2021年リリース作品を振り返る【R&B編】
2021年の締めくくりとして、前回「2021年のリリース作品を振り返る【HIPHOP編】」をお送りしました。
今回はR&B編と題して、2021年「こんなものをチェックしてましたよ」という作品達を8作品紹介。感想はほどほどに、作品に込められた想いや裏話などをお伝え出来たらと思います。
VanJess – 『Homegrown(&Deluxe)』
リリース:2021年2月5日(Deluxe:9月17日)
Ivana(イヴァンナ)とJessica(ジェシカ)の姉妹で構成される、ナイジェリア系アメリカ人のR&BデュオVanJess(ヴァンジェス)のEP。9月17日には、9曲から14曲に拡張されデラックス・エディションもリリースされています。
彼女たちのルーツであるナイジェリアの文化をアートカバーに取り入れ、「自分たちが何者か?」を色濃く表現した作品です。(ジェシカのiPhoneを使って自宅で撮ったそう)
「Homegrown」という名前については以下のように語っています。
J:元々は私たちの最初のプロジェクト『Silk Canvas』のタイトルになる予定だったの。当時の私たちは、音楽業界でアーティストとして認められず、苦労していたのよ。人々は私たちと一緒に仕事をしたがらなかったので、自分たちだけでやらなければならないことが沢山あって「Homegrown」は完璧なタイトルだったわ。これは、VanJessが自宅でレコーディングを始めたことを表す最適な表現なの。去年私たちは同じ環境に戻ってきた。ロックダウンや世界の状況を見て、私たちは自分たちの家で自分たちだけで創作や作曲をすることに戻ったの。まさに一周回ったわけね。BuzzFeed
元々自宅で、自主制作で始めた音楽活動をしていた彼女たちに最適な言葉が「Homegrown」だったわけですね。
今では名の知れたVanJessですが、パンデミックによってその環境が再び戻ってきたと。自分たちのルーツに立ち戻り、自宅でカバーアートを作ったのにも合点がいきます。
KAYTRANADA、Phoney Ppl、Devin Morrisonなど、参加アーティストも豪華。聴けば分かる心地よさなので、おすすめです。
関連記事:VanJess(ヴァンジェス)とは / ナイジェリアをルーツに持つR&B姉妹
Joyce Wrice – 『Overgrown』
リリース:2021年3月19日
カリフォルニア出身のシンガーJoyce Wriceのデビューアルバム。Janet JacksonやMary J Bligeとの仕事で知られるエグゼクティブプロデューサーD’Mileの手も加わった作品です。
シンガーのSirやプロデューサーのMndsgnと組んだEP『Stay Around』や、「Good Morning」などの楽曲でも知られる彼女の待望のアルバムですね。
アルバムのコンセプトは、彼女の内側にあった感情をアートにしたと語っています。
このアルバムを作ったとき特にテーマはなかったの。ただ私は片思いをしていて、そのことが頭から離れなかった。多くの曲はそのことと関係しているの。私はこのセッションを、私が経験した心痛、経験した楽しさ、混乱、その他のさまざまな感情から価値を生み出す機会にした。私はこれらのセッションを利用し、そこからアートを生み出したの。COLLiDE Media
このセッションは私が自分の庭を手入れして、最高の自分になるために必要なガーデニングをしているようなものなの。自分自身のために一歩を踏み出すことは、社会やコミュニティ全体のためにできる最高のことだと思うわ。私たち一人一人がそうすることができれば、どれほど美しいことでしょう。COLLiDE Media
自分の感情をアートにブラッシュアップすることで、自分の庭を手入れするような意味合いがあったそうです。「Overgrown(生い茂った)」というアルバム名にも納得。
参加アーティストも最高ですが、さすがはD’Mileワークス。恐るべしです。。
関連記事:Joyce Wrice(ジョイスライス) / 艶やかな歌声を持つ日系R&Bシンガー
Sinead Harnett – 『Ready Is Always Too Late』
リリース:2021年5月21日
イギリス出身、現在はLAを拠点にするシンガーSinead Harnett(シニード・ハーネット)の2ndアルバムです。
アルバムテーマには、彼女の成長を表す「準備している暇はない」という想いがあるそう。前作の『Lessons in Love』が「自己愛」に主軸を置いていたことに続いて、本作ではそれを手に入れた先を描いた「成熟」された作品です。
アルバムについてや、彼女について詳しく記事にしているので、気になる方はそちらをご覧いただければと思います。
関連記事:イギリス出身LA在住のシンガー「Sinead Harnett(シニード・ハーネット)」を紹介
冒頭でも紹介したVanjessも参加した「Stickin」は2020年ベストR&Bと言える程の名曲。そんな曲も含んだ作品なだけあって素晴らしかったです。
来年にはデラックス・エディションも出るそうなので乞うご期待です!
H.E.R. – 『Back of My Mind』
リリース:2021年6月18日
グラミー賞も受賞したLA出身のシンガーH.E.R.の待望のデビューアルバム。
「Back of My Mind(私の心の奥底)」と題された本作は、文字通り「心の奥底にある考えや感情を表す」というテーマがあります。本人曰く「私たちが現実を直視することを恐れて、口にすることができないような考えや感情・物事を歌った曲のコレクション」とも語っています。
また、「R&Bを祝福する作品を作ること」もテーマの一つで、時代やジャンルを問わず様々なR&Bの要素が詰まった作品です。作品については記事にしているので、こちらも合わせてご覧いただければと思います。
関連記事:H.E.R. / 匿名でデビューした若きR&Bアイコンの正体
関連記事:H.E.R.のデビューアルバム『Back of My Mind』に込められた意志
いやー、個人的に今年のベスト・オブ・ベスト作品でした。最高です。
dvsn – 『Cheers to the Best Memories』
リリース:2021年8月20日
カナダのR&BデュオDvsn(ディヴィジョン)と、LAのシンガーTy Dolla Sign(タイ・ダラー・サイン)のコラボアルバムです。
マイアミのパーティーで知り合ったというDvsnのダニエルとタイ・ダラー・サイン。お互いがお互いのファンだったことで意気投合し、共に作品を作る流れになったのだとか。
プロデューサーのNineteen85のトラックが素晴らしく、アルバムの幕開け(特に4曲目くらいまで)で完全に惹き込まれる作品でした。
Ty:「僕が影響を受けたのは、ダニエルとNineteen85だね。彼らは純粋で協力的なエネルギーに満ちていて。それをみんなで享受していたよ。僕たちの周りに居た人たちは、みんなエンジニアなんだ。」ThatGrapeJuice
dvsn:「Ty Dolla $ignやNineteen85と一緒の部屋にいて、インスピレーションを受けないというのはほとんど不可能なことだよ。」ThatGrapeJuice
エンジニア陣を始め、全てのアーティストがお互いを刺激し合い、相乗効果の生まれているアルバムだってことが分かりますね。
Jenevieve – 『Division』
リリース:2021年9月3日
マイアミ出身、LAを拠点に活動するシンガーJenevieve(ジェネビーブ)のデビューアルバム。彼女を有名にした楽曲「Baby Powder」や「Medallion」などを含む作品で、世間に頭角を現してからのJenevieveの全てが詰まっているとも言えるアルバムです。
その世間に姿を現したのは2020年初頭。以来、あの独特のエモさに虜になった方も多いはず。
本作はその期待を裏切らないものがあって、どっぷりとJenevieveワールドに入り込めます。まだ聴いてない方は是非チェックしてみて欲しいと思います。
関連記事:時代を超越するメロディアスなシンガーJenevieveを紹介
BeMyFiasco – 『Where I Left You』
リリース:2021年10月15日
テキサス州ダラス出身のシンガーソングライターBeMyFiasco(ビーマイフィアスコ)のデビューアルバム。ノースカロライナの伝説的ラップグループLittle Brotherのメンバーとしても有名なPhonte(フォンテ)と長年のコラボレーターでもある人物で、ヒップホップデュオのThe Foreign Exchangeに関連する匂いがプンプンするアーティストです。
ソロとしては初めてのフルレングス作品ですが、ロバート・グラスパーのマイルス・デイビスへのトリビュートLP『Everything is Beautiful』に収録の、9th Wonderプロデュース曲「Violets」で、フォンテの横でボーカルフィーチャーしていたり、Little Brotherのアルバムに携わっていたり、エリカ・バドゥのバンド「RC & the Gritz」に作詞・作曲・編曲で参加してたりと、これまでにも界隈では活躍していた模様です。
↑であがったアーティストの名前を見ただけで「ああ、間違いなさそう」って思っちゃいますよね。
Bruno Mars, Anderson.Paak, Silk Sonic – 『An Evening with Silk Sonic』
リリース:2021年11月12日
アンダーソン・パークとブルーノ・マーズのユニットSilk Sonicの作品です。この二人のコラボレーションとなれば嫌でも注目しちゃいます。
シングル「Leave the Door Open」が始まりで二人のコラボを知った僕ですが、そのMVに驚愕。スタジオで生演奏しているところをMVにしちゃう感じが、楽曲と二人の色気をバチッと表現していて秀逸だなと。映像のルック(映像の見た目や色味・雰囲気)やクオリティもバッチリでした。
本作(というかこの二人のコラボ自体に言える事かもしれないです)は「生音」にこだわりが感じられる作品で、アンダーソン・パークはインタビューで以下のように語っています。
「正直なところ、トリックやギミックを使わずにこのようなやり方をしているミュージシャンはあまりいないよね」SOURCE
「僕らは本物のドラム、ベース、ギターやピアノを持っている。曲を作っているんだよ。オートチューンを使っている人を悪く言うつもりはないけど、時々周りを見渡してみると、僕らは本当にそれを実現しようとしている最後の人間のような気がするんだよね。あのエネルギーを保ち、現代的で楽しいものにできたのは素晴らしいことだと思うよ」SOURCE
音楽制作の主流が「オートチューン」によってもたらされている現代。生音・生演奏で曲を作る良さや、エネルギッシュさにポジティブなものを感じているそうです。これをふまえて「Leave the Door Open」のMVに立ち戻ると、さらに音楽のエネルギーを感じます。
リスナー側が聴くものの多くが「データ」であることが多いですが、アンダーソン・パークが語った想いをふまえ、「生」を意識して聴くとまた違った雰囲気を楽しめる作品かもしれません。
最後に
2021年リリースの作品を8つ紹介させていただきました。
追いきれなかった作品もあるんだろうなあ。と感じながらも、自分の追いかけられる範囲で、自分の嗅覚を頼りに、こういった紹介がこれからもできればと思います。
前回はHIPHOP編と題した2021年作品紹介をしてますので、そちらも合わせてご覧いただけると幸いでございます。