this is goodbye』ではさらに、サイバーポップ、ドリル、パンク、ヒップホップ、ダンスミュージックなどの多面的な音楽要素が盛り込まれているとされ、自身のルーツであるドラム、ベース、ジャングル、エレクトロニカへと逆行している部分もあるのだとか。

作品によって全っ然色が違うので、「多様性」という部分で、内面的にもサウンド的にも興味深いキャリアを歩んでるアーティストだなと思いました。

それでは今回はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。

Reference

Genius – Princess Nokia
Loud and Quiet – Princess Nokia: The personal achievements of Destiny Frasqueri
NME – Princess Nokia: “It’s not my fault”
Garage – Princess Nokia: The Multidimensional Artist
Vogue – The Princess Reigns
Vibe – Viva – Princess Nokia Talks Santeria
Playboy – Princess Nokia
The Fader – Women, Religion, Fashion, Faith
Music Musings and Such – Track Review: Princess Nokia – “Sugar Honey Iced Tea (S.H.I.T.)”
The Guardian – The resilience of Princess Nokia
Billboard – Princess Nokia on her latest album and why it’s time for her to move on
YouTube – Princess Nokia – I Like Him

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