2021年のリリース作品を振り返る【HIPHOP編】

2021年も残りわずかとなりました。今年リリースされた作品の中から、気になった作品、個人的に追っかけたアルバムなどを振り返りたいと思います。今回はHIPHOP編。(後編はこちら

ベストアルバムレコメンドっていうよりも、「こんなものをチェックしてました」的な備忘録です。粛々とした紹介になりますが、ご覧頂けたら幸いです。

O2worldwide – 『BACK ON TRACK』


リリース:2021年2月17日

オクラホマシティの若手ミュージックコレクティブ、O2worldwideの3rdアルバムです。彼らについては記事にしてるので、詳しくはそちらを見て頂けたらと思います。

関連記事:オクラホマシティのホットなミュージックコレクティブ02worldwide

2月リリースですが、リアルタイムで発見した作品ではなく、3曲目の「RIDE TO THE RIDE」っていう曲を11月頃にたまたま発見したのがきっかけで発掘したアルバムです。

90sノスタルジーを現代に落とし込んでる感じがたまらないです。

Curren$y – 『Collection Agency』


リリース:2021年2月26日

ニューオーリンズのラッパーCurren$yの作品。『Collection Agency』は、11枚目のソロアルバムだそうです。

かなり多作なラッパーで「11枚目」というものの、ソロアルバムとしての11枚目で、コラボレーション作品を含めると通算90枚目のプロジェクトなのだそう(R)。それ故に中々追いきれないラッパーでもあります。カッコいいのですが(泣)

本作はジャケットから個人的にグッとくるものがあって、内容もかなり渋めな印象。ド頭から惹きつけられる作品でした。

Kota the Friend – 『To Kill A Sunrise』


リリース:2021年3月19日

ブルックリンのラッパーKota the Friendと、マサチューセッツ州ボストン地域出身のプロデューサーStatik Selektahのコラボ作品です。

2017年にラジオ番組で知り合ってから、2021年ついにコラボが実現したという本作。Kotaの作品の特徴でもあるローファイでジャジーな雰囲気とはまた一味違う作品です。

2010年代のJoey Bada$$作品を彷彿とさせる雰囲気もあって、最高でした。

Kota the Friendについては、以前記事でガッツリめにまとめたので合わせてご覧いただけたらと思います。

関連記事:ブルックリンのインディーラップアーティストKota the Friendとは

PRICE – 『F.O.E.S.』


リリース:2021年3月26日

カリフォルニア州インランドエンパイア出身のアメリカのヒップホップデュオAudio Pushの一人PRICEによる作品です。

2020年にはソロとして初のプロジェクト『CLRD.』をリリースしていたPRICE。『F.O.E.S.』はソロ第二幕の作品で、DJ Camper、Wyclef Jean、Hit-Boyなどのプロデューサー陣に加え、Vince Staples、Bino Rideaux、Algee Smith、Basなどのアーティストが参加しています。

Audio Push自体結構チェックしていたデュオだったので、ソロ作品も聴けて嬉しいですね。

Talib Kweli + Diamond D – 『Gotham』


リリース:2021年4月16日

Talib KweliとDiamond Dというレジェンド二人のジョイント作品。

この作品は彼らのホームグラウンドである、ニューヨークシティへのオマージュとしてリリースされたそう。「Gotham(ゴッサム)」は、バットマンに登場する架空都市「ゴッサム・シティ (Gotham City)」にかけられていて、ゴッサム・シティはニューヨークの異名として知られているのだそうです。

さすがのタッグなだけあって、渋ーい作品です!

J.Cole – 『The Off-Season』


リリース:2021年5月14日

ノースカロライナはファイエットビル出身のラッパー、Jコールの通算6枚目のアルバムです。

さすがはJコールなだけあって、ビルボード200チャートでは1位を獲得。6作品連続の全米1位を記録しています。

本作も記事にしているので、詳しく知りたい方はそちらをご覧いただければと思います!

関連記事:J Cole(Jコール)の最新アルバム『The Off-Season』に込められた意味とは

Evidence – 『Unlearning Vol.1』


リリース:2021年6月25日

LAはベニス出身のラッパー/プロデューサーEvidenceの作品。

自身のプロダクションに加えて、Alchemist、Nottz、Sebb Bash、Animoss、Mr.Green、V Don、Daringer、Krysis、EARDRUMなども参加。

全体的にファットかつ重力強め。フィーチャーアーティストのラップも、トラックとベストマッチばかりで引き込まれました。

Nas – King’s Disease II


リリース:2021年8月6日

Nasの13枚目のアルバム。第63回グラミー賞「最優秀ラップアルバム賞」を受賞した昨年のアルバム『King’s Disease』の続編となる作品です。(ちなみに本作は第65回グラミー賞「最優秀ラップ・アルバム賞」にノミネートされてます)

今作もHit Boyによるプロダクションがメインのプロジェクトで、彼らの相性の良さは今作でも評価されているようです。

米オンライン音楽データベースメディアAllMusicのレビューでは以下のように書かれています。

過去のビートや切ないノスタルジアに頼るのではなく、よりダークでよりムードがあり、より直接的である。Hit-Boyのビートは緊迫した雰囲気を醸し出しており、Nasのリリックがよりストーリー性のあるものになっているため、アルバムに映画のような雰囲気を与えている。AllMusic

確かに、様々なムードに彩られたトラックとNasのフローはかなり相性良く感じます。勉強不足と英語力不足で、彼のストーリーテリングをしっかり楽しめないのが個人的に残念なところです。

東西抗争を振り返る「Death Row East」や、初めてビートを共にするエミネムとのコラボ。あのローリン・ヒルがヴァースを担当した「Nobody」などなど、聴きごたえは間違いないです。

Common – 『A Beautiful Revolution(Pt.2)』


リリース:2021年9月10日

コモンの14枚目のアルバム。2020年のEP『A Beautiful Revolution Pt.1』に続く作品です。

「Black Lives Matter(人種差別抗議運動)」が浮き彫りになった近年。社会正義を音楽を通じて訴えるラッパーが、「Revolution=革命」というワードに焦点を置いたという本作。インタビューで語っていた、彼の「革命」の解釈は興味深いものでした。

「革命というと、以前は”反乱”のイメージが強かったんだけど、今では”革命”の定義がさらに広がったんだ。」GRAMMY

と語るコモンにとって”革命”という言葉はこれまで、「反乱」や「既存のシステムの打倒」という認識だったのだそう。しかし「革命とはそれ以上のものだった」と見識の広がりを語っています。

「僕のヒーローのひとりで、ブラックパンサーとしてキューバに亡命したアサタ・シャクールという女性が”革命とは愛であり、パートナーを大切にすることである”という言葉を残していた。」GRAMMY

「自分の中で、どうやってその変化が起きたのか?その変化を、身近な人や見知らぬ人たちにどうやって伝えていくか。それが、今の僕にとって革命を受け入れやすく、価値のあるものにしているんだ。それが今の僕の革命の定義だよ。」GRAMMY

革命の定義が深まった今、それを使命とするアルバムが本作『A Beautiful Revolution Pt.2』なのだそうです。

「今回の『A Beautiful Revolution Pt.2』では、それが使命だと思っているよ。愛とは何か?自己啓発とは何か?というエネルギーを発信していこうという意図だよ。自己啓発とは何か?喜びはどこにあるのか?困難な状況にあっても、どうやって自分自身に希望を持たせるのか?」GRAMMY

このコメントを読んでいるだけで、このアルバムにどれほどの力が備わっているかが伝わってきます。

AZ – 『Doe or Die II』


リリース:2021年9月10日

90年代、Nasのパートナー的存在としても知られた、ブルックリンのレジェンドAZの10枚目のアルバム。デビュー作『Doe or Die』から26年の時を経てリリースされた作品です。

このアルバムがなぜデビュー作『Doe or Die』に続く『Doe or Die II』なのかについては、以下のように語っています。

「僕が最初に登場したときからのAZの成長を示すものであり、僕にとってのサイクルを完成させるものだよ。最初に契約したとき、9枚のアルバムを契約するように言われたんだ。これには驚かされた。”くそー、最初の1枚もクリアできないよ”ってね」 REVOLT

10作品という節目にして、成熟した姿を見せるのと共に、デビュー当時からの暗号を完成させるような意味があるのだそうです。

プロデュース陣にはPete Rock(「Check Me Out」)やBuckwild(「Blow That Sh#%t」)などのレジェンドも名を連ねていて、彼の名曲「Gimme Yours(Prod.Pete Rock)」や「Ho Happy Jackie(Prod.Buckwild)」を知るものとしても嬉しい内容でした。

D Smoke – 『War & Wonders』


リリース:2021年9月24日

Netflixのコンペティション番組「リズム+フロー」の初代王者であり、デビューアルバムからグラミー賞の「最優秀新人賞」にノミネートもされたラッパーD Smokeのセカンド・アルバムです。

『War & Wonders』は、ここ数年間の厳しい世間の状況になぞらえて、D Smokeの人生においての戦い(イングルウッドで育った彼が、LAのギャングからタフに振る舞うことや、謙虚さを学ぶこと、愛や不公平との戦いなど)がテーマになっているのだそうです。

リリックやライミングをしっかり咀嚼できないのが悔しいところなのですが、サウンドも多様性に溢れている感じで、勢いが半端ないです。

彼は「リズム+フロー」王者として注目を集め、グラミー賞ノミネートアーティストにもなりましたが、そんな今も一教師として教壇に立っているそう。

コンシャス・ラッパー(社会派ラッパー)としての価値観に忠実というD Smoke。その理由の一つが、「光り輝く前の自分と一貫していたい」という想いから来ているそうです。(おそらく、教育・教養を与える者としての価値観や、自身の生い立ち・人生観からの学びが大切で、成功するミュージシャンになるためだけにやっていないっていう価値観)

そうゆう部分も含めて、好感持っちゃいますね。

Wale – 『Folarin II』


リリース:2021年10月22日

ワシントンD.C.出身のラッパーWaleの、2012年のミックステープ『Folarin』の続編となるプロジェクト。2021年になぜこの作品の続編をリリースすることになったのか、以下のように語っています。

パート1がリリースされたときは、僕のキャリアの中である一定の時代だったから、今回はその時代の締めくくりの章のような感じだよ。そのことに敬意を表して、今後は新しい章に進むことになるんだ。この作品はミックステープのようなエネルギーを持ってて、みんながよく知っている曲のサンプルを使っているよ。基本的には僕のデイリーファンのためにミックステープの精神で作られているんだ。Billboard

彼のキャリアの「ひとつの章」の締めくくりとなる作品のようですね。フリーで配信されるミックテープと違って、スタジオアルバムでサンプリングを使用するのって、権利の問題やらお金の問題やらで大変だって聞いたことがあります。そんな部分からも、ファンへのサービス精神が感じ取れる作品です。

ちなみにサンプリングにはMike Jonesの「Still Tippin’(Name Ring Bells)」、Faith Evansの「Caramel Kisses(Caramel)」、P. Diddyの「I Need a Girl Part 1(Angles)」などなど…(他にも多数)が使用されています。

Terrace Martin – 『DRONES』


リリース:2021年11月5日

LAのプロデューサー/アルトサックス奏者のTerrace Martinの作品。

ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』にも参加し、ロバート・グラスパーの「Black Radio」プロジェクトに参加し、「Dinner Party(9th Wonder、Kamasi Washington、Robert Glasper、Terrace Martinのカルテットグループ)」や「R+R=NOW(ロバートグラスパーが結成したスーパーグループ)」などのオールスター軍団にも所属する人物と言えばその凄さが分かると思います。

グラミー賞にもノミネートされた以前の作品『Velvet Portraits』はインストメインでしたが、今回はKendrick、Snoop、Kamasi、Glasper、Cordae、YG、Leon Bridgesなどの豪華ゲストがこれでもかってくらい参加しています。

もちろんトラックも最高。11月にリリースされたホットな作品なので、まだ未聴の方は是非聴いて欲しいと思います!

最後に

2021年リリースの13作品を紹介させて頂きました。

以前の作品の続編的なプロジェクトが多かったことなんかを考えると、アーティストにとっては何か区切りを付ける、節目となるタイミングの年だったのかなと感じました。依然として界隈でもコロナパンデミックの話題は尽きないですが、この情勢も影響してのことなのかもしれませんね。

次回はR&B編をお送りします!最後までお読み頂いた方、ありがとうございました。

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