JIDの「Surround Sound 」PART1を考察&解説 / ストリートライフと音楽的成功の物語
ジョージア州アトランタ出身のラッパーJID(ジェー・アイ・ディー)と、同じくアトランタを拠点に活動するラッパー、21 Savage(21サヴェージ)、ジョージア州ディケーター出身のラッパー/シンガーのBaby Tate(ベイビー・テイト)をフィーチャーした楽曲「Surround Sound 」。
JIDの3枚目のスタジオ・アルバム『The Forever Story』からのリード・シングルとして、2022年1月14日にリリースされたこの曲は、TikTokのトレンドに乗り、ビルボードホット100にもチャートインしています。
本曲は1トラックでPART1と2に分かれていますが、今回はPART1にスポットライトを当て、歌詞や和訳を用いながら曲の内容を考察&解説していきます。
(※本記事は筆者の感想文が含まれます。あくまで考察としてお読みいただければと思います。)
JID Ft. 21 Savage & Baby Tateの「Surround Sound 」PART1のリリックを深読みする
この曲は、JID Ft. 21 Savage & Baby Tateの「Surround Sound」PART1では、JID、21 Savage、Baby Tate(アウトロ)に分かれ、各アーティストが自身の経験・生き方・現在の地位などを表現しています。
イントロ:Aretha Franklin sampling
I know I can’t afford to stop for one moment
That it’s too soon to for—
(ちょっとした休憩も許されないことを知ってる。それはまだ早すぎるから—)
イントロ部分は、伝説的シンガーソングライター、Aretha Franklin(アレサ・フランクリン)の「One Step Ahead」をサンプリング。ちなみにMos Def(Yasiin Bey)の1999年の曲「Ms. Fat Booty」でもお馴染みのネタです。
コーラス:JID / ストリートライフと音楽業界での彼の成長
Push the fuckin’ pack off of the porch or break a pound down
(ベランダからそのパックを運び出すか、一ポンドを分けるか)
Get this strap, if it happen to blow, it make surround sounds
(この銃を手に入れろ、もし使うことになったら周囲に響き渡る音を立てる)
Pussycat on my lap, push it back and go to town down
(膝の上の女の子を押し退けて、町へと向かう)
Puttin’ rap on my back, and I’m black and snatchin’ crowns
(ラップを背負い、黒人として王冠を奪い取る)
このコーラスは、ストリートライフの現実、生き残るための自己防衛、音楽業界における地位の確立や成功への責任感を歌っています。激しいストリートでの生活や、異性への欲望を抑えつつ音楽で上り詰めようという、強い向上心を感じれる部分です。
解説1:ドラッグの取引現場を描写
Push the fuckin’ pack off of the porch or break a pound down
(ベランダからそのパックを運び出すか、一ポンドを分けるか)
「pack」はドラッグのパッケージを意味し、「ベランダ(porch)」はドラッグの取引がよく行われる場所を指しているようです。「一ポンドを分ける」というのは、ドラッグを小分けにして売ることを彷彿とさせます。
解説2:二つの聴かせ方で、二重の言葉遊びを展開
Get this strap, if it happen to blow, it make surround sounds
(この銃を手に入れろ、もし使うことになったら周囲に響き渡る音を立てる)
「strap」は銃のことを指すスラングで、もし銃が発砲されると「周囲に響き渡る音」を立てると言っています。
また、「surround」は、銃声が周囲に広がることと解釈できますが、「some round sounds(いくつかの丸い音)」とも聴き取れることから、二重の意味を持つ言葉遊びがあるのではないかとの考察もあるようです。
ヴァース1:JID / ストリートライフと成功を言葉巧みに歌う
I done came back around
(俺はまた戻ってきた)
Like a nigga sellin’ crack in pounds
(ポンド単位でクラックを売るやつみたいに)
I got a bag now, but it’s nothing to brag ’bout
(今は金を持ってるけど、自慢するほどのことじゃない)
Gun blast in the background (Doo-doo-doo, doo-doo-doo-doo)
(バックグラウンドで銃声が鳴り響く)
I’m a black man with the bloodhounds
(血を追う猟犬を連れた黒人だ)
MAC-10 makin’ love sounds
(MAC-10が愛の音を奏でる)
To a bad chick, she from Uptown
(悪い女に、彼女はアップタウン出身)
I’m from down South, not a loudmouth (Can’t you see?)
(俺はサウスから来た、口うるさいやつじゃない(分かるだろ?))
We can fuck around (Woah, shit, woah)
(俺たち付き合うこともできる)
Hit the music, baby, cut it down (Woah, shit, woah)
(音楽をかけて、ベイビー、音量を下げて)
Hit a doobie while you do me indubitably (Woah)
(君が俺を楽しませる間にジョイントを吸う、間違いなく)
I feel like I’ma bust now (Woah, shit, woah)
(気分はもう限界)
I feel like a bust down (Woah, shit, woah)
(まるで宝石で飾られたジュエリーのように)
When I shine bright, blind niggas is up now (Woah, shit, woah, shit)
(俺が輝く時、盲目のやつらも目を覚ます)
In the cut, big black truck, pack sacked up (Woah, shit, woah, shit)
(隠れて、大きな黒いトラックに、荷物を積んで)
You can pick it up now, nigga, fuck it, okay (Woah, shit, ow, okay, ayy)
(今それを取りに来い、くそ、いいだろ)
ヴァース1では、自身の成功を謙虚に述べつつ、南部出身の彼の性格や行動を描写。彼はマリファナを吸いながらリラックスし、自分自身を宝石で飾られた高級ジュエリーに喩えたりしています。
最後には、彼の以前の曲「Big Black Truck」を引用し、銃を持って行動する様子を表現。JIDのストリートでの生活や、音楽への情熱、彼の成長の姿などをラップしています。
解説1:売人に喩え、ストリートからの音楽的な成功を表現
I done came back around Like a nigga sellin’ crack in pounds
(俺はまた戻ってきた。ポンド単位でクラックを売るやつみたいに)
ここでの「pounds(ポンド)」という言葉は、クラック(ドラッグ)の価格を表す単位であると同時に、イギリスの通貨(ポンド)を指すことから、音楽をリリースすることで「ポンド(お金)」を得るという意味も含んでいるのではとも考察されています。
解説2:宝石に喩え、自身の価値の高さを表現
feel like a bust down
(まるで宝石で飾られたジュエリーのように)
When I shine bright
(俺が輝く時)
「bust down」とは、ダイヤモンドや宝石で豪華に装飾された時計やジュエリーを指すスラングだそう。そのため、「まるで宝石で飾られたジュエリーのように自分が輝いているとき」と解釈しています。
解説3:自身が参加した別の曲のラインを引用
In the cut, big black truck, pack sacked up You can pick it up now, nigga, fuck it, okay
(隠れた、大きな黒いトラックに、荷物を積んで。今それを取りに来い、くそ、いいだろ)
このラインは、JIDの別の曲「Big Black Truck」を参照しています。
ヴァース2 : 21 Savage / 生存のための戦いと金銭的な成功というテーマをラップ
Me and my money attached emotionally
(俺と俺の金は感情的に結びついている)
I get to clutchin’ if you get too close to me
(近づきすぎたら銃を手にする)
I’m at the top where I’m ‘posed to be
(俺はいるべき場所、頂上にいる)
Jumped in the game, niggas act like they coaching me
(ゲームに飛び込んだ、奴らは俺に指導するようなふりをしてる)
Four hundred racks ain’t shit but a show to me
(40万ドルなんて、ただの見せ物さ)
I’m on the road and I bet that your ho with me
(俺は道路上にいる、お前の女が俺と一緒にいると賭けてもいい)
When I’m in traffic, it’s always a pole wit’ me
(渋滞に巻き込まれた時、いつも銃が俺と一緒だ)
Pillsbury man, I keep dough with me (Can’t you see?)
(ピルズベリー男、いつも金を持ってる(分かるだろ?))
Hit from the back, she givin’ me slurp, and I ain’t even pull my pants down
(彼女は後ろからきて口でしてくれる、ズボンを下ろすまでもなく)
Jump in the box and slide to the other side, it’s always a man down
(ボックスに飛び込んで反対側に滑り込む、いつも誰かが倒れてる)
Draw down, hands in the air, nigga, make one move, get gunned down
(銃を構えろ、手を上げて、一歩間違えれば撃たれる)
Givin’ out smoke so long, they don’t even wanna talk no more, they just run now (Can’t you see?)
(長い間タバコを吸ってるから、もう話す気もなくなって、ただ逃げるだけ(分かるだろ?))
No locked doors, I serve with a chop
(鍵のかかっていないドア、マリファナを刻んで提供する)
Bitch got spent, she was hangin’ with a opp
(その女は使い果たされた、敵とつるんでたんだ)
We call him Mickey, he talk to the cops
(俺たちは彼をミッキーと呼ぶ、彼は警察と話す)
I was on Pinedale, glass in the sock
(俺はパインデールにいた、靴下にグラスを入れて)
Back in the day, I invest in the block
(昔、俺はブロック[地域]に投資してた)
Fast forward, now I’m investin’ in stocks
(早送りして、今は株に投資してる)
I put a drum on the Heckler & Koch
(ヘクラー&コッホにドラムをつける)
Don’t play ’cause I’m very invested in shots
(遊びじゃない、俺はショットにかなり投資してる)
21 Savageによるヴァース2では、彼の過去の生活、現在の成功、彼が直面する挑戦について語っています。
彼はお金との深い感情的な結びつきを表現し、危険が迫ると自己防衛のために武装することを示唆。また音楽キャリアの急速なスタートと他者の影響からの独立や、アトランタのストリートでの経験、経済的な成長や株式投資への進出についても触れています。
彼のラップはヒリッとるような「生存のための戦い」と「金銭的な成功」というテーマが見えてくるヴァースです。
解説1:食品会社のキャラに喩え、豊富な資金があることを表現
Pillsbury man, I keep dough with me (Can’t you see?)
(ピルズベリー男、いつも金を持ってる(分かるだろ?))
「dough」とはお金を指すスラングです。
自分の収入を「ピルズベリー・ドゥボーイ」というアメリカの食品会社ピルズベリー(Pillsbury)のマスコットキャラクターに例え、このキャラクターを代表する「ドゥ(生地)」を、スラングでお金を意味する「ドゥ(dough)」にかけています。
自分が多くのお金(ドゥ)を持っていることを表現し、巧みな言葉遊びをみせる部分です。
解説2:ボックスの意味と緊張感のある描写
Jump in the box and slide to the other side, it’s always a man down
(ボックスに飛び込んで反対側に滑り込む、いつも誰かが倒れてる)
「ボックス」とは、大型のカスタムリム(車輪の外側の縁部分)を取り付けるための人気車種、ボックス型シボレーと考えられています。ここでは、そんなシボレーに乗り「反対側(アトランタの西側)」へ侵入している描写が伺えました。
一つの考察としては、東側出身である21Savageが西側に進入することは、敵対的な地区のギャングや住民との間で緊張を引き起こす可能性があり、そんなストリートの緊張感を表現した部分なのかなと感じました。
解説3:反対派=ミッキーと呼ぶ
We call him Mickey, he talk to the cops
(俺たちは彼をミッキーと呼ぶ、彼は警察と話す)
ストリートのスラングでは、「ネズミ」や「ラット」という言葉はしばしば「密告者」や「裏切り者」を指す隠語として使用されます。ミッキーのモチーフがネズミであることから、ここでは反対派の人物を「ミッキー」と呼んでいます。
解説4:”ある地域”で”何か”を隠す
I was on Pinedale, glass in the sock
(俺はパインデールにいた、靴下にグラスを入れて)
「Pinedale(パインデール)」はアメリカ合衆国ワイオミング州サブレット郡の町として実在しますが、ここでその地域について言及したのかは不明。
また「glass(グラス)」は、覚醒剤を指すストリート用語である可能性があるそうですが、真意は不明で、靴下や隠し場所に武器を隠していることを指している可能性もあるとされています。
解説5:武器の描写から用意周到さを表現
Heckler & Koch(ヘッケラー&コッホ)はドイツの武器製造会社。大容量のマガジン(ドラム)を、この銃に装着していると述べています。
解説6:強硬な手段も辞さない
Don’t play ’cause I’m very invested in shots
(遊びじゃない、俺はショットにかなり投資してる)
「shots」に投資しているという文脈では、武装に多くの資源やエネルギーを費やしていることを醸し出しています。
「自分の安全と地位を守るために、必要なら強硬な手段も辞さない」という強い意志を感じとれる部分です。
アウトロ:Baby Tate / エロティックな彼女の魅力を表現
I put the pussycat in his face ’cause he stay off Cheshire Bridge
(彼の顔に女を押し付ける、なぜなら彼はチェシャー・ブリッジを離れているから)
Then I took it back, now he say that he shakin’ and he shiverin’
(それから取り返す、今彼は震えていると言ってる)
Like the way it taste and he ain’t ate it in a minute
(その味が好きで、しばらくそれを食べていない)
They call me Yung Baby, but I still got hella chi—
(彼らは私をヤング・ベイビーと呼ぶけど、私はまだたくさんの気を持っている—)
アウトロではBaby Tateが自身の魅力と影響力を強調し、彼女の行動が相手に及ぼす影響の大きさを表現。彼女の自己表現の、自立性や力強さを滑らかに歌います。
一行目の「チェシャー・ブリッジ」とはアトランタのバックヘッド地区にある通りで、この地域はビジネスや裕福な地域として知られているそう。
Baby Tateは、彼女のエロティックな魅力を彼(おそらくは恋愛対象の男性)に提供。彼はチェシャー・ブリッジという裕福なエリアから離れた場所にいるため、彼女の魅力を尚更感じている、という意味合いが込められているのではないかと思います。
また二行目「震えている」や、三行目は「その味が好きで、しばらくそれを食べていない」では、薬物の禁断症状のように相手が震えや寒気を示す様子を描写しつつ、彼女に対する強い欲求や依存を暗示しているように感じました。
全面的に艶のある魅力を押し出したアウトロです。
以上JID Ft. 21 Savage & Baby Tateの「Surround Sound 」PART1の考察&解説でした。